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No.323 - 食物アレルギーの意外な予防法 [科学]

過去に何回か書いた免疫関連疾患の話の続きです。まず以前の記事の振り返りですが、No.119/120「不在という伝染病」No.225「手を洗いすぎてはいけない」をざっくりと一言で要約すると、

人間は微生物が豊富な環境でこそ健康的な生活を送れる

となるでしょう。健康の反対、不健康の代表的なものが免疫関連疾患(自己免疫病とアレルギー)でした。そして、現代社会においては「微生物が豊富な環境」が無くなってきたからこそ(ますます無くなりつつあるので)"不健康" が増えるというのが大まかな要約です。次に、微生物の中でも腸内細菌に注目したのが No.307/308「人体の9割は細菌」でした。一言で要約すると、

腸内細菌の変調が21世紀病を引き起こす要因になる

となります。21世紀病とは、19世紀末から20世紀にかけて増え始め、20世紀後半に激増し、21世紀にはすっかり定着してしまったやまいです。免疫関連疾患、(BMIが30超のような)肥満、自閉症がその代表的なものでした。

以上は最新の生理学・医学の知識をベースにした本を紹介したものでしたが、もちろん展開されていた論の中には仮説もあり、今後検証が必要な事項もあります。



ところで、これらの共通事項は「免疫関連疾患」です。つまり人間に備わっている免疫の機構が関連している疾患です。免疫とは、

自己と非自己を区別し、非自己を排除したり、特定の非自己と共存する(ないしは特定の非自己を自己に取り込む)ためのしくみ

です(No.69/70「自己と非自己の科学」No.122「自己と非自己の科学:自然免疫」)。これが変調をきたすと、免疫系が自己を非自己と見なして攻撃したり(=自己免疫病)、排除しなくてもよいはずの非自己を排除しようとして炎症を起こしたり(=アレルギー)と、さまざまな症状が現れることになります。

日経サイエンス 2020年4月号.jpg
日経サイエンス
2020年4月号
今回はその中から、アレルギーに関する最近の知見を紹介します。アレルギーを引き起こす "非自己"(=アレルゲン、抗原)にもいろいろあって、特定の植物の花粉(=花粉症)だったり、特定の化学物質(=シックハウス症候群など)、その他、ホコリやダニ、さらには紫外線だったりしますが、以降はよくみられる「食物アレルギー」の話です。食物アレルギーも特定の食物が引き起こします。

まず、「日経サイエンス」の2020年4月号に掲載された「食物アレルギー 意外な予防法」と題する解説記事を紹介します。著者は C.ウォリスというアメリカのサイエンス・ライターで、オリジナルの記事は「If You Give a Baby a Peanut」(Scientific American 誌、2019.8)です。直訳すると「赤ちゃんにピーナッツを与えるとしたら」です。


米国小児科学会の方針転換


この解説ではまず、米国小児科学会が2019年4月発表した方針転換が、この12年間の経緯とともに述べられています。


食生活アドバイスほど気紛れでコロコロ変わるものはあまりない。権威ある医学機関による助言ですら、変わることがある。

12年前、我が子がピーナッツや鶏卵などの一般的な食物アレルギーを発症するのを心配している親に対する標準的な助言は、子供が2~3歳になるまでそれらの食物を徹底的に避けることだった。だが、この方法が役立たないことが示されたため、米国小児学会(AAP)は2008年に方針を取り下げた。

そして2019年4月の報告書で、少なくともピーナッツに関しては助言を完全に逆転させた。ピーナッツアレルギーのリスクが高い子供(ひどい湿疹や鶏卵アレルギーがある子)には、4~6ヶ月齢の段階から "幼児用" のピーナッツ食品を計画的に食べさせることを推奨した。中度以下の湿疹がある子供には6ヶ月齢くらいから与える。

日経サイエンス(2020年4月号)

米国小児学会は2000年に幼児の食事からピーナッツや鶏卵を除去することを推奨しました。しかしこれはアレルギーを増やすことになりました。小児アレルギーの有病率が1997年の0.6%から2008年には2.1%と、3倍以上に高まったのです。2008年の推奨撤回はこのような状況も踏まえています。

そして「ピーナッツアレルギーのリスクが高い子供には、4~6ヶ月齢の段階から "幼児用" のピーナッツ食品を計画的に食べさせることを推奨」というのが、2019年の米国小児科学会の(以前と比べると180°の)方針転換ですが、これは以下の引用のように、大規模な試験の結果を反映したものです。


これらは気紛れな変更ではない。国レベルの専門家委員会の助言と合致し、大規模なランダム化試験の結果を反映したものだ。

2015年に発表された LEAP という試験の結果は、4~11ヶ月齢の高リスク幼児にピーナッツを食べさせると、そうした早期曝露を経験しなかった幼児に比べ、5歳時点でピーナッツアレルギーとなる割合が81%少なくなることを見いだした。

また2016年に発表された EAT という別の調査研究では、母乳で育てられている健康な幼児にピーナッツタンパク質と鶏卵、4種類のアレルギー性食物を 3~6ヶ月齢から与え始める処置を注意深く続けると、5歳時点でも食物アレルギーの有病率が対照群に比べ67%低くなった。効果はピーナッツで最も顕著で、5歳時点でもピーナッツアレルギーの有病率がゼロになった(対照群では2.5%)。鶏卵アレルギーも低下したが、米国小児学会としては鶏卵に関するさらなるデータの蓄積を待っているところだと、マウントサイナイ医科大学の小児科学・アレルギー・免疫学の教授で昨年4月の報告書の執筆に加わったシチェラー(Scott Sicherer)はいう。「十分なエビデンスなしに何かを推奨することはしたくない。」

日経サイエンス(2020年4月号)

現時点おいて、米国小児学会はピーナツに関してだけ、アレルギーのリスクのある幼児に計画的に食べさせることを推奨していますが、他の食品についても(研究待ちですが)同様であることが推測できます。

人はどのようにして、またなぜ食物アレルギーになるのか、さらに近年なぜ患者が増えているのかは、大きな研究テーマです。これに関して、二重抗原曝露仮説が有力視されています。


アレルギーの発症とそれに湿疹が果たす役割に関し、「二重抗原曝露仮説」が有力視されている。LEAP と EAT の両方で研究論文の上席著者となったロンドン大学キングスカレッジ教授のラック(Gideon Lack)が提唱したもので、食物を経口摂取して腸の免疫系が抗原にさらされることで食物に対する免疫寛容が発達すると考える。幼児が湿疹で傷ついた皮膚から入ってきた食品分子にさらされた場合には、逆にアレルギー反応が煽られる。

マウスを使った研究はこの説を強く支持しているが、人間についてはまだ状況証拠しかない。ラックは、ピーナッツやピーナッツバターがよく食されている国々でピーナッツアレルギーが多く、マスタードアレルギーはマスタードが好きなフランスに、そばアレルギーは蕎麦好きな日本に多いと指摘する。「親がこれらの食物を食べた後に赤ちゃんに触れたりキスしたりして皮膚を通してアレルゲン分子が入り込むのだろう」とみる。

衛生を重視する現代の生活様式が関係している可能性もあるという。「乳児のお風呂や幼児のシャワーは毎日で、1日に複数回ということもある。これでは皮膚バリアーが破壊されかねない」。市販の皮膚保護クリームを塗ると食物アレルギーを防げるかどうかを調べる研究が進行中だ。

日経サイエンス(2020年4月号)

さらに記事では、食物アレルギーが特定の食品で起こる理由が推定されています。


食物アレルギーの90%は8つの食品による。牛乳、鶏卵、魚、貝、木の実、ピーナツ、小麦、大豆だ。これらの食品は消化や加熱、酸性度の変化に対して異様なほど安定したタンパク質を含んでおり、免疫応答を引き起こしやすいからだとする見方がある。

日経サイエンス(2020年4月号)


免疫寛容 ─── 「免疫の意味論」から


米国小児学会の2019年4月の方針転換のキーワードは「免疫寛容」です。つまり、経口摂取された食物に対しては免疫応答(=免疫系が抗原、この場合は「抗原となる食物」を排除しようとすること)が起こらずに "寛容" になる。このことは、マウスによる実験ではかなり以前から分かっていました。この「免疫寛容」を分かりやすく説明した記述を引用します。No.69/70「自己と非自己の科学」で紹介した、故・多田富雄先生の著書「免疫の意味論」からです。


あれだけの雑食をしていながら、食物中に含まれる抗原に対する抗体は、一般にはほとんど人間の血液中を流れていない。一部の人間は食品に対するアレルギーを起こすが、それはごく限られた食品に対してである。

それでは食品中のタンパク質などは完全に消化されてしまって、抗原の形では体の内部には入ってゆかないのだろうか。そんなことはない。たとえば牛乳を1リットル飲むと、抗体と反応できる程度の大きさのウシのアルブミン蛋白が、かなりの濃度で血液の中に入るのである。もし経口的でなく、注射でもしたら、間違いなくアナフィラキーショックを起こす量である。

それでは経口的に入ってきた抗原は何をしているのであろうか。いまマウスに、ニワトリの卵白からとったアルブミンを1000分の1ミリグラムくらい適当な条件で注射すると、アレルギーを起こす IgE 抗体が生産される。ところが、前もって卵白のアルブミンを経口的に飲ませておくと、抗体が作られなくなってしまうのである。たかだか数ミリグラムのアルブミンを前もって飲ませるだけで、同じアルブミンに対して体は免疫反応を起こさなくなる。マウスにとっては異物であったニワトリの卵白を、この卵白を経口的に摂取したマウスは異物と認めなくなるのである。こういうふうに、特定の物質に対して特異的に免疫反応を起こさなくなる現象を、免疫学的に「寛容トレランス」になったという。

消化管は、常に流れてくる外界の異物を排除するための拒絶反応を起こすのではなくて、それに「寛容トレランス」になるための積極的な働きかけをしているらしい。おびただしい種類の外界の異物が消化管という生命のチューブを流れ落ちるのを、拒否するのではなく内部に受け入れ、それと共存するための仕組み、それがこの「寛容」である。

「寛容」がどのようにして成立するかは、免疫学の最大の問題のひとつである。現在では、消化管を経由した抗原が、消化管付属のリンパ組織内で、免疫を制御する T細胞(サプレッサーT細胞)を刺激してこの細胞を増やすためであろうと考えられている。「寛容トレランス」になった動物の T細胞を、他の動物に注射してやると、注射されたこの動物も「寛容」になってしまう。こういう「寛容」の伝染は、T細胞のよる抑制によってのみ説明できる。経口的にアレルゲンやアレルゲンや自己抗体を食べさせて、アレルギーや自己免疫を治療しようという試みも、すでに始まっている。

多田富雄「免疫の意味論」
青土社(1993)

この引用で「サプレッサー T細胞」という言葉が出てきます。"免疫を制御する(=免疫応答を抑制する)T細胞" の意味ですが、この本が書かれた当時(1993年)では "そういうT細胞があるはずだ" と推定されているだけでした。なぜ「あるはず」なのかと言うと、まさに引用の最後で多田先生が断言されているように、T細胞による免疫寛容の伝染という現象は T細胞に免疫抑制効果があることによってのみ説明できるからです。

そして、この本が出版されてから2年後の1995年、大阪大学の坂口志文しもん教授が「制御性 T細胞」を発見し、"免疫反応を抑制する役割を持った T細胞" があることが実証されました。従って、引用にある「サプレッサー T細胞」を「制御性 T細胞」と読み替えれば、多田先生の文章は現代でもそのまま通用します。

つまり、免疫寛容の原理は1993年当時から免疫学の一般的な知識であったわけです。そもそも、マウスが経口摂取した食物に寛容になるという実験が最初に行われたのは1970年代前半だと言います。1993年当時はそれは定説だった。ただし当時は「寛容がどのようにして成立するかは、免疫学の最大の問題のひとつである」と引用にある通りでした。現代ではその仕組みは詳しく解明されています。

まとめると、免疫寛容の原理が定説化してから(おそらく1980年代)30年以上後の2019年に、米国小児学会は方針を転換をし、少なくともピーナッツに関しては高リスクの幼児に経口摂取を勧めることになったわけです。大変に長い時間がかかるものですが、これは動物実験(マウス)と人間は違うということでしょう。人間に対して免疫寛容を誘導することが副作用を生まないのか、誘導するとしたらどういう手順を踏むのがよいのか、その効果はどれほどか、それらを確かめるには慎重な検討が必要であり、時間がかかるということだと思います。日経サイエンスに大規模実験のことが書かれていましたが、ここに至るまでには数人規模の実験の繰り返しがあったのだろうと思います。


経皮感作仮説と皮膚のバリアー


日経サイエンスの記事にあったように、ロンドン大学のラック教授が提唱して有力視されている「二重抗原曝露仮説」とは、

◆ 食物を経口摂取して腸の免疫系が抗原にさらされることで、食物に対する免疫寛容が発達する

◆ 皮膚から入ってきた食品分子にさらされた場合には、逆にアレルギー反応が煽られる

でした。記事では「マウスを使った実験ではこの説を強く支持しているが、人間については状況証拠の段階」とありました。ただ、米国小児学会の方針転換は「二重抗原曝露仮説」の前半の部分 = 免疫寛容についの説が正しいと認めたということでしょう。

となると問題は「二重抗原曝露仮説」の後半の部分で、これは「経皮感作仮説」と呼ばれています。つまり、アレルゲンとなる食物のタンパク質分子が皮膚から直接体内に入り込むことでアレルギーが発症するという説です。これをマウスでなく人間について証明するのはハードルが高いでしょう。「アレルギーを発症させる」実験はできないからです。正しいとしても、アレルギーの原因はほかにもあります。たとえば腸内細菌の変調で制御性 T細胞による免疫抑制機能が低下するなどです(No.307)。また経皮感作と他の要因の複合的なものであることも十分考えられます。

とはいえ、アレルゲンとなる食物の経皮感作を無くす生活スタイルが重要なことは想像できます。ここで気になるのは、ラック教授が指摘している「衛生を重視する現代の生活様式が関係している可能性」です。ラック教授は、

乳児のお風呂や幼児のシャワーは毎日で、1日に複数回ということもある。これでは皮膚バリアーが破壊されかねない

と述べているのでした。ここでのキーワードは「皮膚バリアー」です。皮膚バリアーとは何か、この分かりやすい説明を、No.225「手を洗いすぎてはいけない」で引用した故・藤田紘一郎博士の著作から引用します(藤田博士は2021年5月に逝去されました)。


人間の皮膚には、表皮ブドウ球菌をはじめとする約10種類以上の「皮膚常在菌ひふじょうざいきん」という細菌がいて、私たちの皮膚を守ってくれています。

彼らは私たちの健康において、非常に重要な役割を担っています。皮膚常在菌は皮膚から出る脂肪をエサにして、脂肪酸の皮脂膜ひしまくをつくり出してくれているのです。この皮脂膜は、弱酸性です。病原体のほとんどは、酸性の場所で生きることができません。つまり、常在菌がつくり出す弱酸性の脂肪酸は、病原体が付着するのを防ぐバリアとして働いているのです。

皮膚を覆う弱酸性のバリアは、感染症から体を守る第一のとりでです。これがしっかり築かれていれば、病原体が手指に付着することを、それだけで防げるのです。

では石けんで手洗いをするとどうなるのでしょうか。

石けんを使うと、一回の手洗いで、皮膚常在菌の約90パーセントが洗い流されると報告されています。ただし、1割ほどの常在菌が残っていれば、彼らが再び増殖し、12時間後にはもとの状態に戻ることもわかっています。したがって、1日1回、お風呂に入って体をふつうに洗う、という程度であれば、弱酸性のバリアを失わずにすみます。

しかし、昔ながらの固形石けんでさえ、常在菌の約9割を洗い流してしまう力があるのです。薬用石けんやハンドソープ、ボディソープなどに宣伝されているほどの殺菌効果が本当にあるのだとしたら、そうしたもので前述の手洗い法のように(引用注:感染症予防で推奨されている12ステップの手洗い。最後はアルコール消毒)細部まで2回も洗い、アルコール消毒などしてしまえば、さらに多くの常在菌が排除されることになります。

しかもそれを数時間ごとに行ってしまうと、どうなるかわかりますか。わずかながら残されている常在菌が復活する時間さえ奪ってしまうことになるのです。

皮膚常在菌の数がいちじるしく減ってしまうと、皮膚は中性になります。脂肪酸のバリアがつくれないからです。脂肪酸のバリアがない皮膚は、要塞ようさいを失ったお城のようなものです。外敵がわんさと襲ってきても、守るすべを失えば、城は炎上します。

脂肪酸を失って中性になった皮膚には、外からの病原体が手に付着しやすくなります。こうなると、手指から口に病原体が運ばれやすくなります。

洗いすぎると皮膚は感染症を引き起こしやすい、「キタナイ」状態になってしまう、というのはこういうことだったのです。

藤田紘一郎
「手を洗いすぎてはいけない」
(光文社新書 2017)

藤田先生の著作は主として病原菌との関係についてなので「皮膚の皮脂膜が感染症を防ぐ」という主旨ですが、重要なことは脂肪酸の皮脂膜が皮膚のバリアの第1のものであることです。それは第2のバリアである「角質」と密に関係しています。


私たちの皮膚は、新旧の細胞がたえず入れ替わっていることで、正常な状態を保っています。新しい細胞は皮膚の最奥で生まれ、古い細胞はどんどん押し上げられ、最後はあかとなって自然とはがれ落ちるようにできています。その垢にある一歩手前の細胞が角質です。

角質は細胞としては死んでいますが、決して無用のものではありません。角質細胞は密に手を組んで幾重のも層をつくり、ほこりやダニなどのなどアレルギーを起こす原因物質(アレルゲン)や、病原体などが皮膚の深部へ入り込むのを防いでくれているのです。つまり、皮膚の丈夫さは、角質層がきちんと形成されていることも大事なポイントです。

その角質層は脂肪酸の皮脂膜で覆われていることで正常な状態を保つことができます。角質層がバラバラにならないよう、皮脂膜が細胞同士をつなぎとめているからです。

ところが皮膚を洗いすぎると皮脂膜がはがれ落ちます。すると、角質層にすき間が生じ、皮膚を組織している細胞がバラバラになっていきます。こうなると、皮膚に潤いを与えている水分の多くが蒸発して、カサカサしてきます。この状態が乾燥肌です。

そんな状態の皮膚を、さらに石けんなどを使って洗えば、乾燥肌が進行して炎症を起こすようになります。こうなると、肌がかゆくてしたなくなります。この状態を「乾燥性皮膚炎」と呼びます。また、ほこりやダニなどのアレルゲンが皮膚内に入り込み、強いかゆみや肌荒れを起こす「アトピー性皮膚炎」の原因にもなります

皮膚常在菌のつくっる皮脂膜は、天然の保湿成分です。皮膚にとって、皮脂膜ほど肌によい "保湿剤" はありません。こんなに大事なことも知らず、多くの人は、常在菌の築いてくれた皮脂膜を手洗いで落とし、人工的に作られた高価な保湿剤を使っているのです。

藤田紘一郎
「手を洗いすぎてはいけない」

皮膚のバリアが崩れると「ほこりやダニなどのアレルゲンが皮膚内に入り込みアトピー性皮膚炎の原因になる」との説明がありますが、同じ原理で

皮膚のバリアが崩れると、食物アレルギーを起こすタンパク質(=アレルゲン)が皮膚内に入り込み、それがアレルギーを引き起こす

というのが、食物アレルギーの経皮感作仮説なのです。


皮膚のバリアを守る


日経サイエンスの記事で、食物アレルギーを起こすタンパク質は特定のものであり、

食物アレルギーの90%は、牛乳、鶏卵、魚、貝、木の実、ピーナツ、小麦、大豆の8つの食品による

としていました。考えてみると、これは非常に不思議です。というのも、これらは太古の昔から人間になじみのある食料だからです。たとえば小麦は1万年以上前に農耕の起源となった作物です。またそれ以前より木の実(特に加熱調理せずに食べられるクルミ、カシューナッツ、アーモンド、ピスタチオなどのナッツ類)は人類の食料源だった。日本の縄文時代では魚が重要な食料源でした。牛乳は牧畜が始まって以降ですが、それでも8000年とか、そういった歴史があります。世界で地域差はあるでしょうが、どれも人類の重要な食料源となってきた食物です。つまり昔から人間の生活環境とともにあったものです。

なぜそれが原因物質となって、20世紀後半、特に近年に食物アレルギーが増えてきたのか。それはやはり生活スタイルの変化に問題があるのでしょう。その変化の一つが、ラック教授や藤田博士が懸念する(過度の)清潔志向です。それは、病原菌やアレルゲンから人体を守ってくれている「皮膚バリア」を破壊しかねない。

「二重抗原曝露仮説」は、進化の過程で得られたヒトの体の仕組みの巧妙さを表すと同時に、その進化の大前提となったきた生活環境を人為的に変化させると、体の仕組みとの齟齬をきたすことを示しているのでした。




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