No.372 - ヒトの進化と "うま味" [科学]
No.360「ヒトの進化と苦味」の続きです。味覚の "基本5味" は、甘味・塩味・酸味・苦味・うま味で、このそれぞれに対応した味覚受容体(= 舌の味蕾細胞の表面にある味覚センサー)が存在します。
味覚受容体のうち、苦味受容体だけは多種類あり、それは霊長類(サルの仲間)の進化と密接な関係があります。つまり小型の霊長類では、マーモセットが20種、リスザルが22種、メガネザルが16種などですが、大型霊長類ではそれよりも種類が多く、ゴリラは25種、チンパンジーは28種、ヒトは26種です。
要点をまとめると、
となるでしょう。これは「霊長類の食性の変化が進化につながり、その裏には味覚の変化がある」という、極めて納得性の高い説明です。
しかし、これだけでは疑問が残ります。苦味受容体が発達したのは「食べてはいけない植物の葉を忌避するため」だったとして、では、そもそも「植物の葉を好んで食べるように嗜好が変化した」のはなぜか、という疑問です。
2024年6月23日の NHK Eテレの「サイエンス ZERO:生命をつなぐ神秘のパワー 味覚」を見ていたら、明治大学の特任講師・戸田安香氏がこの疑問に答えていました。それはうま味受容体の進化です。この内容が興味深かったので、以下に紹介します。
うま味とは
まず、そもそも "うま味" とは何かですが、うま味受容体(細胞表面のうま味センサー)を活性化する物質は、アミノ酸(タンパク質の構成物質)とヌクレオチド(核酸系物質)の2つのカテゴリーがあります。
アミノ酸のうま味物質の代表はグルタミン酸です。和食では昆布のうま味成分がグルタミン酸ですが、昆布以外の海草にも含まれ、また、緑茶、トマトをはじめとする野菜類、魚介類、肉、乳製品、発酵食品などに幅広く含まれます。グルタミン酸以外にも、アスパラギン酸、アラニン、セリンなどのアミノ酸がうま味物質として働きます。
ヌクレオチドとは、糖にリン酸基と塩基が結合している物質の総称です。核酸(DNA, RNA)はヌクレオチドが連鎖している集合体で、1つのヌクレオチドに結合している塩基は DNA の場合、シトシン(C)、グアニン(G)、アデニン(A)、チミン(T)のどれかです。この CGAT の相補的な結合でDNAの2重螺旋構造ができています。生体におけるヌクレオチドは多数あり、例えば「エネルギー通貨」とも言われるアデノシン3リン酸(ATP)もヌクレオチドです。
ヌクレオチドのうま味物質の代表的なものがイノシン酸です。和食の鰹節の "だし" のうま味がイノシン酸ですが、鰹節だけでなく、牛肉、豚肉、魚介類に含まれています。広く "肉類" と言えるでしょう。また、干し椎茸のうま味成分であるグアニル酸もヌクレオチドです。
さらに、グルタミン酸とヌクレオチド(例えばイノシン酸)が同時に作用するとうま味が飛躍的に強く感じられるという、うま味の相乗効果があります。和食の「合わせだし」はこの原理を活用したものです。
霊長類 17種のうま味感覚
ここからが明治大学の戸田安香氏(のグループ)の研究です。霊長類 17種のうま味受容体を調べると、
ことが分かりました。うま味受容体は1種類ですが、霊長類によって微妙に構造が違っていて、受容体が活性化される原理が違うのです。そこで、食物に含まれるうま味物質を調べると、
ことが分かりました。「植物の葉はグルタミン酸を含む」というのは意外な感じもしますが、緑茶(特に玉露)を考えると納得できます。以上をまとめると、霊長類とうま味受容体の進化は次のようになります。
動物の味覚をどうやって調べるのか
「サイエンス ZERO:生命をつなぐ神秘のパワー 味覚」では、17種の霊長類の味覚をどうやって調べたのかの説明がありました。
まず培養細胞を用意します。培養細胞とは、もともとはヒトの細胞ですが、実験室で維持・増殖が可能なように改変してあり、継続的に増殖させて世界で流通しているものです。短時間で増殖する、遺伝子導入がしやすい、などの実験に適した特徴があります。
この培養細胞に霊長類から採取したうま味受容体の遺伝子を "遺伝子導入" します。そうすることで、培養細胞の表面に霊長類のうま味受容体が発現します。また同時に、発光タンパク質の遺伝子を導入すると、細胞内に発光タンパク質が生成されます。この発光タンパク質はカルシウム・イオンに反応して光るタイプのものです。
うま味を感じるメカニズムは、受容体が活性化すると細胞内のカルシウム・イオン濃度が増大し、それが起点となって信号が脳に伝わるというものです。これを実験室で模擬するわけです。
こうして作った培養細胞を多数増殖させ、そこにうま味物質を添加して発光の様子を顕微鏡で記録します。発光が観察されればうま味受容体が活性化している、つまり遺伝子導入した霊長類がその物質にうま味を感じると推定できます。
戸田氏はこの実験系を完成させるために、培養液の種類を変えたり、発光タンパク質のタイプを変更するなど、数々の試行錯誤を行いました。1年半かけて発光が検知できるようになったと、番組で紹介されていました。
素人考えだと、動物の(霊長類の)味覚を調べるには、動物に該当物質を食べさせて反応を観察するしか無いように思いますが、それとは全く違った「バイオテクノロジーを駆使した実験方法」であることが理解できました。
この研究の意義ですが、番組で戸田氏は次のように語っていました。
戸田氏のグループの研究によって「うま味が重要な味覚」であることが一目瞭然になりました。なぜなら、霊長類が大型化しヒトへと進化する過程でうま味が重要な役割を果たしたことが実験で明らかになったからです。
No.108「UMAMIのちから」でも書いたように、1908年、東京帝国大学の池田菊苗博士は、昆布だしの成分がグルタミン酸ナトリウムであることを突き止め、この味を「うま味」と名付けました。そして1909年、世界初のうま味調味料「味の素」が発売された、というのは日本人に広く知られたストーリーです。イノシン酸(1913。小玉新太郎が発見)、グアニル酸(1957。国仲明)も日本人の発見です。
2000年代になってうま味受容体が特定され、第5の味覚であることが科学的に証明されました。しかし、戸田氏によると世界の味覚研究者の間で umami は必ずしもポピュラーになっているわけではない。おそらくumami が日本語だからでしょう。その意味で、うま味をヒトの進化と結びつけた戸田氏(のグループ)の研究は、味覚研究の歴史からして意義深いものです。池田博士から100年以上たってようやくここにたどり着いたと言えるでしょう。
何を食べるかで決まる
今回の研究で、霊長類の "味覚の進化" の一端が解明されました。普通、霊長類の進化というと、頭蓋骨の形とか、顎や歯の形状、脳の容積、運動能力(木登り、直立、歩行など)に関するものがほとんどですが、今回は味覚という "感覚" の進化の研究です。考えてみると、視覚や聴覚、味覚、嗅覚などの感覚は、動物が生き延びて子孫を残す上で超重要なものなのですね。その "感覚" が直接的な研究対象になっていることが有意義だと感じました。
苦味受容体の進化(No.360「ヒトの進化と苦味」)とうま味受容体の進化は、ともに霊長類がタンパク源を植物へと広げ、大型化していった過程と結びついています。その進化の結果としてヒトが出現した。もちろん苦味・うま味だけでなく、甘味(糖)や塩味(ナトリウムイオン)も含めて、動物の食性は味覚と密接にからんでいます。
"You are what you eat" という英語のことわざがあります。少々意訳すると「何を食べるかで、何者であるかが決まる」ということでしょう。これは人についての言葉ですが、動物でも同じはずです。「何を食べるか・何を食べないか」で、体の構造や生理的機能が決まり、食環境に合致するように進化していく。その「食べる・食べない」は味覚に左右されている。そういうことだと理解しました。
ノーベル賞の理由
これ以降は余談です。戸田氏が作った実験系で思い出した話があります。この実験系では「発光タンパク質」が使われていますが、番組によると、当初は「蛍光タンパク質」を使っていたがうまくいかず、発光タンパク質に変えて試行錯誤して実験系を完成させた、とのことでした。
蛍光タンパク質は、ある波長の光(たとえば青色)を当てると、別の波長の光(たとえば赤色)を発するタンパク質です。それに対して発光タンパク質は、細胞からのエネルギーと何らかのトリガー(実験系ではカルシウム・イオン)を受け取って発光するタンパク質です。
2008年のノーベル賞(化学賞)は、緑色蛍光タンパク質を発見したボストン大学名誉教授の下村脩氏ら3人が受賞しました。この緑色蛍光タンパク質の発見以降、数々の蛍光・発光タンパク質が作られるようになりました。これらは細胞内の生命現象を可視化する道具として、生命科学で無くてはならないものになっています。
実は、下村氏のノーベル賞受賞の報道に接したとき、素人としては「そんなにすごいことなのか」と疑問に思ったのを覚えています。しかし今になってよくよく考えてみると、テレビの生命科学・医学番組で放映される「細胞内を可視化した動画」は、その多くに「光るタンパク質」を使っているのですね。我々はそういう動画を見て「光るタンパク質が使われている」などとは考えもしないのだけれど・・・。
戸田氏の実験系の話を知って「ノーベル賞には、それに値する理由がある」ことを、改めて実感しました。
味覚受容体のうち、苦味受容体だけは多種類あり、それは霊長類(サルの仲間)の進化と密接な関係があります。つまり小型の霊長類では、マーモセットが20種、リスザルが22種、メガネザルが16種などですが、大型霊長類ではそれよりも種類が多く、ゴリラは25種、チンパンジーは28種、ヒトは26種です。
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要点をまとめると、
霊長類は進化の過程で、昆虫に加えて植物の葉をタンパク源とするようになった。 | |
植物の葉は昆虫と違って身近に豊富にあり、簡単に手に入る。これが霊長類の大型化につながった。 | |
しかし、植物は生き残りのために多様な毒素を発達させており、それらの毒を苦味として検知するために苦味受容体の種類が増えた。 |
となるでしょう。これは「霊長類の食性の変化が進化につながり、その裏には味覚の変化がある」という、極めて納得性の高い説明です。
しかし、これだけでは疑問が残ります。苦味受容体が発達したのは「食べてはいけない植物の葉を忌避するため」だったとして、では、そもそも「植物の葉を好んで食べるように嗜好が変化した」のはなぜか、という疑問です。
2024年6月23日の NHK Eテレの「サイエンス ZERO:生命をつなぐ神秘のパワー 味覚」を見ていたら、明治大学の特任講師・戸田安香氏がこの疑問に答えていました。それはうま味受容体の進化です。この内容が興味深かったので、以下に紹介します。
うま味とは
まず、そもそも "うま味" とは何かですが、うま味受容体(細胞表面のうま味センサー)を活性化する物質は、アミノ酸(タンパク質の構成物質)とヌクレオチド(核酸系物質)の2つのカテゴリーがあります。
アミノ酸のうま味物質の代表はグルタミン酸です。和食では昆布のうま味成分がグルタミン酸ですが、昆布以外の海草にも含まれ、また、緑茶、トマトをはじめとする野菜類、魚介類、肉、乳製品、発酵食品などに幅広く含まれます。グルタミン酸以外にも、アスパラギン酸、アラニン、セリンなどのアミノ酸がうま味物質として働きます。
ヌクレオチドとは、糖にリン酸基と塩基が結合している物質の総称です。核酸(DNA, RNA)はヌクレオチドが連鎖している集合体で、1つのヌクレオチドに結合している塩基は DNA の場合、シトシン(C)、グアニン(G)、アデニン(A)、チミン(T)のどれかです。この CGAT の相補的な結合でDNAの2重螺旋構造ができています。生体におけるヌクレオチドは多数あり、例えば「エネルギー通貨」とも言われるアデノシン3リン酸(ATP)もヌクレオチドです。
ヌクレオチドのうま味物質の代表的なものがイノシン酸です。和食の鰹節の "だし" のうま味がイノシン酸ですが、鰹節だけでなく、牛肉、豚肉、魚介類に含まれています。広く "肉類" と言えるでしょう。また、干し椎茸のうま味成分であるグアニル酸もヌクレオチドです。
さらに、グルタミン酸とヌクレオチド(例えばイノシン酸)が同時に作用するとうま味が飛躍的に強く感じられるという、うま味の相乗効果があります。和食の「合わせだし」はこの原理を活用したものです。
霊長類 17種のうま味感覚
ここからが明治大学の戸田安香氏(のグループ)の研究です。霊長類 17種のうま味受容体を調べると、
体重が 1kg 以下の小型の霊長類は昆虫をタンパク源としていて、そのうま味受容体はヌクレオチドで活性化される。 | |
体重が 1kg 以上の中・大型の霊長類は主に植物の葉からタンパク質を摂取しており、そのうま味受容体は主にグルタミン酸でで活性化される。 |
ことが分かりました。うま味受容体は1種類ですが、霊長類によって微妙に構造が違っていて、受容体が活性化される原理が違うのです。そこで、食物に含まれるうま味物質を調べると、
昆虫にはグルタミン酸とヌクレオチドの両方が含まれている。 | |
植物の葉はグルタミン酸を含むが、ヌクレオチドをほとんど含まない。 |
ことが分かりました。「植物の葉はグルタミン酸を含む」というのは意外な感じもしますが、緑茶(特に玉露)を考えると納得できます。以上をまとめると、霊長類とうま味受容体の進化は次のようになります。
霊長類はもともと昆虫食であったが、植物の葉にも食性を広げ、それによって大型化し、類人猿の出現に至った。この裏には、うま味受容体の進化がある。つまり、うま味受容体が "ヌクレオチド・センセー" から "グルタミン酸センサー" へと変化し、これによって植物食が可能になった。
小型霊長類のうま味受容体 |
リスザルのうま味受容体の測定結果。横軸はヌクレオチドの濃度(2種測定)で、縦軸は反応の強さ。 |
「サイエンス ZERO」(2024.6.23)より |
大型霊長類のうま味受容体 |
チンパンジーのうま味受容体は、ヌクレオチドよりもグルタミン酸に強く反応する。左側の「別のうま味物質への反応」となっているグラフがグルタミン酸の測定結果。 |
「サイエンス ZERO」(2024.6.23)より |
動物の味覚をどうやって調べるのか
「サイエンス ZERO:生命をつなぐ神秘のパワー 味覚」では、17種の霊長類の味覚をどうやって調べたのかの説明がありました。
まず培養細胞を用意します。培養細胞とは、もともとはヒトの細胞ですが、実験室で維持・増殖が可能なように改変してあり、継続的に増殖させて世界で流通しているものです。短時間で増殖する、遺伝子導入がしやすい、などの実験に適した特徴があります。
この培養細胞に霊長類から採取したうま味受容体の遺伝子を "遺伝子導入" します。そうすることで、培養細胞の表面に霊長類のうま味受容体が発現します。また同時に、発光タンパク質の遺伝子を導入すると、細胞内に発光タンパク質が生成されます。この発光タンパク質はカルシウム・イオンに反応して光るタイプのものです。
うま味を感じるメカニズムは、受容体が活性化すると細胞内のカルシウム・イオン濃度が増大し、それが起点となって信号が脳に伝わるというものです。これを実験室で模擬するわけです。
こうして作った培養細胞を多数増殖させ、そこにうま味物質を添加して発光の様子を顕微鏡で記録します。発光が観察されればうま味受容体が活性化している、つまり遺伝子導入した霊長類がその物質にうま味を感じると推定できます。
戸田氏はこの実験系を完成させるために、培養液の種類を変えたり、発光タンパク質のタイプを変更するなど、数々の試行錯誤を行いました。1年半かけて発光が検知できるようになったと、番組で紹介されていました。
素人考えだと、動物の(霊長類の)味覚を調べるには、動物に該当物質を食べさせて反応を観察するしか無いように思いますが、それとは全く違った「バイオテクノロジーを駆使した実験方法」であることが理解できました。
この研究の意義ですが、番組で戸田氏は次のように語っていました。
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戸田氏のグループの研究によって「うま味が重要な味覚」であることが一目瞭然になりました。なぜなら、霊長類が大型化しヒトへと進化する過程でうま味が重要な役割を果たしたことが実験で明らかになったからです。
No.108「UMAMIのちから」でも書いたように、1908年、東京帝国大学の池田菊苗博士は、昆布だしの成分がグルタミン酸ナトリウムであることを突き止め、この味を「うま味」と名付けました。そして1909年、世界初のうま味調味料「味の素」が発売された、というのは日本人に広く知られたストーリーです。イノシン酸(1913。小玉新太郎が発見)、グアニル酸(1957。国仲明)も日本人の発見です。
2000年代になってうま味受容体が特定され、第5の味覚であることが科学的に証明されました。しかし、戸田氏によると世界の味覚研究者の間で umami は必ずしもポピュラーになっているわけではない。おそらくumami が日本語だからでしょう。その意味で、うま味をヒトの進化と結びつけた戸田氏(のグループ)の研究は、味覚研究の歴史からして意義深いものです。池田博士から100年以上たってようやくここにたどり着いたと言えるでしょう。
何を食べるかで決まる
今回の研究で、霊長類の "味覚の進化" の一端が解明されました。普通、霊長類の進化というと、頭蓋骨の形とか、顎や歯の形状、脳の容積、運動能力(木登り、直立、歩行など)に関するものがほとんどですが、今回は味覚という "感覚" の進化の研究です。考えてみると、視覚や聴覚、味覚、嗅覚などの感覚は、動物が生き延びて子孫を残す上で超重要なものなのですね。その "感覚" が直接的な研究対象になっていることが有意義だと感じました。
苦味受容体の進化(No.360「ヒトの進化と苦味」)とうま味受容体の進化は、ともに霊長類がタンパク源を植物へと広げ、大型化していった過程と結びついています。その進化の結果としてヒトが出現した。もちろん苦味・うま味だけでなく、甘味(糖)や塩味(ナトリウムイオン)も含めて、動物の食性は味覚と密接にからんでいます。
番組の中で、動物の食性と味覚の関係について興味深い話がありました。鳥の祖先は恐竜で(No.210「鳥は "奇妙な恐竜"」)、それも、草食ではなく肉食恐竜です。一般に肉食動物は植物から糖を摂取しないので、甘味受容体が欠如しています(生存に必須のブドウ糖は体内で生成する。No.226「血糖と糖質制限」)。現代でも猫科の動物がそうであり、肉食恐竜の子孫である鳥も甘味受容体が欠如しているのです。
ところが、鳥類の分類上「スズメ亜目」に属する鳥は、うま味受容体で "糖" を検知できることが戸田氏の研究で判明しました。スズメ亜目には、スズメ、メジロ、シジュウカラ、モズ、ウグイス、ヒヨドリ、ヒバリ、ムクドリ、セキレイ、ツバメ、カラスなどの、なじみ深い鳥が含まれます。考えてみると、我々が日常生活でよく見かける野生の鳥はほとんどがスズメ亜目です(それ以外はハト、カモぐらいか)。それもそのはずで、世界に生息する鳥の種の約半数はスズメ亜目であり、鳥類の中では大繁栄しているグループなのです。
この繁栄の理由は、スズメ亜目が肉食(昆虫食)に加えて、花の蜜や穀物を食べるように進化したことが大きく、この裏には「うま味受容体による "糖" の検知」があるというのが戸田氏の見解でした。
ところが、鳥類の分類上「スズメ亜目」に属する鳥は、うま味受容体で "糖" を検知できることが戸田氏の研究で判明しました。スズメ亜目には、スズメ、メジロ、シジュウカラ、モズ、ウグイス、ヒヨドリ、ヒバリ、ムクドリ、セキレイ、ツバメ、カラスなどの、なじみ深い鳥が含まれます。考えてみると、我々が日常生活でよく見かける野生の鳥はほとんどがスズメ亜目です(それ以外はハト、カモぐらいか)。それもそのはずで、世界に生息する鳥の種の約半数はスズメ亜目であり、鳥類の中では大繁栄しているグループなのです。
この繁栄の理由は、スズメ亜目が肉食(昆虫食)に加えて、花の蜜や穀物を食べるように進化したことが大きく、この裏には「うま味受容体による "糖" の検知」があるというのが戸田氏の見解でした。
"You are what you eat" という英語のことわざがあります。少々意訳すると「何を食べるかで、何者であるかが決まる」ということでしょう。これは人についての言葉ですが、動物でも同じはずです。「何を食べるか・何を食べないか」で、体の構造や生理的機能が決まり、食環境に合致するように進化していく。その「食べる・食べない」は味覚に左右されている。そういうことだと理解しました。
ノーベル賞の理由
これ以降は余談です。戸田氏が作った実験系で思い出した話があります。この実験系では「発光タンパク質」が使われていますが、番組によると、当初は「蛍光タンパク質」を使っていたがうまくいかず、発光タンパク質に変えて試行錯誤して実験系を完成させた、とのことでした。
蛍光タンパク質は、ある波長の光(たとえば青色)を当てると、別の波長の光(たとえば赤色)を発するタンパク質です。それに対して発光タンパク質は、細胞からのエネルギーと何らかのトリガー(実験系ではカルシウム・イオン)を受け取って発光するタンパク質です。
2008年のノーベル賞(化学賞)は、緑色蛍光タンパク質を発見したボストン大学名誉教授の下村脩氏ら3人が受賞しました。この緑色蛍光タンパク質の発見以降、数々の蛍光・発光タンパク質が作られるようになりました。これらは細胞内の生命現象を可視化する道具として、生命科学で無くてはならないものになっています。
実は、下村氏のノーベル賞受賞の報道に接したとき、素人としては「そんなにすごいことなのか」と疑問に思ったのを覚えています。しかし今になってよくよく考えてみると、テレビの生命科学・医学番組で放映される「細胞内を可視化した動画」は、その多くに「光るタンパク質」を使っているのですね。我々はそういう動画を見て「光るタンパク質が使われている」などとは考えもしないのだけれど・・・。
戸田氏の実験系の話を知って「ノーベル賞には、それに値する理由がある」ことを、改めて実感しました。
2024-07-13 10:16
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