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No.241 - ウリ科野菜による中毒の危険性 [科学]

No.178「野菜は毒だから体によい」の関連記事です。No.178で書いたことを要約すると次のようになります。

植物は昆虫や動物から守るため、毒素をもつように進化してきた。

これらの毒素のなかには人間にとって "ホルミシス" を起こすものがある。ホルミシスとは、少量を摂取すると有益だが、多量に摂取ると有毒になる現象を言う。

ホルミシスを起こす毒素を少量摂取すると、人間の体はそれを排除しようとして活性化する。これが人体にとって有益となる。

ホルミシスの一つの例だが、カレーの香辛料の一つであるターメリックに含まれるクルクミン(黄色の物質)は、脳において活性酸素を除去する抗酸化酵素の生産を促進するように働く。これがアルツハイマー病の直接原因であるベータアミロイドの蓄積を減少させる。

ターメリックに関して思い出しましたが、よく「インド人には認知症が少ない」と言いますよね。これは疫学的にも確かなようです。これもホルミシスの効果かも、と思ったりします。

しかしホルミシスの原因物質は「微量だと益になる」わけで、毒素であることには変わりありません。薬か毒かは一つの物質の表と裏です。そしてそれは植物が敵(昆虫や動物)を撃退するために発達せた "毒" が本来の姿なのです。

この「植物に含まれる毒」に関して、意外にも身近な野菜で中毒を起こす場合があるという記事を最近読みました。今回はそれを紹介したいと思います。2018年8月9日の Yahoo Newsに、

  ズッキーニやヘチマなど「ウリ科野菜」中毒の危険性

と題したコラムが掲載されていました。書いたのはライター・編集者の石田雅彦氏です。石田氏は Yahoo News のプロフィールでは「横浜市立大学・共同研究員」「自然科学から社会科学まで多様な著述活動を行う」「日本科学技術ジャーナリスト会議(JASTJ)会員」とあるので、今回のコラム記事に関して言うと "科学ジャーナリスト" が適切な肩書きだと思います。このコラムには13の引用文献が明示されていて、いかにも科学ジャーナリストという感じがしました。以下、石田氏の記事の内容を紹介します。


ウリ科野菜


ウリ科の植物は人類の歴史上、極めて古い作物や野菜を含んでいます。つまり、

キュウリ
ズッキーニ
トウガン
ゴーヤー(ニガウリ、ツルレイシ)
ヒョウタン
ヘチマ
ユウガオ(カンピョウの原料になる)
カボチャ
メロン
スイカ
マクワウリ

などです。このウリ科植物を食べて、希に嘔吐や下痢などの中毒症状を起こすことが報告されています。原因物質はウリ科植物に含まれる苦味成分の "ククルビタシン"(Cucurbitacin。AからTまでの18種ある)です。ククルビタシンはウリ科植物以外にも、アブラナ科の植物や香木の沈香、ある種のキノコ(ベニタケやワカフサタケの仲間)、あるいは海の軟体動物にも含まれます。

ウリ科植物に含まれるククルビタシンによる中毒の事例は数々報告されています。石田氏の記事から紹介すると以下です(記事には引用元が明示されていますが省略しました)。


2001年には沖縄で自家栽培のヘチマを食べて30分後に嘔吐し、下痢が止まらないという人が出た。この場合、ククルビタシンの量は少なかったが、それでも中毒症状を引き起こした。

2007年には、長野県で自家栽培したヒョウタンの塩漬けを食べた直後に嘔吐し、吐血と下血して救急外来へ駆け込んだ事例が報告されている。これはヒョウタンに含まれるククルビタシンBによる十二指腸炎と診断された。

2008年には自家栽培したヘチマを食べ、これまでに経験したことのない苦味を感じて保健所に相談した事例が沖縄でいくつか報告されている。沖縄といえば同じウリ科のゴーヤーだが、味噌煮にしたヘチマや煮物や汁物にしたユウガオ(チブル)も食べる。

2014年には岡山県でズッキーニを食べた男女14人が、下痢や腹痛などの食中毒症状を訴えていたことがわかっている。同年、岡山県は「強い苦味のあるウリ科植物にはご注意ください」という注意喚起を出した。

2018年には、フランスでカボチャの(Squash)スープを食べたフランス人が中毒になり、嘔吐や下痢、1週間後に頭髪や陰毛の脱毛の症状を起こしたという2症例の報告が出された。フランスではカボチャを多く消費するが、2012~2016年にフランスの毒物管理センターに報告されたカボチャ中毒は353人に上るという。

日本でも最近(2018年5月)、長野県がウリ科植物に注意喚起をし、カンピョウの原料になるウリ科のユウガオで食中毒の危険性があるとしている。ユウガオはスイカなどを栽培する際の接ぎ木の台木に使用されることがあり、この台木からとれるユウガオの実にククルビタシンが多く含まれる場合があるそうだ。

石田雅彦
Yahoo News(2018年8月9日)

苦い野菜の代表格はゴーヤーですが、ゴーヤーの苦味はククルビタシンもありますが、そのほとんどは中毒を引き起こさないモモルジシン(momordicin)によるものです。沖縄ではゴーヤーの苦みに慣れっこになっています。石田氏の記事には「沖縄県では、ゴーヤーより苦いヘチマやユウガオは中毒の危険性があるので注意するように喚起しているが、ゴーヤーに慣れているせいか多少苦くても食べてしまうケースが多い」とありました。上の引用にあるヘチマ中毒が報告されたゆえんです。

普通、キュウリやスイカ、メロン、ズッキーニなど食用のウリ科植物には、ククルビタシンは含まれていないとされています。これらの野菜は長い品種改良の結果、苦味成分を除外し、ククルビタシンを含まないように栽培されてきたからです。

たとえばキュウリ(Cucumber)の原産地は中東と考えられていて、その後、東西へ伝えられて、日本でも古くから食用の野菜になってきました。キュウリの遺伝子を調べた研究によれば、野生種の苦いキュウリがこれまで4段階を経て品種改良され、食用になったことがわかったそうです。この研究では、キュウリの苦味が葉と実の遺伝子に分けられた結果、実のほうに苦味が少なくなったといいます。

このように食用野菜は安全なのですが、しかし連作や水やりの不足、温度変化、野生種や観賞用植物などからの花粉飛来や昆虫の受粉による交雑などの要因で、ククルビタシンを多く含むウリ科野菜ができてしまうことが希にあるようなのです。

石田氏は「キュウリやズッキーニ、ヘチマなどを食べる際には、切り口を少しなめてみて、もしも強烈な苦みがあり違和感があったらすぐ食べるのは避け、保健所などに相談したほうがいいだろう」と書いています。キュウリのヘタの部分が苦いことはありますが、切り口が苦いというのは普通ありません。普通は苦くない部分が苦いのは要注意、ということだと思います。


有毒な野生種を食用と見間違う


石田氏はさらにウリ科植物から離れて、有毒な野生種を食用の植物と見間違う場合があることに注意を喚起しています。


2018年7月23日には北海道でイヌサフランの球根(鱗茎)をジャガイモと間違えて食べて食中毒で亡くなった人が出た。イヌサフランには有毒なアルカロイドの一種、コルヒチン(Colchicine)が含まれ、呼吸困難などの症状を引き起こす。

ほかにもニラに似たスイセン(ヒガンバナ・アルカロイド)、フキノトウに似たナス科のハシリドコロ(ヒヨスチアミン、Hyoscyamineなど)、セリに似たドクゼリ(シクトキシン、Cicutoxinなど)など、間違えやすく毒性の強い植物は多い。

石田雅彦
Yahoo News(2018年8月9日)

子供のころにヒガンバナ(彼岸花、曼珠沙華)は毒だと教えられたことがあります。日本で水田のあぜ道にヒガンバナが植えられたり、また墓地(昔は土葬)に植えられたりしたのは、ネズミ、モグラ、虫などがその毒性を嫌って忌避するようにという工夫だったようです。

ヒガンバナ科の植物に含まれるアルカロイドを「ヒガンバナ・アルカロイド」と総称しますが、その中のリコリンは有毒です。そしてスイセンもヒガンバナ科の植物であり、全草が有毒です。スイセンの葉は形だけを見るとニラとそっくりなので、誤食による中毒も起こるのでしょう。

イヌサフラン(花).jpg
イヌサフラン(葉).jpg
イヌサフランの花と葉。いずれも有毒。
厚生労働省「自然毒のリスクプロファイル」より


ハシリドコロとフキノトウ.jpg
ハシリドコロの若い芽生え(左。有毒)と、フキの花(フキノトウ)の芽生え(食用)
厚生労働省「自然毒のリスクプロファイル」より


自然毒のリスク・プロファイル


石田氏のコラム記事からは離れますが、厚生労働省はホームぺージの中に「自然毒のリスクプロファイル」というページを設けています。これは動物性自然毒(=魚介類の毒)と植物性自然毒(キノコ毒、および高等植物毒)に分けて、その毒性や中毒事例をまとめたものです。石田氏のコラムで紹介されている植物は「高等植物毒」のカテゴリーにあって、ウリ科植物ではユウガオの毒性が紹介されています。

「自然毒のリスクプロファイル」にある高等植物毒の中で少々意外なのはアジサイです。アジサイの葉は刺身のツマのように時々料理に添えられることがあり、それを食べた人が中毒症状を起こした事例があるようです。アジサイがなぜ中毒を起こすのか、まだ本質的な解明はされていないようです。

高等植物毒で最も有名で、かつ身近な野菜はジャガイモです。よく知られているようにジャガイモの芽と、光が当たって緑になった皮の部分にはソラニンという毒素が含まれています。中毒症状を起こす事例も毎年出ているようです。

No.206「大陸を渡ったジャガイモ」で紹介しましたが、ジャガイモは南米のアンデス山脈の高地が原産です。山本紀夫氏「ジャガイモとインカ帝国」(東京大学出版会。2004)によると、アンデス高地には現在でもジャガイモの野生種が自生しています。しかし野生種は小指ほどの大きさしかなく、イモ全体にソラニンが含まれるため食用には向きません。この野生種から栽培種を作り出したのがアンデスの人々です。栽培種は、芽の部分にはソラニンがありますが、基本的に煮るだけで食べられます。この栽培種が全世界に広まり、19世紀ごろまでは「貧者の食べ物」として多くの人々の命をつないできたわです。

人類は農耕を始めてから、野生の植物を何とか食べられるように改良してきて、ジャガイモはその一例です。しかし本来、植物の毒は植物の防衛のためにできたものです。ウリ科植物に希に食中毒を起こす個体ができるというのは本来の姿が戻ったわけで、驚くに当たらないのでしょう。



ウリ科植物で中毒を起こすククルビタシンは、苦いと感じる物質です。この例のように「苦味」は基本的に「危険」のサインです。では「苦味」を忌避したらいいのかと言うと、そうではありません。No.177「自己と非自己の科学:苦味受容体」に書いたように、人体は苦味を感じるとその原因物質を排除しようと活性化します。それは安全な苦味(たとえばコーヒー)でも起こる。このメカニズムは最初に書いたホルミシスと同じです。ククルビタシンを含む植物が漢方薬でも使われるように、有害と有益は表裏一体なのです。我々は「ダメージにはならない程度の、ごく小さな危険」と常時接することにより、防御反応を活性化させ、それが体にとって有益になる ・・・・・・。それは、No.225「手を洗いすぎてはいけない」で書いた、「微生物と常に接する環境でこそ人間は健康に過ごせる」ことと相似形だと思います。



 補記1 

ギョウジャニンニク(葉).jpg
ギョウジャニンニクの葉
2019年4月17日に群馬県でイヌサフランの誤食事故が発生しました。ギョウジャニンニクと誤認したそうです。ギョウジャニンニクはニンニク臭のある山菜で、"ギョウジャ" は山にこもる修験道の行者の意味です。厚生労働省の「自然毒のリスクプロファイル」のページには、イヌサフランに似た草としてギョウジャニンニクがわざわざ掲げてあります。


群馬県は20日、有毒植物のイヌサフランを食用のギョウジャニンニクと誤って食べた同県渋川市の70代夫婦が、食中毒症状を起こし病院へ搬送されたと発表した。夫は呼吸困難となり、意識不明の重体、妻は嘔吐(おうと)や下痢の軽症だという。

県食品・生活衛生課によると、夫婦は15日に知人宅の敷地内に自生していたイヌサフランをギョウジャニンニクとして譲り受け、17日昼に炒め物にして食べた。その後、下痢や嘔吐の症状が出て、17日夜に市内の病院に搬送された。病院から連絡を受けた県渋川保健福祉事務所が調べ、20日に食中毒と断定したという。

同課によると、イヌサフランは毒の強いユリ科の植物で、葉がギョウジャニンニクと似ている。同課は「食用と確実に判断できない植物は、絶対に採らない、食べない」と呼びかけている。(丹野宗丈)

朝日新聞デジタル(2019年4月20日)

(2019.4.21)



有毒植物のイヌサフランを食用のギョウジャニンニクと誤って食べた群馬県渋川市の夫婦が食中毒症状となって市内の病院に搬送された事故で、県警渋川署は22日、意識不明の重体だった夫(72)が死亡したと発表した。軽症だった妻は退院したという。

署や県によると、夫婦は15日、知人からイヌサフランをギョウジャニンニクとして譲り受け、17日に炒め物にして食べた。夫婦は夜に体調不良となって病院で治療を受けていたが、夫が22日午後2時50分ごろ死亡した。署は今後、食中毒との因果関係について調べる。

朝日新聞デジタル(2019年4月22日)

山であれ、宅地の敷地内であれ、とにかく自生しているモノを食べるのは絶対に要注意、ということでしょう。

(2019.4.23)


 補記2 

2019年6月に秋田県鹿角かづの市で、イヌサフランの誤食による死亡事件が発生しました。今度はギョウジャニンニクではなく、"ウルイ" と誤認したようです。


イヌサフランで食中毒 女性死亡

NHK NEWS WEB(秋田)
(2019年6月5日 21:18)

3日、有毒なイヌサフランを山菜と間違えて食べた鹿角市の80代の女性が、4日夜遅く、入院していた病院で死亡しました。

亡くなったのは鹿角市に住む80代の女性で、3日、自宅の敷地に生えていた有毒のイヌサフランを山菜のウルイと間違えて食べ、おう吐や下痢などの症状を訴え、食中毒と断定され、市内の病院に入院していました。県によりますと、女性の症状は一時、回復に向かっていたということですが、4日夜遅くに呼吸が弱くなり、まもなく死亡したということです。

病院からの報告では、女性の死因は「イヌサフランを食べたことによる中毒死」だといことです。

イヌサフランによる食中毒はおう吐や下痢のほかに、呼吸困難や知覚障害などの症状も引き起こすおそれがあるということで、県生活衛生課は、山菜を食べる際にはよく観察して確認するよう注意を呼びかけています。


ちなみにウルイとは、オオバギボウシ(大葉擬宝珠)の若葉で、春の山菜として賞味されます。Wikipediaには「サクッとした歯ごたえでクセがなく、育ちすぎた葉は苦いが、軽いぬめりも魅力である。乾燥させて保存食にも利用され、山かんぴょうの名もある」とあります。山形県ではハウス栽培もされ、また光を遮断して栽培したものを「雪うるい」というブランドで出荷しています(次の画像)。

ウルイ.jpg
ウルイ(左画像)と、山形のブランドである「雪うるい」(右画像。光を遮断して栽培したもの)。「おいしい山形」ホームページより。

別の報道では、死亡した女性の自宅敷地にはウルイも自生していたとありました。厚生労働省の「自然毒のリスクプロファイル」にはイヌサフランと間違えやすい植物として、ギョウジャニンニクに加えて「ギボウシ」が写真とともに掲載されています。ウルイ(オオバギボウシ)はそのギボウシの一種です。とにかく、自生しているものを食する時には採取したものを1本1本、慎重に確認するのが必須ということでしょう。

(2019.6.6)


 補記3 

2019年7月9日に、兵庫県宝塚市でジャガイモによる食中毒が発生しました。それを報じたNHK News(Web版)を以下に引用します。


ジャガイモで児童13人食中毒か

NHK News Web(兵庫)
2019年7月9日 14時48分

宝塚市の小学校でジャガイモを食べた児童13人が食中毒とみられる症状を訴え、病院に救急搬送されました。重症の子どもはいないということですが、市の教育委員会が詳しい状況を調べています。

宝塚市消防本部によりますと、9日正午すぎ、宝塚市立美座小学校から「けさ掘り出したジャガイモを食べたところ7人が体調不良を訴えた」と通報がありました。消防が医師などとともに駆けつけたところ、小学5年生の男女あわせて13人に、吐き気や腹痛など食中毒とみられる症状が確認され、市内の病院に救急搬送されました。

学校では9日、校内の畑で収穫したジャガイモを使った調理実習が行われ、午前10時ごろから児童30人と教員1人がジャガイモの料理を食べたということです。これまでのところ、重症の子どもはいないということですが、市の教育委員会が搬送されるまでのいきさつなど詳しい状況を調べています。

【「ソラニン」に注意】

兵庫県などによりますと、子どもたちが学校で栽培したジャガイモを食べて食中毒になるケースは全国で相次いでいるということです。ジャガイモの芽や緑色に変色した部分には、「ソラニン」という有毒成分が含まれていて、食べた場合、吐き気や腹痛、めまいなどを起こす場合があるということです。

「ソラニン」は、加熱しただけでは除去できないということで、兵庫県生活衛生課は「ジャガイモを食べる際は必ず芽の部分を取り除き、少しでもえぐみやしぶみを感じたら食べるのをやめてほしい」と呼びかけています。

【食中毒に詳しい専門家は】

ジャガイモを食べた小学生が食中毒とみられる症状を訴えて集団で搬送されたことについて、食中毒に詳しい大阪市立大学大学院生活科学研究科の西川禎一教授は、「ジャガイモは芽の部分や光が当たって緑色になった皮の部分に、ソラニンという自然毒が含まれている。こうした部分を食べると下痢やおう吐、それにめまいなどの症状を起こすので注意が必要だ」と指摘しています。

また、関西では今の時期にジャガイモを収穫することが多く、食中毒が発生しやすいということで、西川教授は「ソラニンは熱に強いため加熱調理をしても完全に無くすのは難しく、調理する際、芽や緑色の皮をしっかり取り除くことが重要だ」と指摘しています。

また、小さい芋に比較的ソラニンが多く含まれているとして、家庭菜園や学校で食中毒を防ぐためには、栽培段階で芽を間引くことで小さな芋がたくさん実るのを防ぐことや、芋に光が当たらないようしっかり土をかぶせるなどの対策をとってほしいと呼びかけています。


このニュースで少々驚くのは、児童30人を指導した教員の方が「ジャガイモには毒が含まれる(ことがある)」という知識をもっていなかったことです。ジャガイモの芽の部分や緑に変色した皮が毒だというのは一般常識だと思っていましたが、どうもそうではないようです。プロの農家が栽培したジャガイモだから(芽が出ない限りは)安全なのです。アマチュア(しかも小学生)が栽培したジャガイモなどは注意すべきで、大阪市立大学の教授が言っているように「芽や緑色の皮をしっかり取り除くことが重要」なわけです。この程度の知識がない教員の方が小学生を指導し、ジャガイモを自家栽培し、それを調理実習に使うというのがびっくりです。しかも、ニュースによると全国の小学校で相次いでいるらしい。

No.206「大陸を渡ったジャガイモ」で書いたように、ジャガイモは南米アンデス山脈の高地が原産地で、ソラニンの毒素のためにそのままでは食べられなかった野生種を、アンデスの民が品種改良をして食べられるようにしたものです。しかし完全に無毒というわけではない。

大事には至りませんでしがた、この "中毒事件" 起こした教員の方には是非、野菜(ジャガイモ)とその成り立ちにもっと興味を持って欲しいものです。

(2019.7.17)


 補記4 

ニラと間違えてスイセンを食べるという中毒事件が、2019年11月21日に千葉県市川市で発生しました。何とこの "ニラ" は青果店で買ったものというのです。


ニラと間違えスイセン販売
3人おう吐 千葉の青果店


NHK New Web
2019年11月25日 23時35分

今月、千葉県市川市の青果店で毒のある植物をニラと間違えて販売し、購入して食べた家族3人がおう吐などの症状を訴えていたことが分かりました。保健所は業者に回収を命じるとともに、買った人は絶対に食べないよう注意を呼びかけています。

千葉県によりますと、今月21日、市川市の住民から「青果店で購入したニラを家族3人で食べたら全員がおう吐した」と、市川保健所に連絡が入ったということです。

保健所が調査したところ、市川市東菅野の青果店「たじま屋」で今月11日から14日ごろにかけてニラとして販売されたものが有毒のスイセンだったことが分かったということです。

これは青果店近くの雑木林で刈り取られたもので、市川保健所は25日、販売業者に回収を命じましたが、9束のうち5束が回収できていないということです。

千葉県はこのスイセンを買った人は絶対に食べないこと、もし、おう吐などの症状が出ている場合には、すみやかに医療機関を受診するよう呼びかけています。


ニラとスイセン.jpg
(NHK New Web より)

普通、青果店で販売する野菜や果物は、青果市場から仕入れたものか、近隣の農家と契約して直接仕入れたもの(この場合はニラ農家から)だと信じていました。しかしどうも違うようです。

この青果店の店主は、山菜採りよろしく近くの雑木林に行って "ニラ" を刈り、原価ゼロの商品を通常価格で販売して利益を出そうとしたようです。しかも野菜についての知識が乏しい。この「農家が栽培したもの以外の野菜が青果店で販売される」というのは、極めて特殊な例なのでしょうか。それとも氷山の一角なのでしょうか。気になりました。

余談ですが、スイセンは英語で Narcissus ナーシサス ですが、これはギリシャ語の「麻痺する」とか「痺れる」という意味の言葉に由来します。スイセンが毒だということは古代から知られていたようです。

(2019.12.1)


 補記5 

2020年7月9日、長野県内でウリ科の野菜であるユウガオによる食中毒事件が発生しました。


ユウガオで食中毒
男女2人が嘔吐や下痢
保健所が注意喚起
「強い苦み感じたら、絶対に食べないで」


FNNプライムオンライン(長野放送)
2020年7月12日 7時30分

9日、長野県安曇野市の農産物直売所で「ユウガオ」を買って食べた男女2人が食中毒の症状を訴え、一時、入院していたことがわかりました。

県大町保健所によりますと、食中毒の症状が出たのは北安曇郡内に住む70代の男女2人で、9日、安曇野市の農産物直売所で「ユウガオ」を購入し、炒めて食べたところ、強い苦みを感じ、その約30分後、嘔吐や下痢などの症状が出たということです。

2人は一時、入院しましたが、現在は退院し快方に向かっています。また事態を受けて農産物直売所はユウガオの自主回収を行っています。

県大町保健所はユウガオの苦み成分「ククルビタシン類」による食中毒と断定し、ユウガオに苦みを感じた場合は、絶対に食べず、破棄するよう呼びかけています。「ククルビタシン類」は観賞用のウリ科植物に含まれる苦み成分で、ごくまれに食用のユウガオにも含まれている場合があり、県内では昨年度も2件7人の食中毒が発生しています。


ユウガオ1.jpg

ユウガオ2.jpg
ユウガオ

ニュース記事の最後に「県内では昨年度も2件7人の食中毒が発生しています」とありますが、調べてみると1件は2019年7月(大町市:自家栽培のユウガオ)、もう1件は2019年9月(茅野市と松本市:同一の地場野菜販売所で購入したユウガオ)に発生していました。

補記1~5の "野菜" による食中毒事例をみると、野菜の入手先には、
 ・自生
 ・自家栽培
 ・農産物直売所
というパターンがあるようです。
(2020.7.13)


 補記6 

2022年4月の上旬、植物の誤食による中毒事故が2件報道されました。一つは死亡事故です。これを受けて朝日新聞に注意喚起を促す記事が掲載されました。それを引用します。


食べちゃだめ! 紛らわしい植物
山菜・野草 春に多い食中毒

朝日新聞 2022.4.27(夕刊)

暖かくなり、庭や野山が若葉色に染まるこの季節。野草や山菜採りにはもってこいだが、そこには「落とし穴」もある。食べられるように見えて食中毒を引き起こす、有毒植物の数々だ。

4月7日の昼すぎ、京都市内の民間の子育て支援施設で、4~6歳の園児2人が、次々に吐いたり熱を出したりした。

市の保健所によると、原因は給食で口にした「ニラのしょうゆ漬け」。「ニラ」とされていたものは、実はよく似ている有毒のスイセンだった。職員が数年前に知人から「ニラだ」と言われて譲り受けたものを施設で栽培していた。給食に出されたのは、この日が初めてだったという。

翌8日には、宮崎県延岡市で、ヤマイモに似た植物のすりおろしを食べた60代男性が、自宅で亡くなっているのが見つかった。

県衛生管理課によると、男性が口にしたのはヤマイモではなく、自宅の庭に植えていた観賞用の花、グロリオサの球根だったとみられる。男性の体内から、球根に含まれる毒性の化学物質「コルヒチン」が検出された。

「また、この時期に起きてしまいましたか」そう話すのは、東京都薬用植物園(東京都小平市)の主任研究員、中村こうさん(58)だ。

厚生労働省のまとめでは、昨年までの10年間で、有毒植物による食中毒は、キノコ類をのぞいても計201件起きている。患者数は749人にのぼり、うち6人が亡くなった。

月別に集計すると、3~5月の3か月間に110件余りと、年間の6割近くが春に集中している。

こうした状況を受け、中村さんは植物園内の実物を使い、有毒植物の見分け方講座を開いてきた。

新型コロナウイルスの影響で、ここ2年は講座を開けなかったため、動画をつくり、都のウェブサイトで公開した。5月9日まで誰でも閲覧できる。

動画は「これ食べられる?有毒植物の見分け方講座」。東京都公式動画チャンネル(https://tokyodouga.jp/)で「食の安全都民講座」を検索する。(阿部峻介)


4月7日の京都市の事故は、子育て支援施設が自家栽培の "野菜" を給食に出したことが原因です。ニラとスイセンが見分けにくいということ以前に、「自家栽培野菜で給食」という行為そのものが決定的にまずいことでしょう。

同じ記事には、過去10年間の誤食事故を厚生労働省がまとめたものがありました。それも引用しておきます。

有毒植物による食中毒発生状況
(厚生労働省まとめ。キノコ類を除く)
(2021年までの過去10年間)
有毒植物 似た植物 事故数 患者数 死亡数
スイセン ニラ、タマネギなど 62 195 1
ジャガイモ
(芽、その付け根)
17 280
チョウセンアサガオ ゴボウ、オクラなど 11 30
バイケイソウ オオバギボウシなど 19 41
クワズイモ サトイモ 19 42
イヌサフラン ギョウジャニンニクなど 119 26 11
トリカブト モミジガサなど 9 17 3
グロリオサ ヤマイモなど 3 3 1
ハシリドコロ フキノトウ、ギボウシ 2 3

オオバギボウシとバイケイソウ.jpg
食用になるオオバギボウシ(左)と、有毒のバイケイソウ(右)。朝日新聞 2022.4.27 より。
(2022.5.10)



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