No.370 - 高校数学で理解するガロア理論(7)可解性の判定 [科学]
\(\newcommand{\bs}[1]{\boldsymbol{#1}} \newcommand{\mr}[1]{\mathrm{#1}} \newcommand{\br}[1]{\textbf{#1}} \newcommand{\ol}[1]{\overline{#1}} \newcommand{\sb}{\subset} \newcommand{\sp}{\supset} \newcommand{\al}{\alpha} \newcommand{\sg}{\sigma}\newcommand{\cd}{\cdots}\)
No.359「高校数学で理解するガロア理論(6)」の補足をここに書きます。No.359 では \(x^5+11x-44=0\) という5次方程式をとりあげ、それが可解であることと(ガロア群は \(D_{10}\))、実際に数式処理ソフトで求めた解を記載しました。しかし、なぜ可解なのか(=四則演算とべき根で表せるのか)、そもそも可解性をどう判断するのには触れませんでした。そこで今回はその補足して、
を書きます。もちろんこれは、「高校数学で理解するガロア理論」シリーズの一部であり、前に書いた以下の記事の知識を前提とします。
No.354 - 高校数学で理解するガロア理論(1)証明の枠組み
No.355 - 高校数学で理解するガロア理論(2)整数の群・多項式・体
No.356 - 高校数学で理解するガロア理論(3)線形空間・群・ガロア群
No.357 - 高校数学で理解するガロア理論(4)可解性の必要条件
No.358 - 高校数学で理解するガロア理論(5)可解性の十分条件
No.359 - 高校数学で理解するガロア理論(6)可解な5次方程式・定理一覧
5次方程式の可解性とガロア群の判定
No.359 で、可解な5次方程式 \(x^5-2=0\) のガロア群が、位数 \(20\) のフロベニウス群 \(F_{20}\) であることを確認しました。一般に5次方程式のガロア群は、
の5種しかないことが知られています。このうち、
\(F_{20}\)、\(D_{10}\)、\(C_5\)
が可解群です(\(D_{10}\) は \(D_5\) と書く流儀もある)。\(S_5\) と \(A_5\) が可解でないことは「対称群の可解性」(65G)で証明しました。これらの群の、集合としての包括関係は、
です。\(F_{20}\)(下図)は奇置換と偶置換の両方を含むので、\(A_5\) の部分集合ではありあません。
そこで問題になるのは、ある5次方程式があったとき可解かどうか、ないしはガロア群が何かを判定する方法です。この判定のアルゴリズムを以下に書きます。それには「剰余類」と「共役群」の知識が必要なので、まずそれについて書きます。以降の内容は次の2つの文献を参考にしました。
文献1
Alexander D. Healy :
"Resultants, Resolvents and the Computation of Galois Groups"
文献2
D. S. Dummit :
"Solving Solvable Quintics"
剰余類
剰余類については No.356 の「4.一般の群」で書きましたが(41E)、改めて復習します。群 \(G\) の部分群を \(H\) とし、群 \(G\) の全ての元、
\(g_1=e,\:g_2,\:g_3,\:\cd\:,g_n\:\:(n=|G|)\)
を \(H\) に群演算した \(n\) 個の集合、
\(g_1H,\:g_2H,\:\cd\:,\:g_nH\)
を考えます(ここでは左から掛けるとしますが、右からでも同じ議論になります)。これらの任意の2つの集合 \(g_iH\) と \(g_jH\:(i\neq j)\) を比較すると、
のどちらかになります。なぜなら、もし \(g_1H\) と \(g_2H\) に同じ元があるとして、それが \(g_1H\) では \(g_1h_i\)、\(g_2H\) では \(g_2h_j\) と表されているとします。
\(g_1h_i=g_2h_j\)
です。これに左から \(g_2^{-1}\)、右から \(h_i^{-1}\) を掛けると、
\(g_2^{-1}g_1=h_jh_i^{-1}\:\in\:H\)
\(g_2^{-1}g_1\:\in\:H\)
となります。一般に \(h\in H\) と \(hH=H\) は同値なので(41C)、
\(g_2^{-1}g_1H=H\)
が得られますが、これに左から \(g_2\) を掛けると、
\(g_1H=g_2H\)
となります。従って、
になります。このことの対偶は
です。\(g_1H\) と \(g_2H\) の選択は任意なので、2つの剰余類について「全く同じか、全く違う」が成り立ちます。そこで、集合として同じものを一つにまとめてしまいます。その結果として \(d\) 個の集合ができたとして、
\(g_iH\:\:(1\leq i\leq d)\)
を「剰余類」と呼び、\(G/H\) で表します。\(g_i\) の選び方には自由度がありますが、どれかを採用して \(g_i\) を代表元と言います。この結果、
\(G=g_1H\:\cup\:g_2H\:\cup\:\cd\cup\:g_dH\)
\(g_iH\cap g_jH=\phi\:\:(i\neq j)\)
\(|G|=d|H|\)
となり、\(G\) が \(H\) による剰余類で "分割" できたことになります。この分割は、\(g_1=e\) として、\(H\) に含まれない \(G\) の元を \(g_2\) とし、\(g_1H\) と \(g_2H\) に含まれない \(G\) の元を \(g_3\) とし・・・というように \(G\) の元が尽きるまで続ける、と考えても同じです。
\(G=S_5\)、\(H=F_{20}\) の例で考えます。\(F_{20}\) の生成元は、巡回置換で表して、
\((1,\:2,\:3,\:4,\:5),\:(2,\:3,\:5,\:4)\)
とします。\(|S_5|/|F_{20}|=6\) なので、\(S_5\) は 部分群 \(F_{20}\) によって6つの剰余類 \(S_5/F_{20}\) に分割されます。その代表元を \(g_1,\) \(g_2,\) \(g_3,\) \(g_4,\) \(g_5,\) \(g_6\) とします。実際に計算してみると、たとえば代表元として、
\(g_1=e\)
\(g_2=(1,\:2,\:3)\)
\(g_3=(1,\:3,\:2)\)
\(g_4=(1,\:2)\)
\(g_5=(1,\:3)\)
\(g_6=(2,\:3)\)
とすることができます。以降、\(S_5/F_{20}\) を問題にするときには、この代表元を使って計算します。もちろん代表元の選び方には自由度があって、たとえば \(e,\) \((1,\:2),\) \((1,\:3),\) \((1,\:4),\) \((1,\:5),\) \((2,\:5)\) と選ぶこともできます。
さらに計算してみると、6つの剰余類 \(S_5/F_{20}\) には次の性質があることがわかります。つまり、\(\sg\) を、
\(\sg=(1,\:2,\:3,\:4,\:5)\in H\)
の巡回置換とすると、
\(\sg\:g_1H=g_1H\)
\(\sg\:g_2H=g_5H\)
\(\sg\:g_3H=g_4H\)
\(\sg\:g_4H=g_6H\)
\(\sg\:g_5H=g_3H\)
\(\sg\:g_6H=g_2H\)
が成り立ちます。これが成り立つことは、たとえば、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:g_5^{-1}\sg\:g_2&=(1,\:3)(1,\:2,\:3,\:4,\:5)(1,\:2)\\
&&&=(2,\:4,\:5,\:3)\in H\\
&&&\longrightarrow\:g_5^{-1}\sg\:g_2H=H\\
&&&\longrightarrow\:\sg\:g_2H=g_5H\\
\end{eqnarray}\)
と確認できます。同様にして、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:g_4^{-1}\sg\:g_3&=(1,\:2)(1,\:2,\:3,\:4,\:5)(1,\:3,\:2)\\
&&&=(1,\:4,\:5,\:2)\in H\\
&&&\longrightarrow\:\sg\:g_3H=g_4H\\
\end{eqnarray}\)
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:g_6^{-1}\sg\:g_4&=(2,\:3)(1,\:2,\:3,\:4,\:5)(1,\:2)\\
&&&=(1,\:2,\:3,\:4,\:5)\in H\\
&&&\longrightarrow\:\sg\:g_4H=g_6H\\
\end{eqnarray}\)
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:g_3^{-1}\sg\:g_5&=(1,\:3,\:2)^{-1}(1,\:2,\:3,\:4,\:5)(1,\:3)\\
&&&=(1,\:2,\:3)(1,\:2,\:3,\:4,\:5)(1,\:3)\\
&&&=(1,\:4,\:5,\:2)\in H\\
&&&\longrightarrow\:\sg\:g_5H=g_3H\\
\end{eqnarray}\)
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:g_2^{-1}\sg\:g_6&=(1,\:2,\:3)^{-1}(1,\:2,\:3,\:4,\:5)(2,\:3)\\
&&&=(1,\:3,\:2)(1,\:2,\:3,\:4,\:5)(2,\:3)\\
&&&=(2,\:4,\:5,\:3)\in H\\
&&&\longrightarrow\:\sg\:g_6H=g_2H\\
\end{eqnarray}\)
であり、上の式が成り立つことが確認できます。つまり、\(g_1H\:(=H)\) だけは \(\sg\) を作用させても不変ですが、その他の剰余類に \(\sg\) を作用させると、順に、
\(g_2H\:\overset{\large\sg}{\rightarrow}\:g_5H\:\overset{\large\sg}{\rightarrow}\:g_3H\:\overset{\large\sg}{\rightarrow}\:g_4H\:\overset{\large\sg}{\rightarrow}\:g_6H\:\overset{\large\sg}{\rightarrow}\:g_2H\:\rightarrow\:\cd\)
と "巡回" します。このことは、後で可解性の条件定理で使います。
共役群
群 \(G\) の部分群を \(H\) とします。群 \(G\) の任意の元 を \(x\) とするとき、
\(xHx^{-1}\) \((x\in G)\)
を「\(H\) と共役な群」と言います(\(x^{-1}Hx\) と定義してもよい)。これが群になることは、\(h_1,\:h_2,\:h_3\:\in\:H\)、\(h_1h_2=h_3\) のとき、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:(xh_1x^{-1})(xh_2x^{-1})&=xh_1h_2x^{-1}\\
&&&=xh_3x_{-1}\:\in\:xHx^{-1}\\
\end{eqnarray}\)
というように、\(xHx^{-1}\) が群演算で閉じていることから分かります。
\(H\) と共役な群 \(xHx^{-1}\) は \(x\) の個数=群の位数だけあることになりますが、これら全てが違う群ではありません。もし \(H\) が \(G\) の正規部分群であれば、\(G\) の任意の元 \(x\) について \(xHx^{-1}=H\) が成り立つので、\(H\) と共役な部分群は \(H\) 自身だけです。
また、\(x,\:y\:\in\:G\) が同じ剰余類 \(G/H\) に属しているとすると、その剰余類の代表元を \(g_1\) として、
\(x=g_1h_i\)
\(y=g_1h_j\)
と表現できますが、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:xHx^{-1}&=g_1h_iHh_i^{-1}g_1^{-1}\\
&&&=g_1Hg_1^{-1}\\
&&\:\:yHy^{-1}&=g_1h_jHh_j^{-1}g_1^{-1}\\
&&&=g_1Hg_1^{-1}\\
&&\:\:xHx^{-1}&=yHy^{-1}\\
\end{eqnarray}\)
となって、\(x,\:y\) による \(H\) の共役群は同じものです。従って、\(H\) の共役群の数は最大で \(G\) の \(H\) による剰余類の数\(=|G|/|H|\) です。
フロベニウス群 \(F_{20}\) は \(S_5\) の正規部分群ではありません。計算してみると、剰余類 \(G/H\) の代表元 \(g_i\:(1\leq i\leq6)\)に対して、次の6つの共役な部分群があることが分かります。\(H=\langle\:(1,2,3,4,5),\:(2,3,5,4)\:\rangle\) とすると、\(H_i=g_iHg_i^{-1}\) はそれぞれ、
\(g_1=e\)
\(H_1=\langle\:(1,2,3,4,5),\:(2,3,5,4)\:\rangle=H\)
\(g_2=(1,\:2,\:3)\)
\(H_2=\langle\:(1,2,4,3,5),\:(2,4,5,3)\:\rangle\)
\(g_3=(1,\:3,\:2)\)
\(H_3=\langle\:(1,2,4,5,3),\:(2,4,3,5)\:\rangle\)
\(g_4=(1,\:2)\)
\(H_4=\langle\:(1,2,5,4,3),\:(2,5,3,4)\:\rangle\)
\(g_5=(1,\:3)\)
\(H_5=\langle\:(1,2,3,5,4),\:(2,3,4,5)\:\rangle\)
\(g_6=(2,\:3)\)
\(H_6=\langle\:(1,2,5,3,4),\:(2,5,4,3)\:\rangle\)
です。また \(S_5\) の任意の元を \(g\) とすると、\(H\) の \(g\) による共役群 \(gHg^{-1}\) は、\(g\) が属する剰余類の代表元 \(g_i\) を用いて、
\(gHg^{-1}=g_iHg_i^{-1}\) \((g,\:g_i\in H_i)\)
と表せることになります。
ある5次方程式のガロア群がフロベニウス群である、という場合、共役な6つの群のどれかであることを言っています。総称してフロベニウス群、とも言えます。
固定化群とリゾルベント
固定化群
以下は5次方程式を念頭に記述しますが、一般の \(n\)次方程式としても同じです。
\(S_5\) の部分群を \(G\) とします(\(G\subset S_5\))。\(G\) は \(S_5\) そのものであってもかまいません。次に、5変数、\(X_1,\:X_2,\:X_3,\:X_4,\:X_5\) の任意の多項式、
\(F(X_1,\:X_2,\:X_3,\:X_4,\:X_5)\)
を考えます。そして「\(S_5\) の任意の元 \(\sg\) による \(F\) への作用」を考えます。\(F\) は \(\sg\) の作用によって変数の入れ替えが起こります。たとえば、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:F&=X_1^2X_2+X_2^2X_3\\
&&\:\:\sg&=(1,\:2)\\
\end{eqnarray}\)
だと、
\(\sg F=X_2^2X_1+X_1^2X_3\)
です。この、多項式とそれへの作用を用いて固定化群(ないしは安定化群)の定義をします。
固定化群 \(H\) は、多項式 \(F\) と群 \(G\) に依存しているので \(H_{(F,G)}\) としました。いくつかの例をあげます。\(G=D_6\)(3次の2面体群。\(=S_3\))とすると、
などです。
リゾルベント(Resolvent)
以降、一般の既約な5次多項式を、
で表します。根と係数の関係から、 \(a\) ~ \(e\) は \(x_i\) の基本対称式で表現できます。その具体的な形は No.357「高校数学で理解するガロア理論(4)」の「6.5 5次方程式に解の公式はない」の定理(65H)にあげました。
次にリゾルベントを定義します。定義に使うのは、
です。
\(g_i\cdot F(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5)\) という表記は、
の意味です。\(g\in G\) とすると、
\(g\cdot F(X_1,X_2,X_3,X_4,X_5)=\)
\(F(X_{g(1)},X_{g(2)},X_{g(3)},X_{g(4)},X_{g(5)})\)
\(g\cdot F(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5)=\)
\(F(x_{g(1)},x_{g(2)},x_{g(3)},x_{g(4)},x_{g(5)})\)
の意味です。\(g=(1,2,3)\) とすると、\(g(1)=2\)、\(g(2)=3\)、\(g(3)=1\)、\(g(4)=4\)、\(g(5)=5\) です。また以降で、関数 \(F(X_1,X_2,X_3,X_4,X_5)\) と 値 \(F(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5)\) を \(F\) と簡略表記します。どちらを指すかは文脈によります。
このように、剰余類 \(G/H\) の代表元 \(g_i\) を \(F(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5)\) に作用させることの意味を考えてみます。いま \(G\) の任意の元を \(g_\al,\:g_\beta\)とし、同じ剰余類 \(g_iH\) に属するとします。そうすると、\(H\) の適当な元 \(h_s,\:h_t\) を用いて、
\(g_\al=g_ih_s\)
\(g_\beta=g_ih_t\)
と表現できます。すると、
\(g_\al\cdot F=g_ih_s\cdot F=g_i\cdot F\)
\(g_\beta\cdot F=g_ih_t\cdot F=g_i\cdot F\)
となるので(\(H\) の元 \(h_s,\:h_t\) を \(F\) に作用させても不変)、
\(g_\al\cdot F=g_\beta\cdot F\)
となり、\(g_\al\cdot F\) と \(g_\beta\cdot F\) は同じ多項式です。ということは、\(G\) の元を \(F\) に作用させた多項式は最大、
\(g_1\cdot F,\:\:g_2\cdot F,\:\cd\cd\:,\:\:g_d\cdot F\)
の \(d\) 種類(=剰余類の数)あることになります(\(g_1,\:g_2,\:\cd\:g_d\) は \(G/H\) の代表元)。逆に、\(1\leq i,\:j\leq d\)(但し、\(i=j=1\) ではない) とし、
\(g_i\cdot F=g_j\cdot F\)
になるとすると、
\(g_j^{-1}g_i\cdot F=F\)
\(g_j^{-1}g_i\in H\)
\(g_j^{-1}g_iH=H\)
\(g_iH=g_jH\)
\(g_i=g_j\)
となります。この対偶は「\(g_i\neq g_j\) なら \(g_iF\neq g_jF\)」であり、\(G\) の元を \(F\) に作用させた多項式は、
\(g_1\cdot F,\:\:g_2\cdot F,\:\cd\cd\:,\:g_d\cdot F\)
の \(d\) 種類です。これらを「(\(\bs{G}\) における)\(\bs{F}\) と共役な多項式」と呼ぶことにします。
そもそも \(G/H\) の代表元は、\(g_iH\:(1\leq i\leq|G|)\) の集合から同じもを集めて、それらの代表として \(g_1H,\:g_2H,\:\cd\:g_dH\) としたものであり、
\(G=g_1H\:\cup\:g_2H\:\cup\:\cd\:\cup\:g_dH\)
が成り立つのでした。従って、\(G\) の任意の元を \(g\) とすると、\(gG=G\) なので、\(gg_iH\:(1\leq i\leq|G|)\) の集合から同じもを集めると、それらの代表として \(gg_1H,\:gg_2H,\:\cd\:,\:gg_dH\) とすることができ、
\(G=gg_1H\:\cup\:gg_2H\:\cup\:\cd\:\cup\:gg_dH\)
も成り立ちます。つまり、\(G/H\) の代表元を \(g_1,\:g_2,\:\cd\:,\:g_d\) とすると、\(gg_1,\:gg_2,\:\cd\:,\:gg_d\) も \(G/H\) の代表元です。従って、多項式 \(F\) へ作用させた、
\(gg_1\cdot F,\:gg_2\cdot F,\:\cd\:,\:gg_d\cdot F\)
の \(d\) 個の多項式も「\(F\) と共役な多項式」です。つまり、これら \(\bs{d}\) 個の多項式の集合を考えると、
\(\{g_1\cdot F,\:g_2\cdot F,\:\cd\:,\:g_d\cdot F\}=\)
\(\{gg_1\cdot F,\:gg_2\cdot F,\:\cd\:,\:gg_d\cdot F\}\)
であり、集合としては同じもの( \(\bs{\br{①}}\) )です。ここでリゾルベントの定義式を振り返ると、
\(R(x)=\displaystyle\prod_{i=1}^{d}(x-g_i\cdot F(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5))\)
であり、\(g_1\cdot F,\:g_2\cdot F,\:\cd\:,\:g_d\cdot F\) の対称式になっています。つまり \(\bs{R(x)}\) は任意の2つの \(\bs{g_i\cdot F,\:g_j\cdot F}\) の入れ替えで不変( \(\bs{\br{②}}\) )です。結局、\(\bs{\br{①}}\) と \(\bs{\br{②}}\) を合わせると、
\(g\cdot R(x)=R(x)\)
が分かります。つまり \(\bs{R(x)}\) は \(\bs{G}\) の任意の元の作用で不変です。\(G\) は \(S_5\) かその部分群で、\(f(x)=0\) の5つの根 \(x_1,\:x_2,\:x_3,\:x_4,\:x_5\) を置換するものでした。この置換で不変ということは、 \(R(x)\) の係数は \(x_1,\:x_2,\:x_3,\:x_4,\:x_5\) の基本対称式で表現できます。従って \(R(x)\) の係数は \(f(x)\) の係数で表現できる有理数です。
\(F\) の \(G\) における固定化群は \(H\) でした。では、\(g\cdot F\:(g\in G)\) の固定化群は何かを調べてみると、\(H\) の任意の元を \(h\) として、
\(ghg^{-1}g\cdot F=gh\cdot F=g\cdot F\)
なので、\(ghg^{-1}\) は \(g\cdot F\) を固定します。 \(h\) は任意なので、
\(g\cdot F\) の固定化群は \(gHg^{-1}\) であり、\(H\) とは共役な群
であることがわかります。以上を踏まえて次の定理を証明します。この定理は文献1によります。
ガロア群とリゾルベントの関係
[主張1の証明]
\(\mr{Gal}(\bs{L}/\bs{Q})\) が \(H\) の部分群 \(N\:(N\subset H)\) と共役とすると、\(\sg\in G\) である \(\sg\) が存在し、\(\mr{Gal}(\bs{L}/\bs{Q})=\sg N\sg^{-1}\) と表せる。従って \(\tau\in\mr{Gal}(\bs{L}/\bs{Q})\) である任意の \(\tau\) をとると、\(\tau=\sg\:\mu\:\sg^{-1}\:(\mu\in N)\) と表せる。また、\(\sg\) が含まれる剰余類 \(G/H\) を \(g_iH\) とすると、\(\sg\) は適当な \(H\) の元 \(\eta\) を用いて \(\sg=g_i\:\eta\) と表せる。
ここでリゾルベントの定義式のうちの、
\(g_i\cdot F(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5)\)
に着目すると(以下、\(F(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5)\) を \(F\) と書く)、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:\tau(g_i\cdot F)&=\sg\:\mu\:\sg^{-1}(g_i\cdot F)\\
&&&=g_i\:\eta\:\mu\:\eta^{-1}g_i^{-1}g_i\cdot F\\
&&&=g_i\:\eta\:\mu\:\eta^{-1}\cdot F\\
\end{eqnarray}\)
となるが、\(\eta\)、\(\mu\)、\(\eta^{-1}\) はいずれも \(H\) の元なので、\(F\) に作用すると \(F\) を固定する。従って、
\(\tau(g_i\cdot F)=g_i\cdot F\)
であり、\(g_i\cdot F\) は \(\tau\) の作用で不変である。\(\tau\) は \(\mr{Gal}(\bs{L}/\bs{Q})\) の任意の元であり、ガロア群の任意の元で不変な \(g_i\cdot F\) は有理数である。\(g_i\cdot F\) はリゾルベント方程式の根の一つだから、方程式は有理数の根を持つ。[証明終]
[主張2の証明]
\(g_i\cdot F(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5)\) がリゾルベント方程式の重複度1の有理数の根であったとする。\(\mr{Gal}(\bs{L}/\bs{Q})\) の任意の元 \(\tau\) は 有理数を固定する。\(g_i\cdot F\) は重複度1の根なので、\(g_i\cdot F\) 以外に有理数の根 \(g_j\cdot F\) があったとしても、\(g_i\cdot F\neq g_j\cdot F\:\:(i\neq j)\) である。従って、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:\tau\:g_i\cdot F=&g_i\cdot F\\
&&\:\:\tau\:g_i\cdot F\neq&g_j\cdot F\:\:(i\neq j)\\
\end{eqnarray}\)
が成り立つ。これは、\(\mr{Gal}(\bs{L}/\bs{Q})\) の任意の元 \(\tau\) が \(g_i\cdot F\) の固定化群に含まれることを意味する。\(F\) の固定化群 \(H\) の 任意の元を \(h\) とすると、\(h\cdot F=F\) であるが、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:g_ihg_i^{-1}g_i\cdot F&=g_ih\cdot F\\
&&&=g_i\cdot F\\
\end{eqnarray}\)
なので \(g_ihg_i^{-1}\) は \(g_i\cdot F\) を固定する。\(h\) は \(H\) の任意の元だから、\(g_i\cdot F\) の固定化群は \(H\) と共役な \(g_iHg_i^{-1}\) である。つまり、\(\mr{Gal}(\bs{L}/\bs{Q})\) の任意の元 \(\tau\) が \(\tau\in g_iHg_i^{-1}\) なので、\(\mr{Gal}(\bs{L}/\bs{Q})\) は \(H\) と共役な群の部分群である。[証明終]
リゾルベント \(R(x)\) を計算するためには、定義どおりにすると \(f(x)=0\) の根、\(x_1,\:x_2,\:x_3,\:x_4,\:x_5\) が必要です。しかし \(G=S_5\) の場合は、任意の \(g\in S_5\) について
\(g\cdot R(x)=R(x)\)
です。ということは、\(R(x)\) の係数は \(x_1,\:x_2,\:x_3,\:x_4,\:x_5\) の基本対称式で表されることになり、つまり方程式 \(\bs{f(x)=0}\) の係数だけから \(\bs{R(x)}\) の計算が可能です。
主張1の対偶は、
であり、これを方程式のガロア群の判断に使えます。たとえば、\(G=S_5,\:H=F_{20}\) の場合、\(R(x)=0\) が有理数の根をもたなければ、ガロア群は \(S_5\) か \(A_5\) です。
主張2の証明の流れをみると「\(\mr{Gal}(\bs{L}/\bs{Q})\) は \(H\) と共役な群の部分群である」ではなく、「\(\mr{Gal}(\bs{L}/\bs{Q})\) は \(H\) の部分群である」というようにできることが分かります。つまり、方程式 \(f(x)=0\) の根を \(x_1,\:x_2,\:x_3,\:x_4,\:x_5\) と求め、\(g_i\cdot F(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5)\) が有理数だと分かったとき、根を入れ替えて、
\(x_i=x_{g_i(i)}\)
とし、変換後の \(x_i\) で \(R(x)\) を計算すれば、\(g_1\cdot F(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5)\) が有理数になり、\(g_1=e\) なので \(\mr{Gal}(\bs{L}/\bs{Q})=H\) となります。つまり、根の入れ替えによってガロア群を "互いに共役な複数の群の中のどれかに一つに固定" できる。これは、\(G=F_{20}\)、\(H=C_5\) の場合に、\(G\) を \(F_{20}\) の6つの共役群のなかの \(\langle\:(1,2,3,4,5),\:(2,3,5,4)\:\rangle\) に固定したいときに使います(後述)。
\(x^5+11x-44=0\)
以下、\(x^5+11x-44=0\) を例に、「ガロア群とリゾルベントの関係性定理」を使って可解性とガロア群を判定します。
固定化群:\(F_{20}\)
可解性の判定のためには、ガロア群が \(F_{20}\) の部分群かどうかを判定すればよいわけです。そこでまず \(G=S_5\) とし、多項式 \(F(X_1,X_2,X_3,X_4,X_5)\) を、
\(F(X_1,X_2,X_3,X_4,X_5)\)
\(\begin{eqnarray}
&&\:\: =&X_1^2(X_2X_5+X_3X_4)+X_2^2(X_1X_3+X_4X_5)+\\
&&&X_3^2(X_1X_5+X_2X_4)+X_4^2(X_1X_2+X_3X_5)+\\
&&&X_5^2(X_1X_4+X_2X_3)\\
\end{eqnarray}\)
と定義します。そうするとこの多項式の固定化群 \(H\) は、
\(H=\langle\:(1,2,3,4,5),\:(2,3,5,4)\:\rangle\)
のフロベニウス群 \(F_{20}\) になります。そのことを確認してみると、
\((1,2,3,4,5)\cdot F\)
\(\begin{eqnarray}
&&\:\: =&X_2^2(X_3X_1+X_4X_5)+X_3^2(X_2X_4+X_5X_1)+\\
&&&X_4^2(X_2X_1+X_3X_5)+X_5^2(X_2X_3+X_4X_1)+\\
&&&X_1^2(X_2X_5+X_3X_4)\\
&&\:\: =&F\\
\end{eqnarray}\)
\((2,3,5,4)\cdot F\)
\(\begin{eqnarray}
&&\:\: =&X_1^2(X_3X_4+X_5X_2)+X_3^2(X_1X_5+X_2X_4)+\\
&&&X_5^2(X_1X_4+X_3X_2)+X_2^2(X_1X_3+X_5X_4)+\\
&&&X_4^2(X_1X_2+X_3X_5)\\
&&\:\: =&F\\
\end{eqnarray}\)
となって、確かに \(F\) の固定化群が \(H\) だと分かります。ここで \(H\) は6つある共役群のうちの特定の1つであることに注意します。剰余類 \(G/H\) の代表元を、
\(e,\:(1,2,3),\:(1,3,2),\:(1,2),\:(1,3),\:(2,3)\)
として、
\(F_1=F\)
\(F_2=(1,2,3)\cdot F\)
\(F_3=(1,3,2)\cdot F\)
\(F_4=(1,2)\cdot F\)
\(F_5=(1,3)\cdot F\)
\(F_6=(2,3)\cdot F\)
とします。方程式 \(f(x)=0\) の5つの解を \(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5\) とし、\(X_i\) に \(x_i\) を代入したものを改めて \(F_i\) として(\(1\leq i\leq6\))、
\(R_{S5/F20}(x)=(x-F_1)(x-F_2)(x-F_3)(x-F_4)(x-F_5)(x-F_6)\)
でリゾルベントを定義します。この \(R(x)\) を \(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5\) の基本対称式で表し、基本対称式に方程式の係数を割り当てれば、\(R(x)\) の具体的な形が求まります。ちなみに代表元のとり方には自由度があるので、上で書いたように、たとえば \((1,2)\) \((1,3)\) \((1,4)\) \((1,5)\) \((2,5)\) などとしても、同じ \(R(x)\) になります。
まず、方程式を \(x^5+px+q=0\) として \(R(x)\) を求めてみます。この計算は、さすがに手計算では厳しいので、Python の SymPy モジュールで計算することにします。コードの例は後述します。この結果、
\(\begin{eqnarray}
&&R_{S5/F20}(x)=&x^6+8px^5+40p^2x^4+160p^3x^3+400p^4x^2+\\
&&&(512p^5-3125q^4)x+256p^6-9375pq^4\\
\end{eqnarray}\)
となります。これに \(x^5+11x-44\) の係数を入れると、
\(\begin{eqnarray}
&&R_{S5/F20}(x)&=&x^6+88x^5+4840x^4+212960x^3+5856400x^2\\
&&&&-11630341888x-386068880384\\
&&&=&(x-88)(x^5+176x^4+20328x^3+2001824x^2\\
&&&&+182016912x+4387146368)\\
\end{eqnarray}\)
です。この結果、リゾルベント方程式が \(x=88\) の根をもつので、\(x^5+11x-44=0\) の方程式は可解であると判断できます。ガロア群は \(F_{20},\:D_{10},\:C_5\) のどれかです。もし仮に \(R_{S5/F20}(x)=0\) が有理数の根をもたなければ、ガロア群は \(S_5\) か \(A_5\) です。
実は、リゾルベント方程式、\(R_{S5/F20}(x)=0\) が有理数根を持てば、その有理数根は重複度1の根(単根)であり、他に有理数根はないことが言えます。その理由ですが、いま、\(F_1\) が有理数だとします。もし \(F_1\) が有理数でなければ、根 \(x_1,\:x_2,\:x_3,\:x_4,\:x_5\) の順序を入れ替えて \(F_1\) を有理数にできるので、こう仮定して一般性を失いません。そして、
\(r(x)=(x-F_2)(x-F_3)(x-F_4)(x-F_5)(x-F_6)=0\)
の5次方程式を考えます。この \(r(x)\) の最小分解体を \(\bs{L}_{r(x)}\) とし、ガロア群を \(\mr{Gal}(\bs{L}_{r(x)}/\bs{Q})\) とします。
ここで一般論です。既約多項式のガロア群は根の集合に対して根を置換するように作用しますが、この作用は推移的(transitive)です。推移的とは、群(たとえばガロア群 \(G\))が集合(たとえば方程式の根の集合 \(X\))に対して作用(たとえば、根 \(x_1,\) \(x_2,\) \(x_3,\) \(x_4,\) \(x_5\) の置換)するとき、\(X\) の任意の2つの元 \(x_i,\:x_j\) について、
\(\sg(x_i)=x_j\) \((\sg\in G)\)
となる \(\sg\) が必ず存在することを意味します。既約多項式のガロア群は、その定義から推移的です。この逆で、ガロア群が推移的であれば方程式は既約であることも成り立ちます。
\(r(x)=0\) の根は、\(F_2,\:F_3,\:F_4,\:F_5,\:F_6\) であり、
\(F_1=F\)
\(F_2=(1,2,3)\cdot F\)
\(F_3=(1,3,2)\cdot F\)
\(F_4=(1,2)\cdot F\)
\(F_5=(1,3)\cdot F\)
\(F_6=(2,3)\cdot F\)
ですが、剰余類の説明のところに書いたように、\(\sg\) を \((1,\:2,\:3,\:4,\:5)\) の巡回置換とすると、
となり、\(\bs{\sg}\) は、\(\bs{F_2,\:F_3,\:F_4,\:F_5,\:F_6}\) という \(\bs{r(x)=0}\) の5つの根の置換するように作用します。かつ \(\sg\) を順々に作用させると根は 、
\(F_2\:\overset{\large\sg}{\rightarrow}\:F_5\:\overset{\large\sg}{\rightarrow}\:F_3\:\overset{\large\sg}{\rightarrow}\:F_4\:\overset{\large\sg}{\rightarrow}\:F_6\:\overset{\large\sg}{\rightarrow}\:F_2\:\rightarrow\:\cd\)
と巡回します。これは、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:C_5&=\langle\:(1,2,3,4,5)\:\rangle\\
&&&=\{\:\sg,\:\sg^2,\:\sg^3,\:\sg^4,\:\sg^5=e\:\}\\
\end{eqnarray}\)
が \(\mr{Gal}(\bs{L}_{r(x)}\:/\bs{Q})\) の部分群であり、\(\bs{\mr{Gal}(\bs{L}_{r(x)}\:/\bs{Q})}\) の \(\bs{r(x)=0}\) の根に対する作用は推移的であることを意味します。従って \(\bs{r(x)}\) は既約多項式です。これから言えるのは、
ということです。従って、5次方程式の可解性判断は次のように結論づけられます。
固定化群:\(A_5\)
ガロア群が \(F_{20},\:D_{10},\:C_5\) のどれかを調べるには、固定化群が5次交代群 \(\bs{A_5}\) となる多項式を利用します。
\(F(X_1,X_2,X_3,X_4,X_5)=\)
\(\begin{eqnarray}
&&\:\: &(X_1-X_2)(X_1-X_3)(X_1-X_4)(X_1-X_5)\\
&&&(X_2-X_3)(X_2-X_4)(X_2-X_5)\\
&&&(X_3-X_4)(X_3-X_5)(X_4-X_5)\\
\end{eqnarray}\)
とおきます。\(F\) は 任意の互換の作用で \(-F\) になるので、任意の偶数個の互換を作用させても不変です。つまり \(F\) の固定化群は \(A_5\) です。剰余類 \(S_5/A_5\) の代表元としては、互換のどれかを選ぶことができます。従って、
\(F_1=F\)
\(F_2=(1,2)\cdot F=-F\)
とすることができて、これに方程式の5つの解 \(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5\) を代入して、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:R_{S5/A5}(x)&=(x-F_1)(x-F_2)\\
&&&=x^2-F^2\\
\end{eqnarray}\)
でリゾルベントを定義します。リゾルベント方程式 \(R_{S5/A5}(x)=0\) は、相異なる2つの有理数根(\(F\) と \(-F\))をもつか、ないしは有理数根をもたないかのどちらかです。この \(R(x)\) を \(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5\) の基本対称式で表し、基本対称式に方程式の係数を割り当てれば、\(R(x)\) の具体的な形が求まります。ちなみに、\(F\) は差積(数学記号では \(\Delta\))、\(F^2\) は判別式(数学記号では \(D\))と呼ばれています。
方程式を \(x^5+px+q\) として \(R(x)\) を求めてみると、
\(R_{S5/A5}(x)=x^2-(256p^5+3125q^4)\)
となります。これに \(x^5+11x-44\) の係数を入れると、
\(\begin{eqnarray}
&&R_{S5/A5}(x)&=x^2-11754029056\\
&&&=(x-108416)(x+108416)\\
\end{eqnarray}\)
となり、リゾルベント方程式が有理数の根をもつので、ガロア群は \(A_5\) の部分群であり、\(D_{10},\:C_5\) のどちらかです。もし仮に有理数の根をもたなければ、ガロア群は \(F_{20}\) です。
固定化群:\(C_5\)
さらに、\(G=F_{20},\:H=C_5\) とすることで、\(x^5+11x-44=0\) のガロア群が \(D_{10}\) か \(C_5\) かを調べます。この場合、\(G\) の生成元を \((1,2,3,4,5),\:(2,3,5,4)\) 、\(H\) の生成元を \((1,2,3,4,5)\) と固定して計算します。そのためにまず、方程式 \(x^5+11x-44=0\) を数値計算で解き、根を求めます。根が \(x_1,\:x_2,\:x_3,\:x_4,\:x_5\) と求まったとします。
フロベニウス群 \(\langle\:(1,2,3,4,5),(2,3,5,4)\:\rangle\) を固定化群とする多項式 \(F_1\) に \(x_1,\:x_2,\:x_3,\:x_4,\:x_5\) を代入したもの、およびそれと共役な多項式(\(F_2\)~\(F_6\))は、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:F_1=&x_1^2(x_2x_5+x_3x_4)+x_2^2(x_1x_3+x_4x_5)+\\
&&&x_3^2(x_1x_5+x_2x_4)+x_4^2(x_1x_2+x_3x_5)+\\
&&&x_5^2(x_1x_4+x_2x_3)\\
\end{eqnarray}\)
\(F_2=(1,2,3)\cdot F_1\)
\(F_3=(1,3,2)\cdot F_1\)
\(F_4=(1,2)\cdot F_1\)
\(F_5=(1,3)\cdot F_1\)
\(F_6=(2,3)\cdot F_1\)
でした。このうちの1つが有理数です。たとえば、\(F_3=(1,3,2)\cdot F_1\) が有理数だとすると、\(g=(1,3,2)\) として、
\(x_{g(1)},\:x_{g(2)},\:x_{g(3)},\:x_{g(4)},\:x_{g(5)}\)
を改めて \(x_1,\:x_2,\:x_3,\:x_4,\:x_5\) と定義し直せば、\(F_1\) が有理数になります。この準備をした上で、固定化群が \(H=\langle\:(1,2,3,4,5)\:\rangle\) になる多項式 \(F_{C1}\) を考えると、
\(F_{C1}=X_1X_2^2+X_2X_3^2+X_3X_4^2+X_4X_5^2+X_5X_1^2\)
がそれに相当します。冒頭に掲げたフロベニウス群の図を参考にして剰余類 \(G/H\) の代表元を選ぶと、\(F_{C1}\) に共役な多項式は、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:F_{C2}&=(2,3,5,4)&\cdot F_{C1}\\
&&\:\:F_{C3}&=(2,3,5,4)^2&\cdot F_{C1}\\
&&&=(2,5)(3,4)&\cdot F_{C1}\\
&&\:\:F_{C4}&=(2,3,5,4)^3&\cdot F_{C1}\\
&&&=(2,4,5,3)&\cdot F_{C1}\\
\end{eqnarray}\)
です。従ってリゾルベントは、
\(R_{F20/C5}(x)=(x-F_{C1})(x-F_{C2})(x-F_{C3})(x-F_{C4})\)
で求まります。実際に \(x^5+11x-44=0\) のリゾルベントを求めると、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:R_{F20/C5}(x)&=x^4+968x^2+15972x+395307\\
&&&=(x^2-22x+1089)(x^2+22x+363)\\
\end{eqnarray}\)
です。因数分解の結果の2つの2次式はいずれも既約なので、リゾルベント方程式には有理数の根がありません。従って \(x^5+11x-44=0\) のガロア群は \(C_5\) ではなく \(D_{10}\) です。
もし仮に、\(R_{F20/C5}(x)=0\) のリゾルベント方程式が重複度1の有理数根をもてば、「ガロア群とリゾルベントの関係性定理」に従って、ガロア群は \(H\) の共役群の部分群ということになります。
ただし、No.359「高校数学で理解するガロア理論(6)」で書いたように、\(H=\langle\:(1,2,3,4,5)\:\rangle\)(\(=C_5\)) は \(G=\langle\:(1,2,3,4,5),\:(2,3,5,4)\:\rangle\)(\(=F_{20}\))の正規部分群です。従って、\(G\) における \(H\) と共役な群は \(H\) だけです。また、\(H\) に部分群はありません。つまり、ガロア群は \(H=\langle\:(1,2,3,4,5)\:\rangle\) です。
さらに、その \(H\) は \(F_{C1}\) と共役な \(F_{C2},\:F_{C3},\:F_{C4}\) の固定化群でもある。ということは、ガロア群で固定される \(F_{C2},\:F_{C3},\:F_{C4}\) は全て有理数です。これは、ガロア群が \(C_5\) になる方程式の例(後述)で確認できます。
実は、\(x^5+px+q=0\) の形の方程式のガロア群が \(C_5\)(=位数 \(5\) の巡回群)になることはありません。これはガロア理論から分かります。つまり、5次方程式の根 \(x_1,\:x_2,\:x_3,\:x_4,\:x_5\) のうち、実数根の数は1、3,5のどれかです。方程式が可解である前提では「実数解が3つの5次方程式は可解ではない(66B)」ので、実数根の数は1、5のどちらかです。\(x_1\) が実数だとすると、拡大次数(33G)は、
\([\:\bs{Q}(x_1)\::\:\bs{Q}\:]=5\)
です(33F)。従って、最小分解体を \(\bs{L}=\bs{Q}(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5)\) とすると、
\([\:\bs{L}\::\:\bs{Q}\:]\geq5\)
ですが、複素数根があるとすると、\([\:\bs{L}\::\:\bs{Q}\:] > 5\) です。従って、\([\:\bs{L}\::\:\bs{Q}\:]=5\) となるのは、複素数根がないとき、つまり実数根が5つの場合で、かつ、
\(\bs{Q}(x_1)=\bs{Q}(x_2)=\bs{Q}(x_3)=\bs{Q}(x_4)=\bs{Q}(x_5)\)
が成り立つときだけです。つまり \(x_1\) の四則演算で他の実数根が表わされる場合です(3次方程式のガロア群が \(C_3\) になる場合と同じ原理。No.358 参照)。
しかし、\(f(x)=x^5+px+q\) を微分すると \(f\,'(x)=5x^4+p\) ですが、\(f\,'(x)=0\) の実数根の数は高々2つであり、これから \(f(x)=0\) の実数根は高々3つであることが分かります。つまり、\([\:\bs{L}\::\:\bs{Q}\:]=5\) はあり得ません。従って \(|\mr{Gal}(\bs{L}/\bs{Q})|=5\) とはならず(52B)、ガロア群が \(C_5\) になることはないのです。
ちなみに文献2には、ガロア群が \(C_5\) になる方程式の例として、
\(x^5-110x^3-55x^2+2310x+979=0\)
という、少々ややこしい式があげてあります。このリゾルベントを計算してみると次の通りで、ガロア群が \(C_5\) であることが確認できます。このケースでは、前述の通り、リゾルベント方程式 \(R_{F20/C5}(x)=0\) が重複度を含めて4つの有理数根(そのうちの一つは重複度1の根、\(990\))をもっています。
\(R_{S5/F20}(x)\)
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:=&x^6+18480x^5+47764750x^4-580262760000x^3\\
&&&-1796651418959375x^2+2980357148316659375x\\
&&&-360260685644469671875\\
&&\:\:=&(x+9955)(x^5+8525x^4-37101625x^3-210916083125x^2\\
&&& +303018188550000x-36188918698590625)\\
\end{eqnarray}\)
\(R_{S5/A5}(x)\)
\(=x^2-1396274566650390625\)
\(=(x-1181640625)(x+1181640625)\)
\(R_{F20/C5}(x)\)
\(=x^4+165x^3-698775x^2-383161625x-56495958750\)
\(=(x-990)(x+385)^3\)
以前に書いた記事から、ガロア群が \(F_{20}\) 、\(S_5\) の例をあげておきます。No.359 で、可解な5次方程式 \(x^5-2=0\) のガロア群が、位数 \(20\) のフロベニウス群 \(F_{20}\) であることを書きましたが、そのリゾルベントを計算してみると次の通りです。
\(f(x)=x^5-2\)
\(\begin{eqnarray}
&&\:\: R_{S5/F20}(x)&=x^6-50000x\\
&&&=x(x^5-50000)\\
&&\:\: R_{S5/A5}(x)&=x^2-50000\\
\end{eqnarray}\)
\(R_{S5/F20}(x)=0\) は \(x=0\) の根がありますが、\(R_{S5/A5}(x)\) は既約多項式であり、ガロア群は \(F_{20}\) です。
No.357 の記事の末尾で、可解でない方程式の代表としてあげた方程式(実数解が3つの5次方程式)のリゾルベントは次の通りです。
\(f(x)=x^5-5x+1\)
\(\begin{eqnarray}
&&\:\: R_{S5/F20}(x)&=&x^6-40x^5+1000x^4-20000x^3+\\
&&&&250000x^2-1603125x+4046875\\
&&\:\: R_{S5/A5}(x)&=&x^2+796875\\
\end{eqnarray}\)
2つのリゾルベントが共に既約多項式なので、ガロア群は \(S_5\) です。\(R_{S5/F20}(x)\) が既約であることは SymPy で確認できます。以前に書いた記事にはありませんが、ガロア群が \(A_5\) になる例もあげておきます。
\(f(x)=x^5+20x+16\)
\(\begin{eqnarray}
&&\:\: R_{S5/F20}(x)&=&x^6+160x^5+16000x^4+1280000x^3+\\
&&&&64000000x^2+1433600000x+4096000000\\
&&\:\: R_{S5/A5}(x)&=&x^2-1024000000\\
&&&=&(x-32000)(x+32000)\\
\end{eqnarray}\)
この \(R_{S5/F20}(x)\) も既約多項式です。
「ガロア群とリゾルベントの関係性定理」をよく読むと、この定理ではガロア群が決定できないケースがあります。それは、
ケースです。固定化群が \(C_5\)(\(G=F_{20},\:H=C_5\))の場合にはこれが起こりえます。
この場合、文献1では、元の方程式をガロア群が同じである別の方程式に変数変換してリゾルベントを計算するアルゴリズムが書かれていますが、詳細になるので割愛します。
可解な方程式の根をべき根で求める計算手法は文献2に書かれていますが、ガロア理論とは離れるので省略します。
\(x^5+11x-44=0\) の方程式は実数根が1つで、虚数根が4つです。実数根を \(\al\) とし、\(\al\) の近似値と厳密値をソフトで求めてみると次のようになります。この厳密値は本当かと心配になりますが、検算してみると正しいことが分かります。
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:\al&=1.8777502748964972576\cd\\
&&&=\dfrac{\sqrt[5]{11}}{(\sqrt[5]{5})^4}(\al_1+\al_2-\al_3+\al_4)\\
\end{eqnarray}\)
\(\al_1=\sqrt[5]{\phantom{-}75+50\sqrt{5}-12\sqrt{5-\sqrt{5}}-59\sqrt{5+\sqrt{5}}}\)
\(\al_2=\sqrt[5]{\phantom{-}75-50\sqrt{5}+59\sqrt{5-\sqrt{5}}-12\sqrt{5+\sqrt{5}}}\)
\(\al_3=\sqrt[5]{-75+50\sqrt{5}+59\sqrt{5-\sqrt{5}}-12\sqrt{5+\sqrt{5}}}\)
\(\al_4=\sqrt[5]{\phantom{-}75+50\sqrt{5}+12\sqrt{5-\sqrt{5}}+59\sqrt{5+\sqrt{5}}}\)
リゾルベントとガロア群を求めるコード
この記事で書いたリゾルベントの計算は、実際は Python の SymPy モジュールを使ったプログラムで行いました。従って、正確かどうかはそのプログラムの正しさに依存します。念のため、そのプログラムを掲げておきます。
この中に、gCalculateResolvent() という関数がありますが、5次方程式の係数を受け取ってリゾルベントを計算し、表示します。また、ガロア群の種類を表示します。方程式の係数は、5次方程式を、
\(x^5+ax^4+bx^3+cx^2+dx+e=0\)
としたとき、\([a,\:b,\:c,\:d,\:e]\) のリストです。\(a\) ~ \(e\) は整数、ないしはプログラムの冒頭で定義された変数(=シンボル。下記では \(p,\:q\))です。一部が整数、一部が変数であってもかまいません。
SymPy の symmetrize というメソッドが出てきますが、複数シンボルの式を、それらシンボルの基本対称式で表わすものです。また factor(因数分解をする)や solve(方程式を解く)、gcd(多項式の最大公約数を求める)も使っています。
実行結果
上の実行結果は Python コードの出力を見やすいように多少整形してあります。ちなみに文献2には、
\(f(x)=x^5+px^3+qx^2+rx+s\)
としたときのリゾルベント \(R_{S5/F20}(x)\) が記述されていますが(77項からなる長い式です)、上のコードの出力と一致します。また、
\(x^5-110x^3-55x^2+2310x+979=0\)
のリゾルベント方程式 \(R_{S5/F20}(x)=0\) が \(x=-9955\) の有理数根をもつと書かれていますが、これは本文中に書いたコードの出力結果と一致しています。
No.359「高校数学で理解するガロア理論(6)」の補足をここに書きます。No.359 では \(x^5+11x-44=0\) という5次方程式をとりあげ、それが可解であることと(ガロア群は \(D_{10}\))、実際に数式処理ソフトで求めた解を記載しました。しかし、なぜ可解なのか(=四則演算とべき根で表せるのか)、そもそも可解性をどう判断するのには触れませんでした。そこで今回はその補足して、
一般の5次方程式の可解性をどう判断するのか | |
5次方程式のガロア群の求め方 |
を書きます。もちろんこれは、「高校数学で理解するガロア理論」シリーズの一部であり、前に書いた以下の記事の知識を前提とします。
No.354 - 高校数学で理解するガロア理論(1)証明の枠組み
No.355 - 高校数学で理解するガロア理論(2)整数の群・多項式・体
No.356 - 高校数学で理解するガロア理論(3)線形空間・群・ガロア群
No.357 - 高校数学で理解するガロア理論(4)可解性の必要条件
No.358 - 高校数学で理解するガロア理論(5)可解性の十分条件
No.359 - 高校数学で理解するガロア理論(6)可解な5次方程式・定理一覧
5次方程式の可解性とガロア群の判定
No.359 で、可解な5次方程式 \(x^5-2=0\) のガロア群が、位数 \(20\) のフロベニウス群 \(F_{20}\) であることを確認しました。一般に5次方程式のガロア群は、
\(S_5\) | :5次対称群 | (位数 \(120\)) | |
\(A_5\) | :5次交代群 | (位数 \(60\)) | |
\(F_{20}\) | :フロベニウス群 | (位数 \(20\)) | |
\(D_{10}\) | :5次2面体群 | (位数 \(10\)) | |
\(C_5\) | :5次巡回群 | (位数 \(5\)) |
の5種しかないことが知られています。このうち、
\(F_{20}\)、\(D_{10}\)、\(C_5\)
が可解群です(\(D_{10}\) は \(D_5\) と書く流儀もある)。\(S_5\) と \(A_5\) が可解でないことは「対称群の可解性」(65G)で証明しました。これらの群の、集合としての包括関係は、
\(S_5\:\sp\:A_5\) | \(\sp\:D_{10}\:\sp\:C_5\) | |
\(S_5\:\sp\:F_{20}\) | \(\sp\:D_{10}\:\sp\:C_5\) |
です。\(F_{20}\)(下図)は奇置換と偶置換の両方を含むので、\(A_5\) の部分集合ではありあません。
フロベニウス群 \(\bs{F_{20}}\) |
ガロア群 \(F_{20}\) の \(20\)個の元を、4つの5角形の頂点に配置した図。\((1,2,3,4,5)\) などはガロア群を構成する巡回置換を表す。また \(23451\) などは、その巡回置換によって \(12345\) を置換した結果を表す(白ヌキ数字は置換で不動の点)。この群の生成元は、色を付けた \((1,2,3,4,5)\) と \((2,3,5,4)\) である。 |
そこで問題になるのは、ある5次方程式があったとき可解かどうか、ないしはガロア群が何かを判定する方法です。この判定のアルゴリズムを以下に書きます。それには「剰余類」と「共役群」の知識が必要なので、まずそれについて書きます。以降の内容は次の2つの文献を参考にしました。
文献1
Alexander D. Healy :
"Resultants, Resolvents and the Computation of Galois Groups"
文献2
D. S. Dummit :
"Solving Solvable Quintics"
剰余類
剰余類については No.356 の「4.一般の群」で書きましたが(41E)、改めて復習します。群 \(G\) の部分群を \(H\) とし、群 \(G\) の全ての元、
\(g_1=e,\:g_2,\:g_3,\:\cd\:,g_n\:\:(n=|G|)\)
を \(H\) に群演算した \(n\) 個の集合、
\(g_1H,\:g_2H,\:\cd\:,\:g_nH\)
を考えます(ここでは左から掛けるとしますが、右からでも同じ議論になります)。これらの任意の2つの集合 \(g_iH\) と \(g_jH\:(i\neq j)\) を比較すると、
\(g_iH\) と \(g_jH\) は全く同じ集合(全ての元が同じ) | |
\(g_iH\) と \(g_jH\) は全く違う集合(同じ元はない) |
のどちらかになります。なぜなら、もし \(g_1H\) と \(g_2H\) に同じ元があるとして、それが \(g_1H\) では \(g_1h_i\)、\(g_2H\) では \(g_2h_j\) と表されているとします。
\(g_1h_i=g_2h_j\)
です。これに左から \(g_2^{-1}\)、右から \(h_i^{-1}\) を掛けると、
\(g_2^{-1}g_1=h_jh_i^{-1}\:\in\:H\)
\(g_2^{-1}g_1\:\in\:H\)
となります。一般に \(h\in H\) と \(hH=H\) は同値なので(41C)、
\(g_2^{-1}g_1H=H\)
が得られますが、これに左から \(g_2\) を掛けると、
\(g_1H=g_2H\)
となります。従って、
\(g_1H\) と \(g_2H\) に一つでも同じ元があれば全体が同じ(\(g_1H=g_2H\)) |
になります。このことの対偶は
\(g_1H\) と \(g_2H\) が違えば(=一つでも違う元があれば)\(g_1H\) と \(g_2H\) に同じ元は全く無い(\(g_1H\cap g_2H=\phi\)) |
です。\(g_1H\) と \(g_2H\) の選択は任意なので、2つの剰余類について「全く同じか、全く違う」が成り立ちます。そこで、集合として同じものを一つにまとめてしまいます。その結果として \(d\) 個の集合ができたとして、
\(g_iH\:\:(1\leq i\leq d)\)
を「剰余類」と呼び、\(G/H\) で表します。\(g_i\) の選び方には自由度がありますが、どれかを採用して \(g_i\) を代表元と言います。この結果、
\(G=g_1H\:\cup\:g_2H\:\cup\:\cd\cup\:g_dH\)
\(g_iH\cap g_jH=\phi\:\:(i\neq j)\)
\(|G|=d|H|\)
となり、\(G\) が \(H\) による剰余類で "分割" できたことになります。この分割は、\(g_1=e\) として、\(H\) に含まれない \(G\) の元を \(g_2\) とし、\(g_1H\) と \(g_2H\) に含まれない \(G\) の元を \(g_3\) とし・・・というように \(G\) の元が尽きるまで続ける、と考えても同じです。
\(G=S_5\)、\(H=F_{20}\) の例で考えます。\(F_{20}\) の生成元は、巡回置換で表して、
\((1,\:2,\:3,\:4,\:5),\:(2,\:3,\:5,\:4)\)
とします。\(|S_5|/|F_{20}|=6\) なので、\(S_5\) は 部分群 \(F_{20}\) によって6つの剰余類 \(S_5/F_{20}\) に分割されます。その代表元を \(g_1,\) \(g_2,\) \(g_3,\) \(g_4,\) \(g_5,\) \(g_6\) とします。実際に計算してみると、たとえば代表元として、
\(g_1=e\)
\(g_2=(1,\:2,\:3)\)
\(g_3=(1,\:3,\:2)\)
\(g_4=(1,\:2)\)
\(g_5=(1,\:3)\)
\(g_6=(2,\:3)\)
とすることができます。以降、\(S_5/F_{20}\) を問題にするときには、この代表元を使って計算します。もちろん代表元の選び方には自由度があって、たとえば \(e,\) \((1,\:2),\) \((1,\:3),\) \((1,\:4),\) \((1,\:5),\) \((2,\:5)\) と選ぶこともできます。
さらに計算してみると、6つの剰余類 \(S_5/F_{20}\) には次の性質があることがわかります。つまり、\(\sg\) を、
\(\sg=(1,\:2,\:3,\:4,\:5)\in H\)
の巡回置換とすると、
\(\sg\:g_1H=g_1H\)
\(\sg\:g_2H=g_5H\)
\(\sg\:g_3H=g_4H\)
\(\sg\:g_4H=g_6H\)
\(\sg\:g_5H=g_3H\)
\(\sg\:g_6H=g_2H\)
が成り立ちます。これが成り立つことは、たとえば、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:g_5^{-1}\sg\:g_2&=(1,\:3)(1,\:2,\:3,\:4,\:5)(1,\:2)\\
&&&=(2,\:4,\:5,\:3)\in H\\
&&&\longrightarrow\:g_5^{-1}\sg\:g_2H=H\\
&&&\longrightarrow\:\sg\:g_2H=g_5H\\
\end{eqnarray}\)
と確認できます。同様にして、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:g_4^{-1}\sg\:g_3&=(1,\:2)(1,\:2,\:3,\:4,\:5)(1,\:3,\:2)\\
&&&=(1,\:4,\:5,\:2)\in H\\
&&&\longrightarrow\:\sg\:g_3H=g_4H\\
\end{eqnarray}\)
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:g_6^{-1}\sg\:g_4&=(2,\:3)(1,\:2,\:3,\:4,\:5)(1,\:2)\\
&&&=(1,\:2,\:3,\:4,\:5)\in H\\
&&&\longrightarrow\:\sg\:g_4H=g_6H\\
\end{eqnarray}\)
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:g_3^{-1}\sg\:g_5&=(1,\:3,\:2)^{-1}(1,\:2,\:3,\:4,\:5)(1,\:3)\\
&&&=(1,\:2,\:3)(1,\:2,\:3,\:4,\:5)(1,\:3)\\
&&&=(1,\:4,\:5,\:2)\in H\\
&&&\longrightarrow\:\sg\:g_5H=g_3H\\
\end{eqnarray}\)
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:g_2^{-1}\sg\:g_6&=(1,\:2,\:3)^{-1}(1,\:2,\:3,\:4,\:5)(2,\:3)\\
&&&=(1,\:3,\:2)(1,\:2,\:3,\:4,\:5)(2,\:3)\\
&&&=(2,\:4,\:5,\:3)\in H\\
&&&\longrightarrow\:\sg\:g_6H=g_2H\\
\end{eqnarray}\)
であり、上の式が成り立つことが確認できます。つまり、\(g_1H\:(=H)\) だけは \(\sg\) を作用させても不変ですが、その他の剰余類に \(\sg\) を作用させると、順に、
\(g_2H\:\overset{\large\sg}{\rightarrow}\:g_5H\:\overset{\large\sg}{\rightarrow}\:g_3H\:\overset{\large\sg}{\rightarrow}\:g_4H\:\overset{\large\sg}{\rightarrow}\:g_6H\:\overset{\large\sg}{\rightarrow}\:g_2H\:\rightarrow\:\cd\)
と "巡回" します。このことは、後で可解性の条件定理で使います。
共役群
群 \(G\) の部分群を \(H\) とします。群 \(G\) の任意の元 を \(x\) とするとき、
\(xHx^{-1}\) \((x\in G)\)
を「\(H\) と共役な群」と言います(\(x^{-1}Hx\) と定義してもよい)。これが群になることは、\(h_1,\:h_2,\:h_3\:\in\:H\)、\(h_1h_2=h_3\) のとき、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:(xh_1x^{-1})(xh_2x^{-1})&=xh_1h_2x^{-1}\\
&&&=xh_3x_{-1}\:\in\:xHx^{-1}\\
\end{eqnarray}\)
というように、\(xHx^{-1}\) が群演算で閉じていることから分かります。
\(H\) と共役な群 \(xHx^{-1}\) は \(x\) の個数=群の位数だけあることになりますが、これら全てが違う群ではありません。もし \(H\) が \(G\) の正規部分群であれば、\(G\) の任意の元 \(x\) について \(xHx^{-1}=H\) が成り立つので、\(H\) と共役な部分群は \(H\) 自身だけです。
また、\(x,\:y\:\in\:G\) が同じ剰余類 \(G/H\) に属しているとすると、その剰余類の代表元を \(g_1\) として、
\(x=g_1h_i\)
\(y=g_1h_j\)
と表現できますが、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:xHx^{-1}&=g_1h_iHh_i^{-1}g_1^{-1}\\
&&&=g_1Hg_1^{-1}\\
&&\:\:yHy^{-1}&=g_1h_jHh_j^{-1}g_1^{-1}\\
&&&=g_1Hg_1^{-1}\\
&&\:\:xHx^{-1}&=yHy^{-1}\\
\end{eqnarray}\)
となって、\(x,\:y\) による \(H\) の共役群は同じものです。従って、\(H\) の共役群の数は最大で \(G\) の \(H\) による剰余類の数\(=|G|/|H|\) です。
フロベニウス群 \(F_{20}\) は \(S_5\) の正規部分群ではありません。計算してみると、剰余類 \(G/H\) の代表元 \(g_i\:(1\leq i\leq6)\)に対して、次の6つの共役な部分群があることが分かります。\(H=\langle\:(1,2,3,4,5),\:(2,3,5,4)\:\rangle\) とすると、\(H_i=g_iHg_i^{-1}\) はそれぞれ、
\(g_1=e\)
\(H_1=\langle\:(1,2,3,4,5),\:(2,3,5,4)\:\rangle=H\)
\(g_2=(1,\:2,\:3)\)
\(H_2=\langle\:(1,2,4,3,5),\:(2,4,5,3)\:\rangle\)
\(g_3=(1,\:3,\:2)\)
\(H_3=\langle\:(1,2,4,5,3),\:(2,4,3,5)\:\rangle\)
\(g_4=(1,\:2)\)
\(H_4=\langle\:(1,2,5,4,3),\:(2,5,3,4)\:\rangle\)
\(g_5=(1,\:3)\)
\(H_5=\langle\:(1,2,3,5,4),\:(2,3,4,5)\:\rangle\)
\(g_6=(2,\:3)\)
\(H_6=\langle\:(1,2,5,3,4),\:(2,5,4,3)\:\rangle\)
です。また \(S_5\) の任意の元を \(g\) とすると、\(H\) の \(g\) による共役群 \(gHg^{-1}\) は、\(g\) が属する剰余類の代表元 \(g_i\) を用いて、
\(gHg^{-1}=g_iHg_i^{-1}\) \((g,\:g_i\in H_i)\)
と表せることになります。
ある5次方程式のガロア群がフロベニウス群である、という場合、共役な6つの群のどれかであることを言っています。総称してフロベニウス群、とも言えます。
固定化群とリゾルベント
固定化群
以下は5次方程式を念頭に記述しますが、一般の \(n\)次方程式としても同じです。
\(S_5\) の部分群を \(G\) とします(\(G\subset S_5\))。\(G\) は \(S_5\) そのものであってもかまいません。次に、5変数、\(X_1,\:X_2,\:X_3,\:X_4,\:X_5\) の任意の多項式、
\(F(X_1,\:X_2,\:X_3,\:X_4,\:X_5)\)
を考えます。そして「\(S_5\) の任意の元 \(\sg\) による \(F\) への作用」を考えます。\(F\) は \(\sg\) の作用によって変数の入れ替えが起こります。たとえば、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:F&=X_1^2X_2+X_2^2X_3\\
&&\:\:\sg&=(1,\:2)\\
\end{eqnarray}\)
だと、
\(\sg F=X_2^2X_1+X_1^2X_3\)
です。この、多項式とそれへの作用を用いて固定化群(ないしは安定化群)の定義をします。
固定化群の定義 \(G\subset S_5\) とし、5変数、\(X_1,\:X_2,\:X_3,\:X_4,\:X_5\) の任意の多項式を \(F\) とする。\(G\) の元 \(\sg\) で、\(F\) に作用しても \(F\) を不変にする元の集合、 \(H_{(F,G)}\:=\:\{\sg\:|\:\sg\subset G,\:\sg\:F=F\}\) は群を成す。この \(H\) を(\(G\) における)\(F\) の固定化群(ないしは安定化群。stabilizer)と呼ぶ。 |
固定化群 \(H\) は、多項式 \(F\) と群 \(G\) に依存しているので \(H_{(F,G)}\) としました。いくつかの例をあげます。\(G=D_6\)(3次の2面体群。\(=S_3\))とすると、
\(F=X_1X_2+X_2X_3+X_3X_1\)
\(\begin{eqnarray} &&\:\:\longrightarrow\:H&=D_6\:(=S_3)\\ &&&=\{\:e,(1,2,3),(1,3,2),(1,2),(1,3),(2,3)\:\}\\ \end{eqnarray}\)
\(F=X_1^2X_2+X_2^2X_3+X_3^2X_1\)
\(\longrightarrow\:H=C_3=\{\:e,(1,2,3),(1,3,2)\:\}\)
\(F=X_1+X_2\)
\(\longrightarrow\:H=\{\:e,(1,2)\:\}\)
\(F=X_1-X_2\)
\(\longrightarrow\:H=\{e\}\)
\(\begin{eqnarray} &&\:\:\longrightarrow\:H&=D_6\:(=S_3)\\ &&&=\{\:e,(1,2,3),(1,3,2),(1,2),(1,3),(2,3)\:\}\\ \end{eqnarray}\)
\(F=X_1^2X_2+X_2^2X_3+X_3^2X_1\)
\(\longrightarrow\:H=C_3=\{\:e,(1,2,3),(1,3,2)\:\}\)
\(F=X_1+X_2\)
\(\longrightarrow\:H=\{\:e,(1,2)\:\}\)
\(F=X_1-X_2\)
\(\longrightarrow\:H=\{e\}\)
などです。
リゾルベント(Resolvent)
以降、一般の既約な5次多項式を、
\(\begin{eqnarray}
&&f(x)&=x^5+ax^4+bx^3+cx^2+dx+e\\
&&&=(x-x_1)(x-x_2)(x-x_3)(x-x_4)(x-x_5)\\
\end{eqnarray}\)
係数 \(a\) ~ \(e\) は有理数 | |
\(x_i\) は \(f(x)=0\) の根 |
で表します。根と係数の関係から、 \(a\) ~ \(e\) は \(x_i\) の基本対称式で表現できます。その具体的な形は No.357「高校数学で理解するガロア理論(4)」の「6.5 5次方程式に解の公式はない」の定理(65H)にあげました。
次にリゾルベントを定義します。定義に使うのは、
5次方程式 \(f(x)=0\) | |
多項式 \(F(X_1,\:X_2,\:X_3,\:X_4,\:X_5)\) | |
\(f(x)=0\) の根を多項式に代入した値 \(F(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5)\) | |
群 \(G\:\:(\:\subset S_5\:)\) | |
多項式 \(F\) の \(G\) における固定化群 \(H\)( \(\subset G\) ) | |
剰余類 \(G/H\) |
です。
リゾルベントの定義 既約な有理係数の5次方程式 \(f(x)=0\) の根を \(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5\) とする。 \(G\subset S_5\) とし、5変数、\(X_1,\:X_2,\:X_3,\:X_4,\:X_5\) の任意の多項式を \(F\) とする。\(G\) における \(F\) の固定化群を \(H\) とする。 剰余類 \(G/H\) の代表元を \(g_1,\:g_2,\:\cd\:,g_d\) とする。\(|G|=d|H|\) である。このとき、リゾルベント \(R(x)\) を \(R_{(F,G,f)}(x)=\displaystyle\prod_{i=1}^{d}(\:x-g_i\cdot F(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5)\:)\) と定義する。 |
\(g_i\cdot F(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5)\) という表記は、
多項式 \(F(X_1,\:X_2,\:X_3,\:X_4,\:X_5)\) に \(g_i\) を作用させてできた多項式に \(X_i=x_i\:(1\leq i\leq5)\) 代入した値
の意味です。\(g\in G\) とすると、
\(g\cdot F(X_1,X_2,X_3,X_4,X_5)=\)
\(F(X_{g(1)},X_{g(2)},X_{g(3)},X_{g(4)},X_{g(5)})\)
\(g\cdot F(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5)=\)
\(F(x_{g(1)},x_{g(2)},x_{g(3)},x_{g(4)},x_{g(5)})\)
の意味です。\(g=(1,2,3)\) とすると、\(g(1)=2\)、\(g(2)=3\)、\(g(3)=1\)、\(g(4)=4\)、\(g(5)=5\) です。また以降で、関数 \(F(X_1,X_2,X_3,X_4,X_5)\) と 値 \(F(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5)\) を \(F\) と簡略表記します。どちらを指すかは文脈によります。
このように、剰余類 \(G/H\) の代表元 \(g_i\) を \(F(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5)\) に作用させることの意味を考えてみます。いま \(G\) の任意の元を \(g_\al,\:g_\beta\)とし、同じ剰余類 \(g_iH\) に属するとします。そうすると、\(H\) の適当な元 \(h_s,\:h_t\) を用いて、
\(g_\al=g_ih_s\)
\(g_\beta=g_ih_t\)
と表現できます。すると、
\(g_\al\cdot F=g_ih_s\cdot F=g_i\cdot F\)
\(g_\beta\cdot F=g_ih_t\cdot F=g_i\cdot F\)
となるので(\(H\) の元 \(h_s,\:h_t\) を \(F\) に作用させても不変)、
\(g_\al\cdot F=g_\beta\cdot F\)
となり、\(g_\al\cdot F\) と \(g_\beta\cdot F\) は同じ多項式です。ということは、\(G\) の元を \(F\) に作用させた多項式は最大、
\(g_1\cdot F,\:\:g_2\cdot F,\:\cd\cd\:,\:\:g_d\cdot F\)
の \(d\) 種類(=剰余類の数)あることになります(\(g_1,\:g_2,\:\cd\:g_d\) は \(G/H\) の代表元)。逆に、\(1\leq i,\:j\leq d\)(但し、\(i=j=1\) ではない) とし、
\(g_i\cdot F=g_j\cdot F\)
になるとすると、
\(g_j^{-1}g_i\cdot F=F\)
\(g_j^{-1}g_i\in H\)
\(g_j^{-1}g_iH=H\)
\(g_iH=g_jH\)
\(g_i=g_j\)
となります。この対偶は「\(g_i\neq g_j\) なら \(g_iF\neq g_jF\)」であり、\(G\) の元を \(F\) に作用させた多項式は、
\(g_1\cdot F,\:\:g_2\cdot F,\:\cd\cd\:,\:g_d\cdot F\)
の \(d\) 種類です。これらを「(\(\bs{G}\) における)\(\bs{F}\) と共役な多項式」と呼ぶことにします。
そもそも \(G/H\) の代表元は、\(g_iH\:(1\leq i\leq|G|)\) の集合から同じもを集めて、それらの代表として \(g_1H,\:g_2H,\:\cd\:g_dH\) としたものであり、
\(G=g_1H\:\cup\:g_2H\:\cup\:\cd\:\cup\:g_dH\)
が成り立つのでした。従って、\(G\) の任意の元を \(g\) とすると、\(gG=G\) なので、\(gg_iH\:(1\leq i\leq|G|)\) の集合から同じもを集めると、それらの代表として \(gg_1H,\:gg_2H,\:\cd\:,\:gg_dH\) とすることができ、
\(G=gg_1H\:\cup\:gg_2H\:\cup\:\cd\:\cup\:gg_dH\)
も成り立ちます。つまり、\(G/H\) の代表元を \(g_1,\:g_2,\:\cd\:,\:g_d\) とすると、\(gg_1,\:gg_2,\:\cd\:,\:gg_d\) も \(G/H\) の代表元です。従って、多項式 \(F\) へ作用させた、
\(gg_1\cdot F,\:gg_2\cdot F,\:\cd\:,\:gg_d\cdot F\)
の \(d\) 個の多項式も「\(F\) と共役な多項式」です。つまり、これら \(\bs{d}\) 個の多項式の集合を考えると、
\(\{g_1\cdot F,\:g_2\cdot F,\:\cd\:,\:g_d\cdot F\}=\)
\(\{gg_1\cdot F,\:gg_2\cdot F,\:\cd\:,\:gg_d\cdot F\}\)
であり、集合としては同じもの( \(\bs{\br{①}}\) )です。ここでリゾルベントの定義式を振り返ると、
\(R(x)=\displaystyle\prod_{i=1}^{d}(x-g_i\cdot F(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5))\)
であり、\(g_1\cdot F,\:g_2\cdot F,\:\cd\:,\:g_d\cdot F\) の対称式になっています。つまり \(\bs{R(x)}\) は任意の2つの \(\bs{g_i\cdot F,\:g_j\cdot F}\) の入れ替えで不変( \(\bs{\br{②}}\) )です。結局、\(\bs{\br{①}}\) と \(\bs{\br{②}}\) を合わせると、
\(g\cdot R(x)=R(x)\)
が分かります。つまり \(\bs{R(x)}\) は \(\bs{G}\) の任意の元の作用で不変です。\(G\) は \(S_5\) かその部分群で、\(f(x)=0\) の5つの根 \(x_1,\:x_2,\:x_3,\:x_4,\:x_5\) を置換するものでした。この置換で不変ということは、 \(R(x)\) の係数は \(x_1,\:x_2,\:x_3,\:x_4,\:x_5\) の基本対称式で表現できます。従って \(R(x)\) の係数は \(f(x)\) の係数で表現できる有理数です。
\(F\) の \(G\) における固定化群は \(H\) でした。では、\(g\cdot F\:(g\in G)\) の固定化群は何かを調べてみると、\(H\) の任意の元を \(h\) として、
\(ghg^{-1}g\cdot F=gh\cdot F=g\cdot F\)
なので、\(ghg^{-1}\) は \(g\cdot F\) を固定します。 \(h\) は任意なので、
\(g\cdot F\) の固定化群は \(gHg^{-1}\) であり、\(H\) とは共役な群
であることがわかります。以上を踏まえて次の定理を証明します。この定理は文献1によります。
ガロア群とリゾルベントの関係
ガロア群とリゾルベントの関係性定理 \(G\subset S_5\) とし、5変数、\(X_1,\:X_2,\:X_3,\:X_4,\:X_5\) の任意の多項式を \(F\) とする。\(G\) の元 \(\sg\) で、\(F\) に作用しても \(F\) を不変にする元の集合を \(H\) とする。 \(H_{(F,G)}\:=\:\{\sg\:|\:\sg\subset G,\:\sg\cdot F=F\}\) であり、\(H\) は群を成す(固定化群)。 既約な有理係数の5次方程式 \(f(x)=0\) の根を \(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5\) とする。\(f(x)\) の最小分解体を、 \(\bs{L}=\bs{Q}(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5)\) とし、ガロア群を \(\mr{Gal}(\bs{L}/\bs{Q})\) で表す。 剰余類 \(G/H\) の代表元を \(g_1,\:g_2,\:\cd\:,g_d\) とする。\(|G|=d|H|\) である。このとき、リゾルベント \(R(x)\) を、\(d\) 次多項式、 \(R_{(F,G,f)}(x)=\displaystyle\prod_{i=1}^{d}(\:x-g_i\cdot F(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5)\:)\) と定義する。以上の前提のもとに、次の2つの主張が成り立つ。 主張1
\(\mr{Gal}(\bs{L}/\bs{Q})\) が \(H\) の部分群(\(H\)を含む)と共役であれば、\(R(x)=0\)(リゾルベント方程式と呼ぶ)は有理数の根をもつ。
主張2
\(R(x)=0\)(リゾルベント方程式)が重複度1の有理数の根をもてば、\(\mr{Gal}(\bs{L}/\bs{Q})\) は \(H\) と共役な群の部分群である(重複度1の根とは重根ではない根=単根を指す)。
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[主張1の証明]
\(\mr{Gal}(\bs{L}/\bs{Q})\) が \(H\) の部分群 \(N\:(N\subset H)\) と共役とすると、\(\sg\in G\) である \(\sg\) が存在し、\(\mr{Gal}(\bs{L}/\bs{Q})=\sg N\sg^{-1}\) と表せる。従って \(\tau\in\mr{Gal}(\bs{L}/\bs{Q})\) である任意の \(\tau\) をとると、\(\tau=\sg\:\mu\:\sg^{-1}\:(\mu\in N)\) と表せる。また、\(\sg\) が含まれる剰余類 \(G/H\) を \(g_iH\) とすると、\(\sg\) は適当な \(H\) の元 \(\eta\) を用いて \(\sg=g_i\:\eta\) と表せる。
ここでリゾルベントの定義式のうちの、
\(g_i\cdot F(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5)\)
に着目すると(以下、\(F(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5)\) を \(F\) と書く)、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:\tau(g_i\cdot F)&=\sg\:\mu\:\sg^{-1}(g_i\cdot F)\\
&&&=g_i\:\eta\:\mu\:\eta^{-1}g_i^{-1}g_i\cdot F\\
&&&=g_i\:\eta\:\mu\:\eta^{-1}\cdot F\\
\end{eqnarray}\)
となるが、\(\eta\)、\(\mu\)、\(\eta^{-1}\) はいずれも \(H\) の元なので、\(F\) に作用すると \(F\) を固定する。従って、
\(\tau(g_i\cdot F)=g_i\cdot F\)
であり、\(g_i\cdot F\) は \(\tau\) の作用で不変である。\(\tau\) は \(\mr{Gal}(\bs{L}/\bs{Q})\) の任意の元であり、ガロア群の任意の元で不変な \(g_i\cdot F\) は有理数である。\(g_i\cdot F\) はリゾルベント方程式の根の一つだから、方程式は有理数の根を持つ。[証明終]
[主張2の証明]
\(g_i\cdot F(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5)\) がリゾルベント方程式の重複度1の有理数の根であったとする。\(\mr{Gal}(\bs{L}/\bs{Q})\) の任意の元 \(\tau\) は 有理数を固定する。\(g_i\cdot F\) は重複度1の根なので、\(g_i\cdot F\) 以外に有理数の根 \(g_j\cdot F\) があったとしても、\(g_i\cdot F\neq g_j\cdot F\:\:(i\neq j)\) である。従って、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:\tau\:g_i\cdot F=&g_i\cdot F\\
&&\:\:\tau\:g_i\cdot F\neq&g_j\cdot F\:\:(i\neq j)\\
\end{eqnarray}\)
が成り立つ。これは、\(\mr{Gal}(\bs{L}/\bs{Q})\) の任意の元 \(\tau\) が \(g_i\cdot F\) の固定化群に含まれることを意味する。\(F\) の固定化群 \(H\) の 任意の元を \(h\) とすると、\(h\cdot F=F\) であるが、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:g_ihg_i^{-1}g_i\cdot F&=g_ih\cdot F\\
&&&=g_i\cdot F\\
\end{eqnarray}\)
なので \(g_ihg_i^{-1}\) は \(g_i\cdot F\) を固定する。\(h\) は \(H\) の任意の元だから、\(g_i\cdot F\) の固定化群は \(H\) と共役な \(g_iHg_i^{-1}\) である。つまり、\(\mr{Gal}(\bs{L}/\bs{Q})\) の任意の元 \(\tau\) が \(\tau\in g_iHg_i^{-1}\) なので、\(\mr{Gal}(\bs{L}/\bs{Q})\) は \(H\) と共役な群の部分群である。[証明終]
リゾルベント \(R(x)\) を計算するためには、定義どおりにすると \(f(x)=0\) の根、\(x_1,\:x_2,\:x_3,\:x_4,\:x_5\) が必要です。しかし \(G=S_5\) の場合は、任意の \(g\in S_5\) について
\(g\cdot R(x)=R(x)\)
です。ということは、\(R(x)\) の係数は \(x_1,\:x_2,\:x_3,\:x_4,\:x_5\) の基本対称式で表されることになり、つまり方程式 \(\bs{f(x)=0}\) の係数だけから \(\bs{R(x)}\) の計算が可能です。
主張1の対偶は、
\(R(x)=0\) が有理数の根をもたなければ、\(\mr{Gal}(\bs{L}/\bs{Q})\) は \(H\) の部分群ではありえない
であり、これを方程式のガロア群の判断に使えます。たとえば、\(G=S_5,\:H=F_{20}\) の場合、\(R(x)=0\) が有理数の根をもたなければ、ガロア群は \(S_5\) か \(A_5\) です。
主張2の証明の流れをみると「\(\mr{Gal}(\bs{L}/\bs{Q})\) は \(H\) と共役な群の部分群である」ではなく、「\(\mr{Gal}(\bs{L}/\bs{Q})\) は \(H\) の部分群である」というようにできることが分かります。つまり、方程式 \(f(x)=0\) の根を \(x_1,\:x_2,\:x_3,\:x_4,\:x_5\) と求め、\(g_i\cdot F(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5)\) が有理数だと分かったとき、根を入れ替えて、
\(x_i=x_{g_i(i)}\)
とし、変換後の \(x_i\) で \(R(x)\) を計算すれば、\(g_1\cdot F(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5)\) が有理数になり、\(g_1=e\) なので \(\mr{Gal}(\bs{L}/\bs{Q})=H\) となります。つまり、根の入れ替えによってガロア群を "互いに共役な複数の群の中のどれかに一つに固定" できる。これは、\(G=F_{20}\)、\(H=C_5\) の場合に、\(G\) を \(F_{20}\) の6つの共役群のなかの \(\langle\:(1,2,3,4,5),\:(2,3,5,4)\:\rangle\) に固定したいときに使います(後述)。
\(x^5+11x-44=0\)
以下、\(x^5+11x-44=0\) を例に、「ガロア群とリゾルベントの関係性定理」を使って可解性とガロア群を判定します。
固定化群:\(F_{20}\)
可解性の判定のためには、ガロア群が \(F_{20}\) の部分群かどうかを判定すればよいわけです。そこでまず \(G=S_5\) とし、多項式 \(F(X_1,X_2,X_3,X_4,X_5)\) を、
\(F(X_1,X_2,X_3,X_4,X_5)\)
\(\begin{eqnarray}
&&\:\: =&X_1^2(X_2X_5+X_3X_4)+X_2^2(X_1X_3+X_4X_5)+\\
&&&X_3^2(X_1X_5+X_2X_4)+X_4^2(X_1X_2+X_3X_5)+\\
&&&X_5^2(X_1X_4+X_2X_3)\\
\end{eqnarray}\)
と定義します。そうするとこの多項式の固定化群 \(H\) は、
\(H=\langle\:(1,2,3,4,5),\:(2,3,5,4)\:\rangle\)
のフロベニウス群 \(F_{20}\) になります。そのことを確認してみると、
\((1,2,3,4,5)\cdot F\)
\(\begin{eqnarray}
&&\:\: =&X_2^2(X_3X_1+X_4X_5)+X_3^2(X_2X_4+X_5X_1)+\\
&&&X_4^2(X_2X_1+X_3X_5)+X_5^2(X_2X_3+X_4X_1)+\\
&&&X_1^2(X_2X_5+X_3X_4)\\
&&\:\: =&F\\
\end{eqnarray}\)
\((2,3,5,4)\cdot F\)
\(\begin{eqnarray}
&&\:\: =&X_1^2(X_3X_4+X_5X_2)+X_3^2(X_1X_5+X_2X_4)+\\
&&&X_5^2(X_1X_4+X_3X_2)+X_2^2(X_1X_3+X_5X_4)+\\
&&&X_4^2(X_1X_2+X_3X_5)\\
&&\:\: =&F\\
\end{eqnarray}\)
となって、確かに \(F\) の固定化群が \(H\) だと分かります。ここで \(H\) は6つある共役群のうちの特定の1つであることに注意します。剰余類 \(G/H\) の代表元を、
\(e,\:(1,2,3),\:(1,3,2),\:(1,2),\:(1,3),\:(2,3)\)
として、
\(F_1=F\)
\(F_2=(1,2,3)\cdot F\)
\(F_3=(1,3,2)\cdot F\)
\(F_4=(1,2)\cdot F\)
\(F_5=(1,3)\cdot F\)
\(F_6=(2,3)\cdot F\)
とします。方程式 \(f(x)=0\) の5つの解を \(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5\) とし、\(X_i\) に \(x_i\) を代入したものを改めて \(F_i\) として(\(1\leq i\leq6\))、
\(R_{S5/F20}(x)=(x-F_1)(x-F_2)(x-F_3)(x-F_4)(x-F_5)(x-F_6)\)
でリゾルベントを定義します。この \(R(x)\) を \(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5\) の基本対称式で表し、基本対称式に方程式の係数を割り当てれば、\(R(x)\) の具体的な形が求まります。ちなみに代表元のとり方には自由度があるので、上で書いたように、たとえば \((1,2)\) \((1,3)\) \((1,4)\) \((1,5)\) \((2,5)\) などとしても、同じ \(R(x)\) になります。
まず、方程式を \(x^5+px+q=0\) として \(R(x)\) を求めてみます。この計算は、さすがに手計算では厳しいので、Python の SymPy モジュールで計算することにします。コードの例は後述します。この結果、
\(\begin{eqnarray}
&&R_{S5/F20}(x)=&x^6+8px^5+40p^2x^4+160p^3x^3+400p^4x^2+\\
&&&(512p^5-3125q^4)x+256p^6-9375pq^4\\
\end{eqnarray}\)
となります。これに \(x^5+11x-44\) の係数を入れると、
\(\begin{eqnarray}
&&R_{S5/F20}(x)&=&x^6+88x^5+4840x^4+212960x^3+5856400x^2\\
&&&&-11630341888x-386068880384\\
&&&=&(x-88)(x^5+176x^4+20328x^3+2001824x^2\\
&&&&+182016912x+4387146368)\\
\end{eqnarray}\)
です。この結果、リゾルベント方程式が \(x=88\) の根をもつので、\(x^5+11x-44=0\) の方程式は可解であると判断できます。ガロア群は \(F_{20},\:D_{10},\:C_5\) のどれかです。もし仮に \(R_{S5/F20}(x)=0\) が有理数の根をもたなければ、ガロア群は \(S_5\) か \(A_5\) です。
実は、リゾルベント方程式、\(R_{S5/F20}(x)=0\) が有理数根を持てば、その有理数根は重複度1の根(単根)であり、他に有理数根はないことが言えます。その理由ですが、いま、\(F_1\) が有理数だとします。もし \(F_1\) が有理数でなければ、根 \(x_1,\:x_2,\:x_3,\:x_4,\:x_5\) の順序を入れ替えて \(F_1\) を有理数にできるので、こう仮定して一般性を失いません。そして、
\(r(x)=(x-F_2)(x-F_3)(x-F_4)(x-F_5)(x-F_6)=0\)
の5次方程式を考えます。この \(r(x)\) の最小分解体を \(\bs{L}_{r(x)}\) とし、ガロア群を \(\mr{Gal}(\bs{L}_{r(x)}/\bs{Q})\) とします。
ここで一般論です。既約多項式のガロア群は根の集合に対して根を置換するように作用しますが、この作用は推移的(transitive)です。推移的とは、群(たとえばガロア群 \(G\))が集合(たとえば方程式の根の集合 \(X\))に対して作用(たとえば、根 \(x_1,\) \(x_2,\) \(x_3,\) \(x_4,\) \(x_5\) の置換)するとき、\(X\) の任意の2つの元 \(x_i,\:x_j\) について、
\(\sg(x_i)=x_j\) \((\sg\in G)\)
となる \(\sg\) が必ず存在することを意味します。既約多項式のガロア群は、その定義から推移的です。この逆で、ガロア群が推移的であれば方程式は既約であることも成り立ちます。
\(r(x)=0\) の根は、\(F_2,\:F_3,\:F_4,\:F_5,\:F_6\) であり、
\(F_1=F\)
\(F_2=(1,2,3)\cdot F\)
\(F_3=(1,3,2)\cdot F\)
\(F_4=(1,2)\cdot F\)
\(F_5=(1,3)\cdot F\)
\(F_6=(2,3)\cdot F\)
ですが、剰余類の説明のところに書いたように、\(\sg\) を \((1,\:2,\:3,\:4,\:5)\) の巡回置換とすると、
\(\sg\:(1,2,3)\cdot F\) | \(=(1,3)\cdot F\) | |
\(\sg\:(1,3,2)\cdot F\) | \(=(1,2)\cdot F\) | |
\(\sg\:(1,2)\cdot F\) | \(=(2,3)\cdot F\) | |
\(\sg\:(1,3)\cdot F\) | \(=(1,3,2)\cdot F\) | |
\(\sg\:(2,3)\cdot F\) | \(=(1,2,3)\cdot F\) |
となり、\(\bs{\sg}\) は、\(\bs{F_2,\:F_3,\:F_4,\:F_5,\:F_6}\) という \(\bs{r(x)=0}\) の5つの根の置換するように作用します。かつ \(\sg\) を順々に作用させると根は 、
\(F_2\:\overset{\large\sg}{\rightarrow}\:F_5\:\overset{\large\sg}{\rightarrow}\:F_3\:\overset{\large\sg}{\rightarrow}\:F_4\:\overset{\large\sg}{\rightarrow}\:F_6\:\overset{\large\sg}{\rightarrow}\:F_2\:\rightarrow\:\cd\)
と巡回します。これは、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:C_5&=\langle\:(1,2,3,4,5)\:\rangle\\
&&&=\{\:\sg,\:\sg^2,\:\sg^3,\:\sg^4,\:\sg^5=e\:\}\\
\end{eqnarray}\)
が \(\mr{Gal}(\bs{L}_{r(x)}\:/\bs{Q})\) の部分群であり、\(\bs{\mr{Gal}(\bs{L}_{r(x)}\:/\bs{Q})}\) の \(\bs{r(x)=0}\) の根に対する作用は推移的であることを意味します。従って \(\bs{r(x)}\) は既約多項式です。これから言えるのは、
リゾルベント方程式 \(R_{S5/F20}(x)=0\) に有理数根 \(a\) が一つあったとすると、\(R_{S5/F20}(x)/(x-a)\) は既約多項式である。つまり、\(a\) は重複度1の根(単根)であり、他に有理数根はない
ということです。従って、5次方程式の可解性判断は次のように結論づけられます。
5次方程式の可解性定理 5次方程式が可解である必要十分条件は、\(R_{S5/F20}(x)=0\) というリゾルベント方程式が有理数根を持つことである |
固定化群:\(A_5\)
ガロア群が \(F_{20},\:D_{10},\:C_5\) のどれかを調べるには、固定化群が5次交代群 \(\bs{A_5}\) となる多項式を利用します。
\(F(X_1,X_2,X_3,X_4,X_5)=\)
\(\begin{eqnarray}
&&\:\: &(X_1-X_2)(X_1-X_3)(X_1-X_4)(X_1-X_5)\\
&&&(X_2-X_3)(X_2-X_4)(X_2-X_5)\\
&&&(X_3-X_4)(X_3-X_5)(X_4-X_5)\\
\end{eqnarray}\)
とおきます。\(F\) は 任意の互換の作用で \(-F\) になるので、任意の偶数個の互換を作用させても不変です。つまり \(F\) の固定化群は \(A_5\) です。剰余類 \(S_5/A_5\) の代表元としては、互換のどれかを選ぶことができます。従って、
\(F_1=F\)
\(F_2=(1,2)\cdot F=-F\)
とすることができて、これに方程式の5つの解 \(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5\) を代入して、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:R_{S5/A5}(x)&=(x-F_1)(x-F_2)\\
&&&=x^2-F^2\\
\end{eqnarray}\)
でリゾルベントを定義します。リゾルベント方程式 \(R_{S5/A5}(x)=0\) は、相異なる2つの有理数根(\(F\) と \(-F\))をもつか、ないしは有理数根をもたないかのどちらかです。この \(R(x)\) を \(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5\) の基本対称式で表し、基本対称式に方程式の係数を割り当てれば、\(R(x)\) の具体的な形が求まります。ちなみに、\(F\) は差積(数学記号では \(\Delta\))、\(F^2\) は判別式(数学記号では \(D\))と呼ばれています。
方程式を \(x^5+px+q\) として \(R(x)\) を求めてみると、
\(R_{S5/A5}(x)=x^2-(256p^5+3125q^4)\)
となります。これに \(x^5+11x-44\) の係数を入れると、
\(\begin{eqnarray}
&&R_{S5/A5}(x)&=x^2-11754029056\\
&&&=(x-108416)(x+108416)\\
\end{eqnarray}\)
となり、リゾルベント方程式が有理数の根をもつので、ガロア群は \(A_5\) の部分群であり、\(D_{10},\:C_5\) のどちらかです。もし仮に有理数の根をもたなければ、ガロア群は \(F_{20}\) です。
固定化群:\(C_5\)
さらに、\(G=F_{20},\:H=C_5\) とすることで、\(x^5+11x-44=0\) のガロア群が \(D_{10}\) か \(C_5\) かを調べます。この場合、\(G\) の生成元を \((1,2,3,4,5),\:(2,3,5,4)\) 、\(H\) の生成元を \((1,2,3,4,5)\) と固定して計算します。そのためにまず、方程式 \(x^5+11x-44=0\) を数値計算で解き、根を求めます。根が \(x_1,\:x_2,\:x_3,\:x_4,\:x_5\) と求まったとします。
フロベニウス群 \(\langle\:(1,2,3,4,5),(2,3,5,4)\:\rangle\) を固定化群とする多項式 \(F_1\) に \(x_1,\:x_2,\:x_3,\:x_4,\:x_5\) を代入したもの、およびそれと共役な多項式(\(F_2\)~\(F_6\))は、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:F_1=&x_1^2(x_2x_5+x_3x_4)+x_2^2(x_1x_3+x_4x_5)+\\
&&&x_3^2(x_1x_5+x_2x_4)+x_4^2(x_1x_2+x_3x_5)+\\
&&&x_5^2(x_1x_4+x_2x_3)\\
\end{eqnarray}\)
\(F_2=(1,2,3)\cdot F_1\)
\(F_3=(1,3,2)\cdot F_1\)
\(F_4=(1,2)\cdot F_1\)
\(F_5=(1,3)\cdot F_1\)
\(F_6=(2,3)\cdot F_1\)
でした。このうちの1つが有理数です。たとえば、\(F_3=(1,3,2)\cdot F_1\) が有理数だとすると、\(g=(1,3,2)\) として、
\(x_{g(1)},\:x_{g(2)},\:x_{g(3)},\:x_{g(4)},\:x_{g(5)}\)
を改めて \(x_1,\:x_2,\:x_3,\:x_4,\:x_5\) と定義し直せば、\(F_1\) が有理数になります。この準備をした上で、固定化群が \(H=\langle\:(1,2,3,4,5)\:\rangle\) になる多項式 \(F_{C1}\) を考えると、
\(F_{C1}=X_1X_2^2+X_2X_3^2+X_3X_4^2+X_4X_5^2+X_5X_1^2\)
がそれに相当します。冒頭に掲げたフロベニウス群の図を参考にして剰余類 \(G/H\) の代表元を選ぶと、\(F_{C1}\) に共役な多項式は、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:F_{C2}&=(2,3,5,4)&\cdot F_{C1}\\
&&\:\:F_{C3}&=(2,3,5,4)^2&\cdot F_{C1}\\
&&&=(2,5)(3,4)&\cdot F_{C1}\\
&&\:\:F_{C4}&=(2,3,5,4)^3&\cdot F_{C1}\\
&&&=(2,4,5,3)&\cdot F_{C1}\\
\end{eqnarray}\)
です。従ってリゾルベントは、
\(R_{F20/C5}(x)=(x-F_{C1})(x-F_{C2})(x-F_{C3})(x-F_{C4})\)
で求まります。実際に \(x^5+11x-44=0\) のリゾルベントを求めると、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:R_{F20/C5}(x)&=x^4+968x^2+15972x+395307\\
&&&=(x^2-22x+1089)(x^2+22x+363)\\
\end{eqnarray}\)
です。因数分解の結果の2つの2次式はいずれも既約なので、リゾルベント方程式には有理数の根がありません。従って \(x^5+11x-44=0\) のガロア群は \(C_5\) ではなく \(D_{10}\) です。
もし仮に、\(R_{F20/C5}(x)=0\) のリゾルベント方程式が重複度1の有理数根をもてば、「ガロア群とリゾルベントの関係性定理」に従って、ガロア群は \(H\) の共役群の部分群ということになります。
ただし、No.359「高校数学で理解するガロア理論(6)」で書いたように、\(H=\langle\:(1,2,3,4,5)\:\rangle\)(\(=C_5\)) は \(G=\langle\:(1,2,3,4,5),\:(2,3,5,4)\:\rangle\)(\(=F_{20}\))の正規部分群です。従って、\(G\) における \(H\) と共役な群は \(H\) だけです。また、\(H\) に部分群はありません。つまり、ガロア群は \(H=\langle\:(1,2,3,4,5)\:\rangle\) です。
さらに、その \(H\) は \(F_{C1}\) と共役な \(F_{C2},\:F_{C3},\:F_{C4}\) の固定化群でもある。ということは、ガロア群で固定される \(F_{C2},\:F_{C3},\:F_{C4}\) は全て有理数です。これは、ガロア群が \(C_5\) になる方程式の例(後述)で確認できます。
実は、\(x^5+px+q=0\) の形の方程式のガロア群が \(C_5\)(=位数 \(5\) の巡回群)になることはありません。これはガロア理論から分かります。つまり、5次方程式の根 \(x_1,\:x_2,\:x_3,\:x_4,\:x_5\) のうち、実数根の数は1、3,5のどれかです。方程式が可解である前提では「実数解が3つの5次方程式は可解ではない(66B)」ので、実数根の数は1、5のどちらかです。\(x_1\) が実数だとすると、拡大次数(33G)は、
\([\:\bs{Q}(x_1)\::\:\bs{Q}\:]=5\)
です(33F)。従って、最小分解体を \(\bs{L}=\bs{Q}(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5)\) とすると、
\([\:\bs{L}\::\:\bs{Q}\:]\geq5\)
ですが、複素数根があるとすると、\([\:\bs{L}\::\:\bs{Q}\:] > 5\) です。従って、\([\:\bs{L}\::\:\bs{Q}\:]=5\) となるのは、複素数根がないとき、つまり実数根が5つの場合で、かつ、
\(\bs{Q}(x_1)=\bs{Q}(x_2)=\bs{Q}(x_3)=\bs{Q}(x_4)=\bs{Q}(x_5)\)
が成り立つときだけです。つまり \(x_1\) の四則演算で他の実数根が表わされる場合です(3次方程式のガロア群が \(C_3\) になる場合と同じ原理。No.358 参照)。
しかし、\(f(x)=x^5+px+q\) を微分すると \(f\,'(x)=5x^4+p\) ですが、\(f\,'(x)=0\) の実数根の数は高々2つであり、これから \(f(x)=0\) の実数根は高々3つであることが分かります。つまり、\([\:\bs{L}\::\:\bs{Q}\:]=5\) はあり得ません。従って \(|\mr{Gal}(\bs{L}/\bs{Q})|=5\) とはならず(52B)、ガロア群が \(C_5\) になることはないのです。
ちなみに文献2には、ガロア群が \(C_5\) になる方程式の例として、
\(x^5-110x^3-55x^2+2310x+979=0\)
という、少々ややこしい式があげてあります。このリゾルベントを計算してみると次の通りで、ガロア群が \(C_5\) であることが確認できます。このケースでは、前述の通り、リゾルベント方程式 \(R_{F20/C5}(x)=0\) が重複度を含めて4つの有理数根(そのうちの一つは重複度1の根、\(990\))をもっています。
\(R_{S5/F20}(x)\)
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:=&x^6+18480x^5+47764750x^4-580262760000x^3\\
&&&-1796651418959375x^2+2980357148316659375x\\
&&&-360260685644469671875\\
&&\:\:=&(x+9955)(x^5+8525x^4-37101625x^3-210916083125x^2\\
&&& +303018188550000x-36188918698590625)\\
\end{eqnarray}\)
\(R_{S5/A5}(x)\)
\(=x^2-1396274566650390625\)
\(=(x-1181640625)(x+1181640625)\)
\(R_{F20/C5}(x)\)
\(=x^4+165x^3-698775x^2-383161625x-56495958750\)
\(=(x-990)(x+385)^3\)
以前に書いた記事から、ガロア群が \(F_{20}\) 、\(S_5\) の例をあげておきます。No.359 で、可解な5次方程式 \(x^5-2=0\) のガロア群が、位数 \(20\) のフロベニウス群 \(F_{20}\) であることを書きましたが、そのリゾルベントを計算してみると次の通りです。
\(f(x)=x^5-2\)
\(\begin{eqnarray}
&&\:\: R_{S5/F20}(x)&=x^6-50000x\\
&&&=x(x^5-50000)\\
&&\:\: R_{S5/A5}(x)&=x^2-50000\\
\end{eqnarray}\)
\(R_{S5/F20}(x)=0\) は \(x=0\) の根がありますが、\(R_{S5/A5}(x)\) は既約多項式であり、ガロア群は \(F_{20}\) です。
No.357 の記事の末尾で、可解でない方程式の代表としてあげた方程式(実数解が3つの5次方程式)のリゾルベントは次の通りです。
\(f(x)=x^5-5x+1\)
\(\begin{eqnarray}
&&\:\: R_{S5/F20}(x)&=&x^6-40x^5+1000x^4-20000x^3+\\
&&&&250000x^2-1603125x+4046875\\
&&\:\: R_{S5/A5}(x)&=&x^2+796875\\
\end{eqnarray}\)
2つのリゾルベントが共に既約多項式なので、ガロア群は \(S_5\) です。\(R_{S5/F20}(x)\) が既約であることは SymPy で確認できます。以前に書いた記事にはありませんが、ガロア群が \(A_5\) になる例もあげておきます。
\(f(x)=x^5+20x+16\)
\(\begin{eqnarray}
&&\:\: R_{S5/F20}(x)&=&x^6+160x^5+16000x^4+1280000x^3+\\
&&&&64000000x^2+1433600000x+4096000000\\
&&\:\: R_{S5/A5}(x)&=&x^2-1024000000\\
&&&=&(x-32000)(x+32000)\\
\end{eqnarray}\)
この \(R_{S5/F20}(x)\) も既約多項式です。
「ガロア群とリゾルベントの関係性定理」をよく読むと、この定理ではガロア群が決定できないケースがあります。それは、
リゾルベント方程式が有理数の根を持つが、重根の有理数根しか持たない
ケースです。固定化群が \(C_5\)(\(G=F_{20},\:H=C_5\))の場合にはこれが起こりえます。
この場合、文献1では、元の方程式をガロア群が同じである別の方程式に変数変換してリゾルベントを計算するアルゴリズムが書かれていますが、詳細になるので割愛します。
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\(x^5+11x-44=0\) の方程式は実数根が1つで、虚数根が4つです。実数根を \(\al\) とし、\(\al\) の近似値と厳密値をソフトで求めてみると次のようになります。この厳密値は本当かと心配になりますが、検算してみると正しいことが分かります。
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:\al&=1.8777502748964972576\cd\\
&&&=\dfrac{\sqrt[5]{11}}{(\sqrt[5]{5})^4}(\al_1+\al_2-\al_3+\al_4)\\
\end{eqnarray}\)
\(\al_1=\sqrt[5]{\phantom{-}75+50\sqrt{5}-12\sqrt{5-\sqrt{5}}-59\sqrt{5+\sqrt{5}}}\)
\(\al_2=\sqrt[5]{\phantom{-}75-50\sqrt{5}+59\sqrt{5-\sqrt{5}}-12\sqrt{5+\sqrt{5}}}\)
\(\al_3=\sqrt[5]{-75+50\sqrt{5}+59\sqrt{5-\sqrt{5}}-12\sqrt{5+\sqrt{5}}}\)
\(\al_4=\sqrt[5]{\phantom{-}75+50\sqrt{5}+12\sqrt{5-\sqrt{5}}+59\sqrt{5+\sqrt{5}}}\)
リゾルベントとガロア群を求めるコード
この記事で書いたリゾルベントの計算は、実際は Python の SymPy モジュールを使ったプログラムで行いました。従って、正確かどうかはそのプログラムの正しさに依存します。念のため、そのプログラムを掲げておきます。
この中に、gCalculateResolvent() という関数がありますが、5次方程式の係数を受け取ってリゾルベントを計算し、表示します。また、ガロア群の種類を表示します。方程式の係数は、5次方程式を、
\(x^5+ax^4+bx^3+cx^2+dx+e=0\)
としたとき、\([a,\:b,\:c,\:d,\:e]\) のリストです。\(a\) ~ \(e\) は整数、ないしはプログラムの冒頭で定義された変数(=シンボル。下記では \(p,\:q\))です。一部が整数、一部が変数であってもかまいません。
SymPy の symmetrize というメソッドが出てきますが、複数シンボルの式を、それらシンボルの基本対称式で表わすものです。また factor(因数分解をする)や solve(方程式を解く)、gcd(多項式の最大公約数を求める)も使っています。
import sympy as sy
from IPython.display import display, Math
from sympy.polys.polyfuncs import symmetrize
x1, x2, x3, x4, x5 = sy.symbols('x1:6')
s1, s2, s3, s4, s5 = sy.symbols('s1:6')
x, p, q = sy.symbols('x, p, q')
# ================================
# メインプログラム
# ================================
def main():
eq = [0, 0, 0, p, q] # x**5+p*x+q=0
gCalculateResolvent(eq)
#
eq = [0, 0, 0, 11, -44] # D10
gCalculateResolvent(eq)
# ================================
# リゾルベントの計算で使用する関数
# ================================
def gPermutation(x, permutaion):
# リスト x の要素を置換(permutaion)に従って入替える
new = [x[permutaion[i]-1] for i in range(len(x))]
return new
def gConjugate(equation, permutaion):
# 5変数の多項式を permutaion に従って置換する
v = [x1, x2, x3, x4, x5]
pv = gPermutation(v, permutaion)
new = equation.subs(zip(v, pv), simultaneous=True)
return new
def gComplexToInt(x, e=1.0e-8):
# 虚部が 0 に近く、実部が整数に近い複素数を整数化する。
a = x.real;
if abs(x.imag) < e and abs(round(a) - a) < e:
return round(a)
else:
return x
def gDisplayLaTex(header, eq):
# LaTex 形式で表示する
ltx = header.replace(' ', r'\quad') + sy.latex(eq)
display(Math(ltx))
# ================================
# リゾルベントの計算関数
# ================================
def gCalculateResolvent(eq):
#
Galois = "UnKnown" # ガロア群の名称
#
Coeff_is_Integer = True
# 方程式の係数がすべて整数(変数なし)
for coef in eq:
if type(coef) != int:
Coeff_is_Integer = False
break
#
# 方程式を表示
#
equation = x**5 + eq[0]*x**4 + eq[1]*x**3 + \
eq[2]*x**2 + eq[3]*x + eq[4]
gDisplayLaTex("f(x)=", equation)
# ----------------------------
# Resolvent S5/F20 を計算する
# F1 : F20 で不変な多項式
# ----------------------------
F1 = x1**2*x2*x5 + x1**2*x3*x4 + \
x2**2*x1*x3 + x2**2*x4*x5 + \
x3**2*x1*x5 + x3**2*x2*x4 + \
x4**2*x1*x2 + x4**2*x3*x5 + \
x5**2*x1*x4 + x5**2*x2*x3
# S5/F20 の代表元
representatives = [[1,2,3,4,5], # e
[2,3,1,4,5], # (1,2,3)
[3,1,2,4,5], # (1,3,2)
[2,1,3,4,5], # (1,2)
[3,2,1,4,5], # (1,3)
[1,3,2,4,5]] # (2,3)
# S5 で F1 と共役な多項式
F2 = gConjugate(F1, representatives[1]) # (1,2,3)
F3 = gConjugate(F1, representatives[2]) # (1,3,2)
F4 = gConjugate(F1, representatives[3]) # (1,2)
F5 = gConjugate(F1, representatives[4]) # (1,3)
F6 = gConjugate(F1, representatives[5]) # (2,3)
F = [F1, F2, F3, F4, F5, F6]
#
# Resolvent
#
R = (x - F1)*(x - F2)*(x - F3)* \
(x - F4)*(x - F5)*(x - F6)
R = sy.expand(R)
#
# Resolventの係数を取り出し、基本対称式表現にし、
# 方程式の係数で置き換え、Resolventを作り直す
# sympy.polys.polyfuncs.symmetrize を使う
#
c = [R.coeff(x, i) for i in range(6)]
for i in range(6):
c[i] = symmetrize(c[i], formal=True)[0]
c[i] = c[i].subs([(s1, -eq[0]), \
(s2, eq[1]), \
(s3, -eq[2]), \
(s4, eq[3]), \
(s5, -eq[4])])
# s1 ... s5 は symmetrize から
# 返される基本対称式のシンボル名
R = x**6 + c[5]*x**5 + c[4]*x**4 + c[3]*x**3 + \
c[2]*x**2 + c[1]*x + c[0]
gDisplayLaTex(" R_{S5/F20}(x)=", R)
#
# Resolventを因数分解する
# 因数分解できればResolvent方程式は有理数根がある
#
if Coeff_is_Integer:
R_save = R
R = sy.factor(R)
if R == R_save:
F20Rational = False
else:
F20Rational = True
gDisplayLaTex(" =", R)
# -----------------------------------------------
# Resolvent S5/A5 を計算する
# F1 : A5 の作用で不変な多項式(5次方程式の差積)
# -----------------------------------------------
F1 = (x1 - x2)*(x1 - x3)*(x1 - x4)*(x1 - x5)* \
(x2 - x3)*(x2 - x4)*(x2 - x5)*(x3 - x4)* \
(x3 - x5)*(x4 - x5)
# S5 で F1 と共役な多項式
F2 = gConjugate(F1, [2, 1, 3, 4, 5]) # (1, 2)
#
R = (x - F1)*(x - F2)
R = sy.expand(R)
c = [R.coeff(x, i) for i in range(2)]
for i in range(2):
c[i] = symmetrize(c[i], formal=True)[0]
c[i] = c[i].subs([(s1, -eq[0]), \
(s2, eq[1]), \
(s3, -eq[2]), \
(s4, eq[3]), \
(s5, -eq[4])])
R = x**2 + c[1]*x + c[0]
gDisplayLaTex(" R_{S5/A5}(x)=", R)
#
# Resolventを因数分解
#
if Coeff_is_Integer:
R_save = R
R = sy.factor(R)
if R == R_save:
A5Rational = False
else:
A5Rational = True
gDisplayLaTex(" =", R)
#
# Galois群を決める
#
if Coeff_is_Integer:
if F20Rational:
if A5Rational: Galois = "D10/C5"
else: Galois = "F20"
else:
if A5Rational: Galois = "A5"
else: Galois = "S5"
#
# Resolvent F20/C5 を計算(別関数)
#
if Galois == "D10/C5":
Galois = gCalculateResolventC5(eq, F,
representatives)
print(f" (Galois group = {Galois})")
#
return
# ================================
# リゾルベントの計算関数(F20/C5)
# ================================
def gCalculateResolventC5(eq, F, representatives):
#
# 方程式の解を求める(sympy.solve)
#
sols = sy.solve(x**5 + eq[0]*x**4 + eq[1]*x**3 + \
eq[2]*x**2 + eq[3]*x + eq[4])
xvalue = [] # 方程式の根(複素数)
for sol in sols: xvalue.append(complex(sol.evalf()))
#
# F20 の生成元を (1,2,3,4,5), (2,3,5,4) とするため
# 共役な多項式のうちの F1 (=F[0]) が有理数になるように
# 根を入れ替える
#
xsymbol = [x1, x2, x3, x4, x5]
# 有理数となるFiを探索
for rational, Fi in enumerate(F):
val = Fi.subs(zip(xsymbol, xvalue))
val = complex(sy.expand(val))
if type(gComplexToInt(val)) == int: break
# 根を入れ替える
xvalue = gPermutation(xvalue, representatives[rational])
#
# F1 : C5 (1,2,3,4,5) で不変な多項式
#
F1 = x1*x2**2 + x2*x3**2 + x3*x4**2 + \
x4*x5**2 + x5*x1**2
#
# F20 において F1 と共役な多項式を求める
# 剰余類 F20/C5 の代表元は
# e, (2,3,5,4), (2,5)(3,4), (2,4,5,3)
#
F2 = gConjugate(F1, [1,3,5,2,4]) # (2,3,5,4)
F3 = gConjugate(F1, [1,5,4,3,2]) # (2,5)(3,4)
F4 = gConjugate(F1, [1,4,2,5,3]) # (2,4,5,3)
#
# Resolvent F20/C5
#
R = (x - F1)*(x - F2)*(x - F3)*(x - F4)
R = R.subs(zip(xsymbol, xvalue))
R = sy.expand(R)
c = [complex(R.coeff(x, i)) for i in range(4)]
for i in range(4):
c[i] = gComplexToInt(c[i], e=1.0e-4)
R = x**4 + c[3]*x**3 + c[2]*x**2 + c[1]*x + c[0]
gDisplayLaTex(" R_{F20/C5}(x)=", R)
R = sy.factor(R) # 因数分解
gDisplayLaTex(" =", R)
#
# Galois群を決める
#
sols = sy.solve(R) # リゾルベント方程式の根を求める
IntegerRoot = False # True : 有理数根をもつ
SimpleRoot = False # True : 単根の有理数根をもつ
for a in sols:
if type(a) != sy.core.numbers.Integer: continue
# sy. ... .Integer : sympy の整数クラス
IntegerRoot = True
multiple_root = sy.expand((x - int(a))**2)
if sy.gcd(R, multiple_root) != multiple_root:
SimpleRoot = True
break
#
if SimpleRoot:
Galois = "C5"
else:
if not IntegerRoot: # 有理数根がない
Galois = "D10"
else:
Galois = "D10/C5"
return Galois
# ================================
# メインプログラムを呼び出す
# ================================
main()
|
実行結果
\(f(x)=px+q+x^5\)
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:R_{S5/F20}(x)&=&256p^6+400p^4x^2+160p^3x^3+40p^2x^4\\
&&&&-9375pq^4+8px^5+x^6+x(512p^5-3125q^4)\\
&&\:\:R_{S_5/A_5}(x)&=&-256p^5-3125q^4+x^2\\
\end{eqnarray}\)
\(f(x)=x^5+11x-44\)
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:R_{S5/F20}(x)&=&x^6+88x^5+4840x^4+212960x^3+\\
&&&&5856400x^2-11630341888x-386068880384\\
&&&=&(x-88)(x^5+176x^4+20328x^3+2001824x^2+\\
\end{eqnarray}\)
\(182016912x+4387146368)\)
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:R_{S5/A5}(x)&=&x^2-11754029056\\
&&&=&(x-108416)(x+108416)\\
&&\:\:R_{F20/C5}(x)&=&x^4+968x^2+15972x+395307\\
&&&=&(x^2-22x+1089)(x^2+22x+363)\\
\end{eqnarray}\)
(Galois group = D10)
|
上の実行結果は Python コードの出力を見やすいように多少整形してあります。ちなみに文献2には、
\(f(x)=x^5+px^3+qx^2+rx+s\)
としたときのリゾルベント \(R_{S5/F20}(x)\) が記述されていますが(77項からなる長い式です)、上のコードの出力と一致します。また、
\(x^5-110x^3-55x^2+2310x+979=0\)
のリゾルベント方程式 \(R_{S5/F20}(x)=0\) が \(x=-9955\) の有理数根をもつと書かれていますが、これは本文中に書いたコードの出力結果と一致しています。
2024-05-17 17:12
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