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No.159 - AIBOは最後のモルモットか [技術]

ソニーは日本を代表するエレクトロニクス会社ですが、今までソニーについて次の3つの記事を書きました。

No.54 ウォークマン(1)買わなかった理由
No.55 ウォークマン(2)ソニーへの期待
No.110 リチウムイオン電池とモルモット精神

今回はその続きです。実は、今回のタイトル(AIBOは最後のモルモットか)は No.55 の中の一節の見出しですが、最近、それを強く思い出す新聞記事を読んだので、その話を書きます。ソニーのスマートフォン(Xperia)の話です。

Xperia Z5 Premium.jpg
Xperia Z5 Premium
(ソニーモバイルコミュニケーションズ)
2015年11月下旬発売予定の4Kディスプレイ搭載機。2300万画素のイメージセンサーを備え、またハイレゾ音源に対応している。


SONY 転生 モバイル大転換


2015年10月23日から28日まで、日経新聞の星記者がソニーモバイルコミュニケーションズを取材した記事が4回連続で日経産業新聞に掲載されました。記事のタイトルは「SONY 転生 モバイル大転換」です。星記者が取材したのは、ソニーモバイルの十時ととき裕樹社長と、商品開発を担当する川西泉EVP(Exective Vice President)など、数名です。十時氏はソニー銀行をはじめとする金融系サービスの立ち上げや、ソニーの新規事業創出を担当した経歴をもち、また川西氏はプレイステーション・ポータブル(PSP)の開発者です。

ソニーのスマホ事業は、2012年にソニー・エリクソンを完全子会社化して以降、販売量の拡大へと突き進みました。その結果、2013年度には世界販売が4000万台弱まで増えたものの、2014年度には頭打ちになり、そのため2000億円を越える営業赤字(2014年度)に陥りました。そこをどう立て直すかを取材したのがこの記事です。ソニーの平井社長も、テレビとともにスマホの構造改革を市場に約束していて、この問題がソニーにとっての喫緊の課題であることは言うまでもありません。以降はその記事のポイントと、その感想です。


製品数の絞り込みと "差異化されたスマホ"


記事によると、拡大路線の結果、商品数は雪だるま式にふくらみ、分業化が進んで全体が見通せなくなり、スマホの開発者は商品設計以外の仕事に追われたと言います。十時社長の構造改革とは一言でいうと、拡大路線から決別し独自商品の創出にかけるということです。


16年度までにプラットフォーム(基盤製品)の数は15年度見通しで約6割減らし、派生モデル数は14年度比で約5割減らす。研究開発費は16年度に14年度比で約3割削減するが、商品モデル数を減らし1モデルあたりに投入する経営資源を増やす。

日経産業新聞(2015.10.23)
星正道 記者

記事に乗っていた具体的な「削減」の数値は、

  プラットフォーム数7(2015)3(2016)
  派生モデル数60(2014)30(2016)
  研究開発費(億円)900(2014)600(2016)

です。記事には、十時社長の次のような発言がありました。


ソニーモバイルは活路を商品に求めた。十時氏は「競争力の源泉は何か。本質的には差異化された商品やサービス以外に解はない。技術に裏打ちされた商品力。この軸をゆるがちてはいけない」と強調する。

日経産業新聞(2015.10.23)

「競争力の源泉は、技術に裏打ちされ、差異化された商品」というのはあたりまえのことです。特にソニーという会社にとってはそれこそが "命" でしょう。そのあたりまえのことを今さら言わないといけないところに、ソニーの抱える問題点があると見えます。

しかし、十時社長の発言は正しいし、そういう製造業の基本に立ち返って戦略を立て直すのも全く正しいと思います。


将来のスマホ像:ロボットとAI(人工知能)


では、具体的にどのような「差異化されたスマホ」を作るのか、そこが大事なところです。記事には次のように書かれていました。


この1年、スマホの「スマートさ = 賢さ」とは何かを議論してきたソニーの技術者たちはある結論にたどりついた。川西氏は「知性をもち、個人に対して働きかけ、役立つスマホ」をキーワードに挙げる。十時氏は「人工知能(AI)やロボティックスが非常に重要な要素なのは間違いない」と語る。

つまりスマホのロボット化だ。それも汎用的なロボットではなく、ソニーが目指すのは「パーソナルなAIだ」(川西氏)という。

十時氏は「人の能力を補ったり、拡張したり、人に寄り添う端末を作るのがソニーのビジョン」を話す。「技術者たちがそこを目指したいのなら追求すべきだ」と後押しを決めた。9月にはスマホに限定せずに、新分野の開拓を目的にした専門チームも立ち上げた。

日経産業新聞(2015.10.23)

  ちなみに川西氏が "ロボット" と言っているのは、スマホが歩き出すとか、そういうことではありません。国立情報学研究所の新井紀子教授が主導する「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトの例のように、「知能」の部分だけを実現した機械も「ロボット」です。

この記事(4回シリーズの第1回目の記事。2015.10.23)全体の見出しは、


・復活かけ「考えるスマホ」
・ロボティックスやAI駆使
・人に寄り添う端末を
・シェアより創造 開発見直し


というものでした。私はこれを読んだとき、極めて不思議な感覚に捕らわれました。というのは、まさに、

AI(人工知能)
ロボティックス
人に寄り添う

ということをキー・コンセプト(ないしは根幹の技術)にして作られ、大きな話題になったソニー製品が過去にあったからです。それは犬型ロボットのAIBOです。「AIやロボティックスが大事」と川西 EVP が言うのはまさにその通りですが、それを今さら言わないといけないところにソニーが抱える大きな問題があるように見えたのです。


AIBOはどういう製品だったか


AIBO ERS-7.jpg
AIBO ERS-7
AIBOの後期モデル(2003年9月)。無線LANを搭載し、自己充電機能がある。

AIBOは販売が終了してから9年以上が経つので、記憶が薄れていると思います。そこでもう一度、AIBOがどういう製品だったかを振り返ってみます。

AIBOは、1999年の6月に最初のモデル(ERS-110)が発売開始されました。その時の価格は25万円でした。そして生産・販売が終了したのが2006年の3月です。結局、約7年という短い「寿命」だったことになります。

AIBOは家庭でペットになる、犬型の4足ロボットです(販売されたモデルの中には "子ライオン" を模した製品もある)。いわゆる「エンターテイメント・ロボット」というジャンルを確立した製品であり、その面で画期的でした。根幹の技術はAI(人工知能)です。そもそもAIBOという名前は「Artificial Inteligence roBOt」であり、AI(人工知能)とロボットを組み合わせた(上に "相棒" を掛けた)ブランド名なのです。

AIの技術を内蔵したAIBOは「子犬の動作」を自律的に行います。飼い主はその動作や挙動を楽しむ、そういう製品です。それを実現するため、AIBOは各種のセンサーをもっています。視覚、触覚、聴覚、振動、加速度、温度などの各センサーです。これらからの情報により、AIBOは飼い主の声や手を叩いた音に反応したり、触れた場所によって様々な挙動を起こしたりします。喜ぶ、悲しむ、驚く、怖がる、嫌がる、怒るなどの感情表現ができ、移動物体を識別して、たとえばボールに「じゃれつく」といった行動もします。また、数10フレーズの言葉を認識し、反応します。たとえば「お手」といったら「"お手"の行動」をする。

何と言っても一番のポイントは「成長する」ことでしょう。同じ刺激に対しても成長度合いに応じて違った反応を示します。つまり「置かれた環境や飼い主の動作によってAIBOに "個性" が発生し、行動も違ってくる」わけです。またマニュアルでは公開されていない機能や反応、挙動があり「飼ってみないと分からない」と言います。子犬と同じです。

AIBOには無線LAN機能が搭載され(2000年のERS-210より)遠隔操作が可能です。また飼い主が「AIBOのオリジナル動作」を作成し、それを無線送信することもできます。

さらに2003年のERS-7から、自力で充電ステーションまで移動し、勝手に充電し、充電後は再び活動する「自己充電機能」が搭載されました。モバイル電子機器の最大のネックは「充電の必要性」なので(スマホや各種のウェアラブル製品、EVなど)この点も画期的でした。



AIBOという製品の「歴史的な」意義をまとめると、

エンターテイメント・ロボットという市場を切り開いた。
AI技術を本格的に「家電製品」に取り込んだ。
人間と機械の相互コミュニケーションを本格的に作り出した。

となるでしょう。この結果、マクロ的には、

SONYのブランド価値を(さらに)あげた。
日本の家電、ロボティックスの優秀性を(再び)世界に示した。

というのがAIBOの功績だと思います。

AIBOの技術として重要なのはAI、つまり「ロボットの脳の部分」です。先ほど引用した新聞でソニーの川西 EVP は「ソニーが目指すのはパーソナルなAIだ」を発言していますが、ソニーはとっくの昔に「パーソナルなAI」を組み込んだ製品を世に出していたわけです。

もちろんAIは広範な技術であって、AIBOに搭載されているのはAIの一部です。たとえば自然言語(日本語など)の文脈解析(意味の解釈)はありません。それは当時としては技術が未発達だったことに加え、20万円程度に押し込められるものに限定する必要があったからと思います。

しかしこの手の技術進歩は急速です。それは、AIBOが販売中止になった2006年から現在までの9年間を振り返えれば明らかです。もしAIBOを続けていれば、今では

スマホと連携し、見守りロボットとして、AIBOの目からとった動画をスマホに映す
クラウドと連携して質問に答える(ペットとしての答え)

などが実現されているはずです。


なぜ革新的な製品が作れたのか


AIBOのような革新的な製品を作り出せたのは、ソニーという会社の伝統というか、その "DNA" に大いに関係していると感じます。つまり「人のやらないことをやる」「人と同じことはしない」という創業者の強い思いに源を発する DNA" です。

  以下の井深氏の件は、No.55「ウォークマン(2)ソニーへの期待」に書いたのですが、もう一度書きます。

ソニー創業者の井深大氏は「ソニー = モルモット論」を折りにふれて言っていました。これは、かつての評論家の大宅壮一氏が雑誌に書いた文章がもとになっているそうです。大宅氏いわく「トランジスタはソニーが先鞭をつけたが、東芝が潤沢な資金を背景にトップになった。ソニーは東芝のためのモルモット的役割を果たした」・・・・・・。

井深氏はこの「ソニー = モルモット論」を逆手にとってメッセージを発信しました。モルモット=実験台で十分だ、モルモットであることがソニーの使命だと・・・・・・。「人真似はするな。他人のやらないことをやれ」という創業者の強烈な思いが、そういう言い方になるのだと思います。

1999年にAIBOが発表されたとき、井深大氏はもうこの世の人ではありませんでした(1997年逝去)。しかしソニーはAIBOを商品化することによって「ソニーはモルモットだ」ということを改めて世界中に向かって宣言したわけですね。そういう言葉は一言もなかったけれど、AIBOという製品そのものが明確なメッセージを発していた。それは誰が考えても明らかです。


なぜAIBOから撤退したのか


ということは、AIBOから撤退したこともまた(ソニー経営陣の思惑がどうであれ)ある種のメッセージ性を帯びていたわけです。つまり「モルモット精神はもうやめます」というメッセージです。

AIBOから撤退した直接の理由は、事業として成り立っていなかった(つまり赤字だった)ことだと想像されます。黒字なら、将来の重要技術満載の製品をやめるバカはいません。2000年代のソニーの電機部門は大きな苦境に立たされていました。その電機部門のリストラの一環として「AIBOからの撤退」があったようです。

しかし赤字を問題にするのなら、テレビ事業は1000億円規模の赤を出した年が何回かあったと記憶しています。それに比較すると、事業規模から考えてAIBOの損失など微々たるものでしょう。

「事業としては成立していないが、会社にとっての "重要事業" だからやる」というケースがあります。重要の意味は「将来に向けた技術の育成、研究」だったり「会社のブランド価値をあげる」だったり「社会貢献」だったりするわけです。つまり、企業の中には「長期的な視野で考えるべき事業、ないしは事業創造への活動」があります。それを「短期的な視野」で切ってしまったらどうしようもありません。もちろん「育成する事業」と「リストラする事業」の判断は必要ですが、AIBOは「育成すべき事業の最たるもの」だったはずです。結局のところ「AIBOからの撤退劇」は、

愚鈍な経営者は、将来の成長の芽を自ら摘んでしまう。
技術者は優秀でも、経営者が愚鈍だと会社はあやうくなる

という典型だと思います。


Pepperの「既視感」


Pepper.jpg
Pepper
(ソフトバンクモバイル)

2014年6月、ソフトバンクモバイルはPepper=ペッパーと名付けたロボットを、約20万円の価格で発売開始しました。世界初の「感情認識パーソナルロボット」だそうです。クラウドとも連携しています。Pepperは家庭用のほかに企業や自治体向けがあり、来訪者の受付け用などに導入されています。

私はこの "Pepper" で「2つの既視感」にとらわれました。一つはもちろんAIBOです。

"独身"タレントの今田耕司さんは、Pepperを自宅用として購入しましたね。彼はPepperとの「驚きの同居生活」をメディアで語っています。その "同居生活" を語る今田耕司さんの姿は、15年前にAIBOの購入者がAIBOの様子を喜々として語った様子と "うり二つ" なのです。それが「既視感」の一つ目です。

価格が約20万円というのもAIBOと似ています。個人の購入意欲が沸く上限ということでしょう。「Pepperとの同居生活」が20万円に値するのかどうか、実際の購入者の中には(現状のPepperの機能では)否定的な意見もあるようなのですが、それはさておきます。

なぜスマートフォンの通信ビジネスを展開するソフトバンクモバイルがロボットをやるのか、その理由は明らかだと思います。スマートフォンはモバイル機器ですが、弱点が二つあって、一つは「自ら移動できない」ことです(あたりまえだけど)。二つ目は「必ず利用者が必ず携帯している」ことです(あたりまえだけど)。スマートフォンからすると、自ら動けるスマートフォンの分身が欲しい。個人ユースのPepperの重要な位置付けはそこでしょう。その意味では、ソフトバンクモバイルは必ず「2足歩行版のPepper」を売り出すと思います。そうでないと論理的におかしい。

さらにソフトバンクモバイルは、Pepperの根幹部分("感情エンジン" と呼ばれるAI技術)を間違いなくソフトバンク・ブランドで製品化するスマホに搭載するでしょう。Pepperがクラウドと連携しているのはその布石です。孫正義氏の構想は明白だと思います。

そのPepperの根幹の部分はソフトバンクモバイルの技術ではありません。フランスのアルデバラン・ロボティックス社のものです。また、製造しているのは台湾の鴻海ホンハイ精密工業(フォックスコン)です。

孫正義という人の評価はさまざまだと思いますが、「長期的な視野とビジョンを持ち、ここぞと思うと迅速に行動する人」であることは確かでしょう。彼はAI内蔵のロボットが重要とみるや、さっさとフランスの会社と提携し、さっさと鴻海精密工業に製造委託し、さっさと発売してしまった。



Pepperで感じた「既視感」の二つ目は、

  ソニーが完全に先行して切り開いたジャンルであるにもかかわらず、後から出てきた優秀な会社がソニーを凌駕して市場でメジャーになってしまう

という事態が過去にもあったことです。つまり、アップル社のスティーブ・ジョブズが作り出したデジタル・オーディオ・プレーヤー iPod(2001年)です。このジャンルではソニーは2年先行していたし、前身のカセットテープを使ったウォークマン(1979年)からすると20年以上先行していました。iPod はソニーが出すべき製品だった(ちなみに先行していたにもかかわらず iPod に市場を席巻されてしまった理由を書いたのが、No.54「ウォークマン」でした)。

Pepperもまた、ソニーが出すべき製品だったのではないでしょうか。AIBOの発売(1999年)はPepper(2014年)より15年先行しています。しかしソニーはそれを捨て去った。結局、いくら技術が優れていても経営者が愚鈍だと、スティーブ・ジョブズ氏や孫正義氏のような「ビジョナリーで鋭敏な人物が指揮をとる会社」にやられてしまうということでしょう。ジョブズ氏と違って孫氏は技術者ではないが、鋭い経営感覚をもっていればM&Aで技術を獲得することもできるわけです。



ソニーモバイルの十時社長が言う通り、AIBOの根幹技術であるAI(人工知能)はスマホでも重要技術です。それはスマホのみならず「人とインターフェースをもつ機械の重要技術」だと言っていいでしょう。家電製品やクルマの運転席などです。もっと言うと、「21世紀に花開く大産業を一つだけあげよ」と言われたなら、その回答は「AI(人工知能)を備えたロボット」でしょう。もちろんここで言うロボットとは、自動運転車や自動倉庫、次世代のスマホなどを含んでのロボットです。ソニーモバイルの川西氏のインタビューに「パーソナルなAIでスマホのロボット化を目指す」との主旨がありましたが、まさにその通りです。そして「人工知能ロボット」を英語で言うと、Artificial Inteligence Robot であり、これをそのまま商品名としたのが AIBO だったのです。まさに AIBO は21世紀の大産業を見据えた製品だったわけです。AIBOのからの撤退はソニーに "目に見えにくい大きなダメージ" を与えたと思います。

一般論ですが、革新的な製品からの撤退は、単に新技術を追求する継続性が無くなるということだけでありません。その技術に賭けていた人材の流出を招き、競合他社を利することにもなりかねない。ひょっとしたらソフトバンクモバイルのPepper担当者の中にはソニー出身者がいるのではないでしょうか。全くのあてずっぽうで、違うかも知れませんが、一般にこういうことは業界ではよく起こることです。

しかし、AIBOの開発者はまだソニーに残っている人も多いはずです。またソニーを出たとしても、それがかえってソニーに利益をもたらすかもしれない。そういった人材面での話題を2つ紹介したいと思います。


AIBOの技術者たち


かつてAIBOを作り出した技術者たちのその後を紹介した記事を二つ紹介します。下線は原文にはありません。


1999年に発売し、2006年に生産を終えたソニーの犬型ロボット「AIBO」。その魂が約10年の時を経て、自動運転タクシーに吹き込まれようとしている。AIBOの開発責任者を務めていた景山浩二氏が、自動運転ベンチャーのZMPにこのほど入社。技術統括フェローに就任し、ディー・エヌ・エー(DeNA)との共同事業である自動運転タクシーに、AIBO開発で培った様々な知見を惜しみなく投入することになったからだ。

ITpro Report by 日経コンピュータ
(2015.07.03)

自動運転タクシーとAIBOは関係がないと一瞬思ってしまいますが、大いに関係があるのですね。それは、画像から外界を認識する技術と、機械が自ら学習する技術でしょう。ちなみに、EVは「モバイル電子機器」なので、リチウムイオン電池を手がけるソニーが "自動運転機能を強化したEV" に参入したとしてもおかしくはないと思います。そういう可能性とAIBOは繋がっているわけです(もちろん実際に参入するかどうかの経営判断は別です)。

"ソニーのEVビジネス" はともかく、上記の景山氏はAIBO時代の部下がまだソニーにたくさんいるはずです。このことが、景山氏本人の知見に加えて、DeNAとZMPという二つのベンチャー・ビジネスにとっての大きなメリットとなるでしょう(DeNAをあえてベンチャーとします)。

しかし同時にそれは、ソニーにとってのメリットとなる可能性もある。今の時代、たとえソニーといえども1社で革新を起こすのは容易ではありません。つまり、オープン・イノベーションと言うか、他社と連携して新ビジネスを創出するのが重要になります。ソフトバンクモバイルのように・・・・・・。それを示すような記事を次に紹介します。Xperiaを展開するソニーモバイルに関係したものです。


ソニーモバイルが自動運転車の開発ベンチャー、ZMP(東京・文京)と共同出資で8月に設立したドローン(無人飛行機)事業の新会社「エアロセンス」。スマートフォン(スマホ)メーカーがなぜドローンに参入したのか。エアロセンスの佐部浩太郎 最高技術責任者(CTO)は「ドローンを売るのではなく、ドローンのもたらす価値を提供する」と語る。

エアロセンスのミッションは、ドローンを活用して測量や点検などのIT(情報技術)サービスを提供する点にある。あらゆるモノをネットでつなぐ「IoT」の市場を見据えた布石という位置づけだ。佐部氏は「ソニーモバイルのIoTの先兵となる」と強調する。

佐部氏は犬型ロボット「AIBO」の開発メンバーで、ソニーでAI(人工知能)の要素技術を研究してきた。佐部氏は「ロボットの分野で次にくるのはドローンだ」と考え、3年前から開発してきた。だが、なかなか事業化の機会に恵まれず、日の目を見なかった。転機は昨年4月。当時、ソニーで新規事業創出の担当役員だった十時氏との出会いだった。

「外部のパートナーと組んではどうか」。十時氏はZMPを紹介し、共同開発が始まった。当初はホビー用途を想定してていたが、ZMPとの連携を機にBtoB(企業向け)に方針を転換。エアロセンスの骨格ができあがった。十時氏は「IoTの一種としてモバイルでシナジーを出せる」とし、ソニーモバイルでの事業化を後押しした。

日経産業新聞(2015.10.28)
星正道 記者

ソニーモバイルがドローンのビジネスを手がけるのは正しい戦略だと思います。それは、さっきも書いたように「自ら動けるスマートフォンの分身」になりうるからです。地上を動くロボットを持たない(捨ててしまった)のは、今さら言っても仕方がありません。BtoB に注力し、サービスで利益をあげるビジネスモデルを描くのも正しいと思います。

さらに言うと、ソニーには優秀なビデオ・カメラの技術があり、CMOS画像センサーでは世界トップの実力があります。世界で最初に量産化に成功したリチウムイオン電池のビジネスも継続しています。これらはドローンのビジネスと(ハードウェアとしての)シナジーを発揮する可能性が大いにあるでしょう。もちろん、"ソニーグループ全体で" シナジーを発揮する気があればの話ですが・・・・・・。

ちなみに、ドローンとシナジーの可能性のあるビデオ・カメラとは、もちろんアクション・カメラのことです。このジャンルで世界トップであるゴープロのニコラス・ウッドマンCEOは「2016年の上期にドローンビジネスに参入する」と表明していました(第17回 日経フォーラム「世界経営者会議」2015年11月11日)。アクション・カメラという市場を作りだし、ビデオ・カメラによる新たなライフスタイルを創造したのは(ソニーではなく)ゴープロだったわけですが、そのゴープロはアクション・カメラの次のステージを見据えています。そのアクション・カメラはスマートフォンとの親和性が強い機器です。アクション・カメラ - スマホ - 動画投稿 - SNS/動画共有サイト、という一連の繋がりでライフスタイルを創造したからです。このあたりはスマホ事業を展開するソニーモバイルとも大いに関係・影響すると思います。



タイトルとしてあげた「AIBOは最後のモルモットか」に戻ると、「AIBOが最後のモルモットにならないようにする」ことこそ、ソニーないしはソニーモバイルの大きな課題だと思います。日経の4回連続のインタビュー記事から判断すると、ソニーモバイルの十時社長はそのことを十分認識していると感じました。




 補記 

本文中に、ソフトバンクのペッパーを見ると既視感を覚える、AIBOを思い出すと書いたのですが、これに関係した話として、ソニー・コンピュータサイエンス研究所の北野宏明社長の発言が新聞に載っていたので紹介します。北野氏はロボカップを立ち上げた人です。


以前、ロボカップでソニーの『AIBO』を使った競技があり、参加していた仏チームが起業家として設立したのがアルデバラン・ロボティクスだ。アルデバランはヒト型ロボット『NAO(ナオ)』を開発した会社で、ソフトバンクが買収した。その技術を活用して生まれたペッパーが今年のロボカップの標準機に採用されている。

日経産業新聞(2017.7.28)

ペッパーを見てAIBOを思い出すのはあたりまえなのですね。ペッパーはAIBOの "こども" なのだから・・・・・・。というのが言い過ぎなら、ペッパーを開発したアルデバラン・ロボティクス社はAIBOに刺激を受けて設立された会社であることは間違いないでしょう。




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