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No.317 - プラセボ効果とノセボ効果 [科学]

No.302「ワクチン接種の推奨中止で4000人が死亡」に続いて、ワクチンや治療薬の副反応・副作用の話を続けます。No.302 で書いたことを要約すると以下でした。

◆ ヒトパピローマウイルス(HPV, Human papilloma virus。papilloma = 乳頭腫)が引き起こす子宮頸癌で、世界で毎年およそ 27万人が死亡していた。

◆ HPV感染を予防する「HPVワクチン」が開発され、日本ではグラクソ・スミスクラインが2009年12月から「サーバリックス」を、またMSD(米国の製薬大手、メルクの日本法人)が2011年8月から「ガーダシル」の販売を始めた。このワクチンは、日本では2013年4月に "定期接種化" された(=ある年齢がくれば公費で接種が受けられる)。

◆ ところが定期接種化から2ヶ月後の2013年6月14日、厚生労働省は HPVワクチンの「積極的な接種勧奨の一時停止」を発表した。接種後に、けいれんする、歩けない、慢性の痛みがある、記憶力が落ちたといった、様々な症状を訴える人が相次いだからだった。

◆ この "一時停止" は今も続いている(2020年末現在)。一方、HPVワクチンは承認されたままであり、公費による接種を受けることができる(=定期接種の対象)。

◆ 厚生労働省は専門家を集め、子宮頸がんワクチンの安全性について様々な角度から検討した。そして2013年12月に、ワクチン接種後の症状は「身体表現性障害」の可能性が高いという見解を発表した。身体表現性障害は、身体的な異常はないのに痛みや恐怖、不安、プレッシャーなどをきっかけに生じる身体の症状のことである。

◆ しかし「積極的な接種勧奨の一時停止」の結果、70パーセントだった接種率が2017年には1パーセント以下までに下がった。このように接種率が激減した国は日本しかない。

◆ その間、2016年に、ワクチン接種によって被害を受けたとして、国と製薬会社2社を相手に、賠償を求める世界初の集団訴訟が起こされた。

◆ 販売開始後の臨床試験が進むにつれ、HPVワクチンの効果を証明するデータがそろってきた。スウェーデンのカロリンスカ研究所は2020年10月、10~30歳の女性が接種すると子宮頸がんの発症リスクが63%減るとの研究成果を発表した。10~16歳で接種した人に限ると、発症リスクは88%減っていた

◆ ワクチンの副反応についても研究が進み、接種しても発症リスクは変わらないとの報告が相次いでいる。名古屋市立大学の2018年の報告では、名古屋市の約3万人の女性を対象に接種の有無ごとの発症リスクを比較し、痛みや意図しない体の動きなどの接種後に報告された24の症状について、接種で発症リスクが上がることはなかったとした。また、2020年9月にはデンマークの研究チームが、慢性的な痛みが続く「複合性局所疼痛とうつう症候群」などと接種との因果関係はないと報告した。

◆ 大阪大学の研究チームは2020年10月、接種率が激減した2000~03年度生まれの女性では、将来、避けられたはずの子宮頸がんの患者が計1万7千人、死者が計4千人発生するとの予測をまとめた。

この経緯のキーワードは、ワクチンの副反応(治療薬では副作用)です。おりしも現在、新型コロナウイルスのワクチンの副反応がメディアなどで報告され、話題になっています。「副反応が心配だから接種は様子見」という人もいるようです。

この副反応を理解し、正しく認識する上で是非とも知っておきたいのが「プラゼボ効果とノセボ効果」です。今回その話を書きます。プラセボとはにせの薬、偽薬ぎやくのことです。これは新しい治療薬やワクチンの効果を実証するのに無くてはならないものです。そして「プラセボ効果」と「ノセボ効果」の意味は、


プラセボ効果
プラセボを投与された人に、症状の改善など好ましい効果が現れること

ノセボ効果
プラセボを投与された人に、望まない有害事象が引き起こされること


です。ワクチンの副反応に関係するのはノセボ効果ですが、プラセボ効果とノセボ効果は「表と裏」の関係にあるので、両方を知ることがヒトの身体の理解につながります。そこで以下ではこの2つについて、最近のテレビとメディアの記事から紹介します。まずプラセボ効果です。


プラゼボ効果(NHKの番組より)


2021年6月23日のNHK総合「ガッテン!」は「最新科学で迫る! 不思議☆発見 "おまじない" の世界」とのタイトルでしたが、その中で医学界におけるプラセボ効果の実例の紹介と、専門家へのインタビューがありました。まず、現役の4名の看護師さんへのインタビューです。その発言を採録しますが、必要に応じて( )で意味を補いました。

現役の看護師さんへのインタビュー


長い間寝てなきゃいけなくて、動いたりできない患者さんに、不安とか痛みとか出てきたときに、"落ちつくような薬をください" って言われて、(医師の指示で)生理食塩水を投与(=注射)させてもらって、入ったって分かると "ありがとう" みたいな ・・・・・・。そうすると寝て(透析の)時間を終えられるっていう(ことがありました)」【人工透析の患者さんの実体験】

ナースコールで呼ばれたときに "痛み止めが欲しい" って言うけど、あまりにも頻回すぎて、先生と相談して乳糖の粉末を代わりに "先生の処方を出してもらったので、これでちょっと様子を見ましょうか" みたいな ・・・・・・。"ちゃんと先生に確認したものですよ"、"ちょっと強めのを持ってきました"。そうすると、一時はナースコールがなくなって、本人もおだやかになっていました」【全身に痛みがある難病患者さんの実体験】

ちゃんとドクターの指示で(偽薬を)薬剤部が作って、1包化してくれて、それを普通に渡します。"何時以降"、"不眠訴え時" みたいに指示を書いてくれて」

できることはやってあげたい」

痛い、痛いと言われて、患者さんが痛いって言ってるんだからどうにかしてあげたい」

ちょっとでもやわらげたいっていう、それだけですよね。痛いとか、かゆいとか、苦痛なことがちょっとでも和らげばいい。不快を少しでもなくせれば」


番組では352人の看護師へのアンケート結果の紹介がありました。それによると、86% の看護師の方が偽薬を使ったことがあるとのことです。この回答や上のインタビューでもわかるように、偽薬の使用はれっきとした医療行為です。つまり、効き目の強い鎮痛剤の場合、たとえば8時間の間隔をあけて投与することとの指示があったとします。しかし、その8時間の途中で痛みを訴えられたらどうするか。本物の薬だと投薬過剰になり、場合によっては命の危険もありうる。そこで偽薬を投与するわけです。

もちろん偽薬が効かない場合も多くあります。しかし効果が出ることもある。そして、効果があるのなら使いたい。

我々はふつう「体に痛みの原因があり、それが神経で脳に伝わって痛む」と考えます。鎮痛剤は「痛みの原因を無くすか、神経の伝達を遮断するから効く」と考えます。しかしプラセボ効果の実例は、そのようなことだけではないことを示しています。

カナダとアメリカの事例

番組ではカナダとアメリカの事例が、患者本人へのインタビュー映像を交えて紹介されていました。


カナダで暮らすポール・パターソンさん。およそ20年前、ある病気の診断をうけました。

医師を訪ねると、一目見るなり、あなたはパーキンソン病ですと告げられたんです」

パーキンソン病は脳に異常がおきて(運動機能など)さまざまな症状に悩まされる病気です。パターソンさんは手足の震えや筋肉のこわばりのため、歩くこともままならなくなりました。

ある日、パターソンさんはプラセボ効果に関する実験に参加することになりました。被験者には、本物の薬か偽の薬かのどちらかを投与します。そのうちあなたにどちらを渡すかは明らかにしません、と告げ、カプセルを渡します。しかし実際に配られるのはすべて偽の薬です。本物かもと思ったときにプラセボ効果がどう現れるかを確かめる実験だったんです。

パターソンさんにも偽の薬が渡されました。なので、もちろん効果がでるはずはありません。しかし予期せぬ出来事がおこったんです。

新しい薬を渡されました。飲んで30分ほどすると、突然効果を感じたんです」

何とパターソンさんの症状はみるみるうちに改善。1人で歩けるまでになったんです。パターソンさんは自分が飲んだのが本当の薬だと信じ込んでいたと言います。

驚きました。薬なしであんなことができるはずないんです。私は本物の薬が効いてくるときの感覚を知っています。それと同じ感覚を偽の薬で作り出せるなんで不思議でした」



アメリカに住む、ボニー・アンダーソンさん。ある日、ふとしたことがから大怪我を負ってしましました。

キッチンの床ですべって、すってんころりと転んでしまったんです。そのまま動けませんでした。背骨が折れてしまったようで、本当に耐えられない痛みだったんです」

診断の結果は脊椎の骨折。全治数ヶ月という重傷でした。アンダーソンさんは骨折した箇所にセメントを注入する手術を受けることに。

しかしアンダーソンさんも偽の手術を受けることになりました。セメントを注入する治療法に本当に効果があるのかを確かめるための臨床試験でした。手術室に入ると背中に局所麻酔を打たれます。しかしセメント注射はされず、指で体を押されただけで終了。局所麻酔なので意識はありましたが、(偽の手術だと)気づくことはなかったんです。自分では本当に手術を受けたと思いこんでいたアンダーソンさんにも奇跡のようなできごとが・・・・・。

効果は絶大でした。楽に動き回れるようになったんです。1週間でゴルフまでできてしまったんです」

何と指で背中を押しただけだのに、痛みが消え去ったと言うんです。



もちろんこの2人に起こったことは一時的な効果。その後、一般的な治療を受けたと言います。


プラセボは本物の薬の効果を確かめるために用いられるものです。つまり、効果がないことが前提の偽薬です。それでもこういった事例が起こる。ただし、これらは少ない例です。番組でも、

パターソンさんやアンダーソンさんのような例はほんの一部だということに注意ください

と断っていました。プラセボは薬ではないので、医薬品の認可をうけずに販売できます。番組ではプラセボが食品として一般販売されていることを紹介していました。いかにも薬の錠剤らしい外観とパッケージです。こういった "見た目" が大切なことも理解できます。

専門家へのインタビュー

さらに番組では、代替医療に詳しい島根大学医学部付属病院臨床研究センターの大野さとし教授へのインタビューがありました。まず、大野教授がどういう研究をしているのかという自己紹介がありました。


ちまたには、例えばヨガとか、あるいはアロマセラピー、音楽療法など、いろんな体によいとされるものがあるかと思うんですけど、これが本当に効果があるのか、臨床試験で検証したりとか、科学的根拠があるのかないのか、臨床試験をしても全部効くという訳ではないので、効かないという事実があるのであれば、それを分かりやすく患者さんや医療従事者にお伝えする、そんな仕事をしています。


代替医療は通常医療の補完として行われるものですが、それらの中には効果がなかったり、あるいは民間で行われるものの中には逆に有害だったりするものもあるはずです。大野教授はそういった "医療" の効果を、臨床試験を含めて確認する研究をされているようです。さらにインタビューでは、プラセボについて次のように発言されていました。ここが本論です。


食品として販売されているプラセボを、プラセボと分かった上で使っても効果が得られるという話があったかと思いますが、実際の臨床試験の研究においても、プラセボということを患者さんに伝えた上でも、一定の効果が得られるということが証明されつつあります。

一人一人の患者さんを対象にしたときに、上手に利用していくってことを考えていただけたらなと思います。

あくまで、症状が改善することはあるが、おおもとになる病気そのものが治るわけではなくて、病気にともなう様々な症状や困りごと改善するという風にとらえていただけたらと思います。ただ自己判断で、本当であればお薬が必要な場面なのに偽薬にたよってしまうことだけは避けていただきたいと思います。

あと、すべてがいいことばかりではなくて、今日番組の中ではプラセボ効果っていい効果ということでお話がされていましたが、ある方によく効いたというプラセボでも、ほかの方にも同じようになるかというと、必ずしもそういう訳ではない。プラセボも万能薬ではありません。

効果がないとされるプラセボを飲んだ場合でも、臨床試験をやっていると副作用が出てきたり(=ノセボ効果)なんていうことがあったりもします。

こういったプラセボ効果を悪用して商売をしている、場合によっては高額な商品を売りつけているケースがあります。人間の心理として値段が高い方が効果もあるんじゃないか、と思う方って多くいらっしゃると思います。こういうところにつけこむ形で商売をしていることが世の中にはあります。そういう注意点もあることを知っておいていただけたらと思います。

島根大学医学部付属病院
臨床研究センター教授
大野さとし

「プラセボ効果を悪用して商売をしている、場合によっては高額な商品を売りつけているケースがあります」と発言されていますが、世の中には、機能性食品や健康家電を含めて「健康によいと宣伝されている食品、サプリメント、器具」が溢れています。しかも「良かったというユーザの声」が喧伝される。その声がプラセボ効果なのか、そうでなく本当に商品がもたらす効果なのかを見極める必要があります。その意味でもプラセボ効果を知ることは重要でしょう。



さらに番組では、世界のプラセボ研究をリードする、米国・ダートマス大学のトール・ウェイガー教授が次のように話していました。


プラセボ効果は何か良いことが起こるという期待感を持ったときに引き起こされると考えられています。つまり脳がこれから良いことが起こると期待することで、ストレスや不安が軽減され、それによって痛みを解消することができると考えられるのです。

米国・ダートマス大学教授
トール・ウェイガー

ウェイカー教授の言う "期待感" があると、脳の側座核を含む痛みに関係した部分が活発になり、強い鎮痛作用があるオピオイドが分泌される。これがプラセボ効果の(一つの)説明です。番組では MRI を使った画像でこのことを解説していました。



ところで、偽薬は "期待感" によって「好ましい」効果を生むだけでなく、"マイナスの期待感" によって「好ましくない」効果をもたらすことがあります。それが、島根大学の大野教授のインタビューにもあった、ノセボ効果です。


ノセボ効果(ファイザー社の新型コロナワクチン)


ノセボ効果については、2021年1月23日の「Nikkei STYLE(Web版)」の "ヘルスUP" に、新型コロナワクチンを例にとって説明してありました。まさにタイムリーな記事です。重要な部分を引用します。


プラセボを接種した人に有害事象が現れるのはなぜ ?

米ファイザー社の新型コロナワクチンの臨床試験では、プラセボ群には生理食塩水が注射されました。生理食塩水の正体は、人間の体液と同じ浸透圧の0.9%食塩水ですので、注射針を刺して注入すること以外に健康被害はもたらさないと考えられます。にもかかわらず、プラセボを投与された人たちのうち、最大で3人に1人は、疲労感や頭痛を訴えました

こうした現象は、ノセボ効果(nocebo effect)と呼ばれています。簡単に言えば、ワクチンの接種が疲労感や頭痛などの副反応を引き起こすかもしれない、と不安に思っていると、プラセボを接種されたにもかかわらず疲労感や頭痛を感じる、というのがノセボ効果です。

ノセボ効果の反対は、プラセボ効果(placebo effect)です。こちらは、有効成分を含まないプラセボであるのに、効果を信じ、期待することで、実際に症状が改善する現象を言います。

いずれも、薬やワクチン、医療者への信頼や期待、あるいはそれらへの不信や不安といった心理が大きく影響するために現れる現象だと考えられています。

Nikkei STYLE(Web版)"ヘルスUP"
2021年1月23日
日本経済新聞社

この記事に「プラセボを投与された人たちのうち、最大で3人に1人は、疲労感や頭痛を訴えました」とあります。FDA(アメリカ食品医薬品局)は「ワクチンを投与する医療従事者のためのファクト・シート」と題する文書を公開していて、この中にファイザー社が行ったコロナワクチンの治験結果があります。次の URL からダウンロードできます(2021.7 末現在)。

Pfizer-BioNTech COVID-19 Vaccine
"FACT SHEET FOR HEALTHCARE PROVIDERS ADMINISTERING VACCINE"
https://www.fda.gov/media/144413/download

この文書から、接種後の有害事象(副反応)とまとめた表を引用します。表は「局所反応」と「全身反応」に別れています。いずれも1回目の接種(Dose 1)と2回目の接種(Dose 2)のあと7日以内に起こった有害事象について、治験参加者をモニターしてまとめたものです。表において、N はモニターした人の総数、n は副反応が見られた人の数で、その n が表になっています。カッコ内は N に対するパーセンテージです。1回目、2回目ともワクチンを接種した人とプラセボ(=生理食塩水)を接種した人の副反応が対比されています。表1は「局所反応」で、項目は次の通りです。

Redness
:発赤(注射部位が赤くなる)
Swelling
:腫れ
Pain at the injection site
:注射部位の痛み

表1:接種後7日間の局所反応
(治験者:18歳~55歳)
TABLE-1.jpg
米国FDAが公開している "FACT SHEET FOR HEALTHCARE PROVIDERS ADMINISTERING VACCINE"(Revised 25 June 2021)より引用。引用元の表には注釈がついているが割愛した(次の表2も同じ)。

次の表2は「全身反応」の集計で、項目は次の通りです。

Fever:発熱
Fatigue:疲労感
Headache:頭痛
Chills:悪寒
Vomiting:嘔吐
Diarrhea:下痢
New or worsened muscle pain
 :筋肉痛(悪化を含む)
New or worsened joint pain
 :関節痛(悪化を含む)
Use of antipyretic or pain medication
 :解熱剤か鎮痛剤の使用

表2:接種後7日間の全身反応
(治験者:18歳~55歳)
TABLE-2.jpg
米国FDAが公開している "FACT SHEET FOR HEALTHCARE PROVIDERS ADMINISTERING VACCINE"(Revised 25 June 2021)より引用。

この表を見ると次の3つのことが理解できます。

ワクチン接種では1回目より2回目の方が副反応が多い

これは人間の免疫(獲得免疫)についての知見と合致します。1回目でコロナウイルス(正確にはメッセンジャーRNAが作り出すコロナウイルスのスパイク・タンパク質)に対する抗体が体内にでき、それが記憶されます。2回目では、免疫記憶をもとに異物のタンパク質に対する総攻撃が速やかに始まる。従って2回目の方が副反応が強いわけです。

そもそも副反応は「免疫がついたことの証拠」であって、喜ばしいことです。つまりワクチンが正しく作用していることを示しています。ただし、副反応がないからといって免疫がつかなかったということではありません。人間の免疫の作用は人によって多様です。

プラセボの接種でも副反応が起こる

表を見ると、生理食塩水を注射してもワクチンで起こるものと同じ副反応が起きることがわかります。もちろん、その頻度は一般的にはワクチンより少ない。しかし1回目投与(Dose 1)の疲労感(Fatigue)や頭痛(Headache)のように、ほぼ3分の1の治験者に副反応が起きることもあります。Nikkei STYLE の記事はこのことを言っています。

また、中には下痢(Diarrhea)のように、ワクチンと同程度の副反応が見られることもあります。

プラセボによる副反応は2回目の方が下がる

プラセボによる1回目と2回目の副反応の頻度は、ワクチンの場合とは全く逆です。これはもちろん生理食塩水が人間の免疫機能とは無関係だからであり、かつ、2回目の方が不安感が少なく安心感が強くなるからだと推察されます。



いずれにせよ、ノセボ効果については、

新型コロナウイルスのワクチンの治験で、生理食塩水を注射した人の3割に疲労感と頭痛の副反応が見られた

という事実を覚えておくべきでしょう。プラセボ効果は「プラスの期待」、ノセボ効果は「マイナスの期待」によって起こります。"期待" という言葉はふつう良いことについて使うので、適当な言葉ではないでしょう。Nikkei STYLE では「予測」という表現が使ってありました。


プラセボ効果もノセボ効果も患者自身の予測が大きく関係

では、プラセボ効果とノセボ効果を経験しやすいのはどのような人なのでしょうか。米国の研究者たちが、このテーマに関係する論文を検討した研究によると、プラセボ効果は、その薬が効くことを期待する患者の気持ちに、ノセボ効果は副作用や副反応を心配する患者の気持ちに由来する、とのことです。

これまでに行われた研究では、鎮痛薬や精神障害に対する治療薬の場合は、プラセボ群にも治療群と同じ程度の効果(プラセボ効果)が見られやすいこと、同時に、治療群と同じ有害事象を経験(ノセボ効果)するプラセボ群の患者も少なくないことが示されていました。

著者らによると、プラセボ効果とノセボ効果には、患者自身の予測が関係します。予測は、自分が以前に経験した薬の効果や害、医師からの説明(何の薬か、どんな効果または害が起こりうるか)、自分以外の患者に関する情報(同じ薬を使用した人が経験した効果や害について見聞きする、あるいはインターネットを通じて知る情報)に基づいて行われます。

著者らは、ノセボ効果について、「気にかかる情報、間違った思い込み、悲観的な予測、好ましくない過去の経験、流布される否定的なメッセージなどが、有害事象の増加に関係し、さらには治療効果を減じる可能性がある」と述べています。

ワクチンの接種後に生じる有害事象には本人の心の持ちようも大きく影響する、ということを念頭に置いて、リラックスして接種に臨めば、結果は違ってくるかもしれません。

(同上)

新型コロナウイルスのワクチンの副反応について、マスコミでさまざまな報道がされていますが、「そもそも副反応は免疫を獲得した証拠、ないしは、獲得しつつある証拠であり、喜ばしいもの」という論調は少ないようです。さらに、上に引用した Nikkei STYLE の記事のように「副反応は偽薬でも起こる」ことをちゃんと報道しているマスコミはほとんどないと思います。その意味で日本経済新聞の報道は非常に適切だと思いました。


医療に求められるもの


人は時として「プラセボ効果」や「ノセボ効果」を示します。このことを前提に医療従事者や医療政策を決定する人たちは行動すべきことが分かります。現に、プラセボ効果については NHKの「ガッテン!」であったように、ドクターも看護師もプラセボ効果を理解した上で、少しでも患者さんの苦しみを軽減しようと対応しています。

ノセボ効果についても同様の対応が必要でしょう。ワクチン接種後に起こる有害事象(副反応)については、「ワクチンとの因果関係はない」かもしれないが「接種との因果関係はある」かもしれないからです。No.302「ワクチン接種の推奨中止で4000人が死亡」の補記で紹介しましたが、愛知医科大学の牛田教授(疼痛医学)は次のように語っておられました。


HPVワクチンでは、非常にまれですが、接種後に痛みを含めた「多様な症状」が現れました。強い記憶に残るような痛みや脱力などが接種で伴うと、その人にとっては大きなマイナスのできごとになる可能性は否定できません。

こうしたマイナスのできごとが、その人の一生にかかわるものにならないよう、医療者が寄り添うことが大切だと思います。

愛知医科大学教授・牛田亨弘たかひろ
朝日新聞 2021.6.16

これは HPV ワクチンについての発言ですが、すべてのワクチンについて言えることだと思いました。




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