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No.352 - トキソプラズマが行動をあやつる [科学]

No.350「寄生生物が行動をあやつる」で、トキソプラズマの話を書きました。今回はその補足です。トキソプラズマは単細胞の原生生物ですが、N0.350 の要点は次の通りでした。

◆ トキソプラズマは猫科の動物が最終宿主であり、そこでしか有性生殖できない。

◆ トキソプラズマは人間を含む幅広い哺乳類や鳥類に感染し(= 哺乳類や鳥類は中間宿主)、無性生殖(=分裂)を行う。

◆ トキソプラズマは感染した動物の行動を変える。狼は攻撃的になり、群のリーダになりやすい(仮説)。ネズミは猫を恐れなくなる。

この、トキソプラズマが感染した動物の行動をあやつることに関して、NHK BSプレミアムの番組の中で詳しく紹介されていました。

超進化論 第3集
すべては微生物から始まった
~ 見えないスーパーパワー ~
( NHK BSP 2023年1月8日)

です。今回はその番組からトキソプラズマの部分を紹介します。


超進化論・すべては微生物から始まった


ナレーション(廣瀬智美アナウンサー)

微生物は、ひょっとしたら意志をもっているのではないか。そう、思わせるような研究報告が相次いでいます。何と、感染した生き物の脳を操って自分の味方にしてしまうというのです。

ことの主役はトキソプラズマ。哺乳類や鳥類に感染する微生物です。人間に感染しても、胎児を除けば、ほとんど影響がないと考えられてきました。

チェコ・カレル大学のフレグルさん。トキソプラズマの驚くべき能力を明らかにしました。

ヤロスラフ・フレグル
  (チェコ・カレル大学 進化生物学者)

トキソプラズマは他の生き物を巧みに操ります。ネズミや人間の行動を変えてしまうのです。

ナレーション

ネズミや人間の行動を変える ? それを明らかにしたのがのが、こんな実験。ネズミを入れたケースの中にさまざまな匂いを置きます。ネズミの仲間、住み慣れた藁、そして天敵である猫の匂いです。

まずは、感染していないネズミをこのケースの中に入れます。それほど動き回らず、慎重に様子をうかがっているようです。苦手な猫の匂いも、確かめには行くものの、やはり、あまり寄りつきません。結局、住み慣れた藁や、何もない場所に長く滞在し、猫の匂いを置いた区画にいた時間は全体の 11% でした。

ところが、トキソプラズマに感染したネズミの場合、おやっ、苦手なはずの猫の匂いに近寄っています。

トキソプラズマ1 - 感染していないネズミ.jpg

トキソプラズマ2 - 感染しているネズミ.jpg
3つの匂いを入れた瓶を用意し、この上から撮った画面の左上には「自分の住処の匂い」、左下に「他のネズミの匂い」、右上に「天敵の猫の匂い」を置く。右下には何も置かない。この状態でネズミの4つの区画の滞在時間を調べる。

(上図)トキソプラズマに感染していないネズミは、左上「自分の住処の匂い」、右下「何も置かない」の滞在時間が長くなった。

(下図)トキソプラズマに感染したネズミでは、右上「天敵の猫の匂い」の区画に最も長く滞在した。
(NHK BSプレミアムより)

今回の実験では、猫の匂いの近くにいた時間が、先ほどの3倍。トキソプラズマに感染したネズミは、良く言えば大胆、悪く言えば慎重さに欠ける行動をとるようになるのです。

いったいなぜ、こんなことが起きるのか。実は、トキソプラズマには猫科の動物の体内でのみ子孫を増やせるという性質があります。ネズミに感染してしまうと、子孫は増やせない。そこで、ネズミの脳の働きを攪乱させ、猫に食べられやすくなるように操っているのではないかと考えられるのです。

ヤロスラフ・フレグル

こうしてトキソプラズマは、自分にとって子孫を残せる場所、つまり猫科の動物の胃袋にたどり着くことができます。なかなか洗練された戦略でしょう ? 高度な知性があるようにすら思えます。

ナレーション

では、人間がトキソプラズマに感染した場合にも、行動に変化は出るのでしょうか ───。ひょっとすると、大胆さが幸いして、企業の経営者などに向いているのではないかなど、さまざまな仮説が語られています。

一方、フレグルさんがデータを分析したところ、思いもよらない傾向が浮かび上がりました。それは交通事故。何と、感染した人は、していない人に比べて、事故の割合が 2.65 倍 高かったのです。行動を大胆に変化させるというトキソプラズマの働きが人間にも影響していると、フレグルさんは考えています。

トキソプラズマ3 - 交通事故.jpg
(NHK BSプレミアムより)

ヤロスラフ・フレグル

感染者の行動や振る舞いは、体内にいる微生物に左右されていると考えられます。性格や人格というのは、私たちにとって一番大事で誇りに思う部分でもあるでしょう。しかし実際には、遺伝や環境に操られています。微生物たちも、その環境の一つと考えるべきなのです。



トキソプラズマ関連の番組のナレーションはここまでです。


微生物と脳の働き


トキソプラズマが感染した哺乳類の行動を変えるというのは、さまざまな報告があるようです。番組で紹介されたのはネズミでの実験ですが、ナショナル・ジオグラフィック(2021.7.11 デジタル版)によると、トキソプラズマに感染したハイエナはライオンに近づき過ぎて、ライオンに襲われやすくなるそうです。

人間に感染している微生物は、それが人間と共生しているかどうかは別にして、身体に影響を与える(ことがある)のは常識です。だとすると、脳にも影響を与えると考えられます。性格やパーソナリティは遺伝と環境に影響されます。その環境の一部が微生物です。脳が感染している微生物に影響される(ことがある)のは、むしろ当然だと考えられます。

病気も含む「人間の精神のありよう」と微生物の関係は、今後の研究が進む分野であると思いました。




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