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No.175 - 半沢直樹は機械化できる [技術]

No.173「インフルエンザの流行はGoogleが予測する」No.174「ディープマインド」は、いずれもAI(Artificial Intelligence。人工知能)の研究、ないしはAI技術によるビッグデータ解析の話でした。その継続で、AIについての話題です。

AI(人工知能)が広まってくると「今まで人間がやっていた仕事、人間しかできないと思われていた仕事で、AIに置き換えられるものが出てくるだろう」と予測されています。これについて、国立情報学研究所の新井紀子教授が新聞にユニークなコラムを書いていたので、それをまず紹介したいと思います。新井教授は、例の「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトのディレクターです。


金融におけるITの活用


新井教授は、金融サービスにおける "フィンテック" が日本を含む世界で熱を帯びていることから話を始めます。


フィンテックはファイナンス(金融)とテクノロジー(技術)を合成した造語で、ITを駆使して金融サービスを効率化したり新しい金融サービスや商品を生み出したりすることを意味する。

金融とITの組み合わせというと、大手銀行がコールセンターにかかってくる問い合わせの電話の応対に人工知能(AI)を導入するという話題が記憶に新しい。AIの発達で銀行や証券会社の窓口係がロボットに置き換わると予測する人工知能学者も少なくない

新井紀子
コラム「Smart Times」
(日経産業新聞 2016.3.3)

2014年末、三井住友銀行とみずほ銀行は、コールセンター業務にIBMの人工知能コンピュータ「ワトソン」を導入すると発表しました。新井教授はそういった銀行業界の動きを言っています。しかし新井教授によると、窓口業務よりも、もっとAI向きの銀行業務があると言います。


だが、私の予想は少し違う。2014年、私は「窓口担当者より先に半沢直樹がAIによって代替される」という予想をたてた。

銀行を舞台にした池井戸潤氏の小説の主人公である半沢直樹は、ローンオフィサーである。取引相手の返済能力の信用度を審査する。個人融資ならば、担保物件の価値や年収、雇用主である企業の事業規模、さらには年齢や家族構成まで考慮に入れるだろう。

データに基づいて融資の条件を計算し、判断する。それが彼の仕事である。融資が焦げ付くこともあるだろう。その場合は他の融資の利益でカバーできればよい。半沢直樹の仕事は「計算の確率的な妥当性」が問われる仕事だといえる。

このような仕事は、ビッグデータによる機械学習と極めて親和性が高い。つまり、機械で置き換えられる可能性が非常に高いはずなのである。

新井紀子「同上」

こういうコラムを読むと、研究者と言えども一般向けに文章を書く(ないしは講演をする)ときには、言葉の使い方が極めて重要だということがよく分かります。「銀行の融資業務は機械化できる」というよりも、「半沢直樹は機械化できる」と言った方が圧倒的にインパクトが強いわけです。研究者も、言いたい事の本質を伝えられる。

新井教授が主導している「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトも同じです。「ロボットは大学入試に受かるか」ではなく、あえて「東大」としてあります。プロジェクトの存在感を内外に示すためには、ここは是非とも「東大」でないとまずいのでしょう。しかも最後は「か」という疑問形です。このプロジェクトによって「ロボットが東大に入れるようになるのか、ならないのか、分からない」ようにしてあるわけです。想像ですが、ロボットが東大入試問題を解いて合格するのは無理だと、新井教授は思っているのではないでしょうか。特定の科目で合格点をとるならまだしも・・・・・・。しかし、無理だと言ってしまうと身もフタもない。国立の研究所としては、このプロジェクトを進めることで日本のAI研究を底上げするのが目的でしょうから、ここは疑問形が最適なのですね。

コラムに戻って、では、新井教授は銀行の窓口業務をどう考えているのでしょうか。


一方、窓口業務はそうではない。ひとりひとりの客のニーズを正しく酌み取らなければならない。このような「一期一会的な妥当性」を問われるとAIは弱い。だから窓口業務より先に半沢直樹を機械化するほうが数学的には妥当だと考えたのである。

新井紀子「同上」

確かに窓口での対応は、銀行が顧客に直に接する最前線の一つです。融資担当者(ローンオフィサー)も最前線ですが、接する顧客の数が全く違います。窓口では、顧客のそのときの状況にマッチした「一期一会」の対応が、本来、大変に需要なのです。


14年にこの意見を初めて披露したとき、講演会場は笑いに包まれた。誰もが冗談だと思ったからである。しかし、その直後、英オックスフォード大学の研究チームは、機械に代替されやすい職業のトップ20にローンオフィサーをランクインさせた。そして翌15年、ついに与信審査を完全に自動化した銀行が現れた。

新井紀子「同上」


アマゾンによる与信審査の完全自動化


新井教授がコラムの最後で書いている「与信審査の完全自動化」ですが、アマゾンはすでに日本でもやっています。


ビッグデータを解析 即融資

「5千万円までのローンをご利用いただけます」。家電製品や雑貨などを販売する会社を大阪市で営む松本尚也(31)は昨秋、パソコン画面の表示に目を見張った。「なんじゃこりゃ」。出店するインターネット通販大手アマゾンから、突然の融資の申し入れだった。

返済期間6ヶ月、金利4%台。ちょうど売れ筋のプリンターを多めに仕入れる資金も必要だった。アマゾンの担当者からの電話説明をうけて画面をクリック。わずか2営業日で5千万円が振り込まれた。

返済期間は短く金利は高めだが、ネットですべての手続きが完結する。普通の銀行と違い、決算書や事業計画書は求められず、担保も取られない。2014年設立で社員5人ほどの松本の会社は、地元の地方銀行には融資を断わられていた。「新規創業の会社にも貸してくれる。これが米国標準なんだと驚いた」

アマゾンの融資ビジネスを支えるのは、出店する事業者がもたらす「ビッグデータ」だ。どのくらいの頻度で注文を受け、売り上げは伸びているのか。日々のやりとり集積を独自のプログラムが解析し、お金を貸しても返せる事業者なのかを判断。必要額や金利、返済機関などを自動的に算出し、「人手は一切、介在しない」(アマゾンジャパン セラーサービス事業本部長の星健一)という。・・・(藤崎麻里)

朝日新聞(2016.4.21)

アマゾンにとってみると、適切な事業者(=アマゾン出店者)に、適切な金額を必要な時期に融資できれば、アマゾン経由の通販の量が増え、それによって手数料収入が増える。さらに融資の金利が収入になる。一石二鳥とはこのことでしょう。

事業者のビジネス動向をつぶさにとらえられるという、インターネット通販の特性を生かしたアマゾンのビジネスです。その意味では「融資を断った地方銀行」とは立場が違うのですが、コトの本質は「与信審査は自動化できる」ということです。銀行にその波が押し寄せるのは時間の問題でしょう。


雇用の未来:The Future of Employment


新井教授のコラムに戻ります。新井教授はコラムの最後で言及しているのは、オックスフォード大学の研究チームが発表した「雇用の未来」という論文です。前回の No.174 でも引用した小林雅一著『AIの衝撃』(講談社 現代新書 2015)から、その概要を紹介します。『AIの衝撃』では、AIの進歩が "雇用の浸食" をもたらすだろうという、ビル・ゲイツ氏(マイクロソフト創業者)の講演の紹介に続いて、次のような文章が出てきます。


学界からも、同様の声が上がっています。たとえば英オックスフォード大学の研究者、カール・フレイとマイケル・オズボーンの両博士が2013年9月に発表した「雇用の未来:私たちの仕事はどこまでコンピュータに奪われるか?(The Future of Employment : How Susceptible are Jobs to Computerization ?)」という論文です。これは日本のメディアでもたびたび紹介されましたが、「現存する職種の47%がAIに奪われる」というセンセーショナルな結論しか報じられていないので、今回はどのようにして、そうした結論に至ったのかを、簡単に紹介しておきます。

この論文のポイントは今後、AIを搭載したコンピュータやロボットに奪われるであろう職種を定量的に割り出したことです。具体的には、米国の労働省が提供する「O*NET」と呼ばれる雇用データベースに登録されている702種類の職種を調査対象として選びました。英国の研究者が書いた論文ですが、調査対象は米国の雇用データなのです。

そこには「大工」や「介護士」「料理人」などから、「弁護士」「大学教授」「作家」「ファッション・デザイナー」などまで、現代社会における、ほぼ全ての職業が網羅されています。また各職種がどんな仕事であるかについて、具体的な説明も記されています。

フレイとオズボーンの両氏は、まず702種類の中から70種類の代表的な職種を選び出しました。そしてこれらを(AIの一種である)機械学習の専門家グループに見てもらい、それぞれの職種が今後10~20年の間に、どの程度の可能性でAIを搭載したロボットやコンピュータに奪われるかを 0~100% の間で推定してもらいました。たとえば間違いなく奪われる職種には 100%、逆に絶対に奪われる危険性がない職種には 0% 、両者の中間にある職種には 20、30、40% ・・・・・・ などの採点が下されます。

最後に回帰分析という手法(これ自体が機械学習の一種です)により、これら70種類の採点結果(人間による推定値)をお手本にして、今度はコンピュータが702種類の職種全部を採点します。こうした分析の結果、今後10~20年の間に米国の雇用の47%が、コンピュータやロボットに職を奪われる危険性が高いとの予想が得られました。特に毛危険性が高い職種と、逆に危険性が低い職種を示したのが上の表(引用注:ここでは下の表)です。

仕事を「奪われそうな」職種の例
職 業 奪われる確率
電話による販売員99%
データ入力99%
銀行の融資担当者98%
金融機関などの窓口係98%
簿記・会計監査98%
小売店などのレジ係97%
料理人96%
給仕94%
タクシー運転手89%
理髪業者80%

仕事を「奪われそうにない」職種の例
職 業 奪われる確率
医師0.4%
小学校などの教師0.4%
ファッション・デザイナー2.1%
エレクトロニクス技術者2.5%
情報通信システム管理者3.0%
弁護士3.5%
ライター・作家3.8%
ソフトウェア開発者4.2%
数学者4.7%
旅行ガイド5.7%

小林雅一『AIの衝撃』

AIの衝撃.jpg
この引用における注意点が2つあります。まず、新井教授は「オックスフォード大学のチームが2014年に、機械に代替されやすい職業のトップ20にローンオフィサーをランクインさせた」という主旨の文を書いていますが、引用したオックスフォード大学の研究チームの論文は2013年9月に発表されたものです。従って新井教授が正しければ「機械に代替されやすい職業のトップ20」という発表が、2014年に別にされたことになります。ひょっとしたら新井教授の勘違いかもしれません(2014年となっている所は、正しくは2013年)。しかしどうであれ本質は変わらないので、2013年9月のオックスフォード大学の論文をベースに話を進めます。注意点の2つ目は、引用において、

70の職業の「機械に代替されやすさ」をAI専門家が採点し、
この採点をもとに、702の職業の「機械に代替されやすさ」を、回帰分析の手法で推定した

と書いてあるところです。このうち、②の具体的な推定方法が大事だと思うのですが、そこが書かれていません。オックスフォード大学の論文はネットで公開されているので、それをざっと眺めてみると、おおよそ次のような方法です。

まず「機械に代替されやすさ」を採点するための「職業の数式モデル」を作る必要があります。このモデルの変数を、

知覚による手作業
知的創造
社会スキル

の3つとします。それぞれの必要性や重要性が高い仕事ほど機械で代替しにくい、との仮説をまず置くのです。

次に米国・労働省の「O*NET」の各職業に関する記述項目のうち、 に影響すると考えれる項目、9個を選びます。たとえば については3つで「指先の器用さ」「手の器用さ」「窮屈な姿勢での仕事」です。また は「創造性」と「芸術性」、 は「交渉力」「説得力」「社会的理解力」「他人への援助やケア」です。各職業におけるこれら9つの項目の重要度と必要レベルの数値をもとに、回帰分析の手法で70の職業の "機械化されやすさ" の「採点関数」を求め、その関数を使って702の職業の採点をする、というのが大まか流れです。

これは No.174「ディープマインド」で書いた、コンピュータ将棋における局面の優劣の評価手法と本質的には同じです。つまり、プロの対局で実際に現れた局面をもとに、局面の優劣を判断する評価関数を回帰分析で求め、その関数を使って一般の局面の優劣を判断するという手法と同じです。オックスフォード大学の研究チームは70の代表的な職業が機械で代替されやすいかどうかのAI専門家の判断をもとに、702の職業全部についての判定をAIの手法でやったわけです。


銀行の「融資担当者」と「窓口係」


新井教授の意見とオックスフォード大学の研究チームの結論に共通しているのは、銀行においてAIで代替しやすい職業は融資担当者だということです。つまり半沢直樹は機械化できる、これが共通の結論です。

しかし違っているところもあります。それは、新井教授は窓口係は機械化しにくいと見ているのに対し、オックスフォード大学の研究チームは(融資担当者と同程度に)機械化しやすいと推測していることです。どちらが妥当なのでしょうか。

どうも新井教授に分があるのではと思います。窓口に来た顧客(ないしはコールセンターに電話した顧客)の要望や質問に対して正確に答えることは、十分、コンピュータで出来るようになると思います。しかし、そうであったとしても銀行としては窓口係を配置し、コンピュータの答えも参考にしつつ顧客に寄り添った応対をするのが本筋でしょう。顧客の年齢、緊急度、相談事項の重要度などは千差万別です。まさに新井教授の言うように「一期一会」の対応が必要であり、しかもその対応の数は融資申し込み数より圧倒的に多い。窓口係を機械化することは、銀行の存在基盤を危うくするでしょう。

さっきあげたアマゾンの例が象徴的です。アマゾンは与信審査を完全自動化しているが、アマゾンからオファーをうけた個人事業主は、アマゾンに電話していろいろ聞いているのですね。それで融資を受ける決断をしたわけです。もちろん、コールセンターで運営時間外の問合わせ応答を完全機械化するといったことは、顧客サービスの向上という視点から大いにありうると思います。

この考えからすると、銀行の融資担当者も完全にAIに置き変わるのではないかもしれない。融資可能か否か、可能だとしたらいくらまで可能かは、コンピュータが答えるようになるでしょう。しかし将来の融資担当者はその答えをもとに、融資を申し込んだ顧客と「一期一会の」対応をするのかもしれない。個人事業主からの1000万円の融資申し込みに対し500万円までしか貸せないとしたら、どのように事業を改善すればいいか、その相談に乗るとか・・・・・・。あくまで想定ですが、機械(AIを搭載したコンピュータ)をうまく使いつつ、より高度なサービスを展開するというやり方です。

とは言うものの、この銀行の融資担当者(半沢直樹)と窓口係の話は、我々に大きな意識変革を迫っていると感じます。私たちは暗黙に融資担当者の方が窓口係より価値が大きいと思い込んでいるわけです。実際、銀行に入社10年目の融資担当者と窓口係の給料を比較してみると、大きな差がついているはずです。前者の方が銀行にとって重要であり、ノウハウも知識も経験も必要な仕事だと見なされているからです。

しかし半沢直樹は機械化できる。窓口係よりも機械化しやすいか、少なくとも窓口係と同程度に機械化しやすいのです。つまり、仕事の付加価値は今後、大きく変貌するかもしれないという認識を私たちは持つべきでしょう。


料理人の価値とは


オックスフォード大学の『雇用の未来』という研究報告をつらつら眺めてみると、いろいろとおもしろい発見があります。その一つですが、上に引用した小林雅一著『AIの衝撃』で、仕事をコンピュータに奪われやすい職種として「料理人」がありました。

職 業 奪われる確率
料理人96%

のところです。ここで言う料理人(Cook)とは、決められレシピ通りに料理を作る人という意味であり、新しい料理のレシピを考える人は、当然ですが「奪われにくい」のだと思います。実は、オックスフォード大学の研究報告では Cook が3つに分かれています。

職 業 奪われる確率
Cooks, Restaurant96%
Cooks, Short Order94%
Cooks, Fast Food81%

つまり『AIの衝撃』に引用されている「料理人: 96%」とは「Cooks, Restaurant(レストランの料理人): 96%」のことであり、それよりも比較的仕事を奪われにくいのは「Cooks, Fast Food(ファストフードの料理人): 81%」なのです。我々は暗黙に、ファストフードで料理を作る店員の方が機械化しやすいと考えるのですが、そうではない。この報告では料理の値段が高いか安いかよりも「短時間に素早く料理をつくる必要性」が「機械に仕事を奪われにくい」理由になっているようです。

もちろんこれはAI専門家による推測に過ぎないし、15%程度の差異を議論するのは妥当ではないでしょう。たとえ機械化しやすいとしても、高価な料理は料理人が自らの手で "心をこめて" 作るのが当然とされるでしょうから、"社会的に" 機械化しにくいはずです。技術論だけで「仕事を奪われる・奪われない」という議論をするのも意味がありません。

しかし「料理人の機械化」の話は、先ほどの「融資担当者と窓口係」と同じく、仕事の価値とは何かについての一つの教訓と考えられると思います。我々には、現代社会における給料の多寡や "社会的地位" からくる暗黙の思い込みがあるのではないか・・・・・・。その思いこみを排して考えたとき、仕事の真の価値とは何かが見えてくるでしょう。



機械化によって仕事が変貌するとともに、不必要な仕事・職業が出てくるのも必定です。この数十年の例から言うと、たとえば「バスの車掌」という職業がそうです。バス内部の機械化によって運転手が車掌を兼ねるようになった。もっと大きく言うと、教科書で習った世界史では英国の産業革命の時代に機械化に反対する労働者の暴動まで起きました。何回か引用した『AIの衝撃』には、産業革命よりもっと前の歴史エピソードが出てきます。


16世紀の英国で靴下編み機が発明されたとき、当時の女王エリザベス一世はこれを発明した技術者に「あなたは、この発明物が我が臣民(つまり靴下を手編みで製造する労働者たち)にどんな影響を与えるか考えたことがあるのですか? あなたはこの者たちの職を奪い、路上の物乞いに変えようとしているのですよ」と叱り、靴下編み機の技術に特許を与えようとはしませんでした。

小林雅一『AIの衝撃』

エリザベス一世の思考に入っていなかったのは、靴下編み機を使うと製造コストが大きく下がり、臣民に広く靴下が行き渡るだろうということです。その方が、全体として英国経済の活性化に寄与するはずです。ただし仕事を追われる人たちが出てくる・・・・・・。

ともかく、エリザベス一世の時代から400数十年がたっているのですが、その間ずっと「機械が仕事を奪う」現象が世界のどこかで起き続けてきたわけです。その一方で、機械による効率化で国全体の経済が発展し、人々の暮らしが楽になり、余裕が出てきたとも言える。健康を損なうような "奴隷的肉体労働" も無くなった。ものごとには両面の見方があります。今また、その「機械化」の大きな波が来ようとしている。そう考えられると思いました。



 補記1:与信審査の自動化 

みずほ銀行とソフトバンクは2016年9月15日、個人向け融資における与信審査を自動化したサービス提供に乗り出すことを発表しました。


融資にAIを活用
 ソフトバンク みずほ銀と新会社

ソフトバンクとみずほ銀行は15日、11月にも共同出資会社を設立して新しい融資事業を始めると発表した。人工知能(AI)やビッグデータ分析などの最新技術を使って、顧客の学歴や思考、行動などに基づき融資額や貸出金利を柔軟に決められるようにする。2017年前半のサービス開始をめざす。

新会社はソフトバンクとみずほ銀行が折半出資する。資本金は50億円になる予定。

みずほ銀行が持つ金融関連のノウハウやビッグデータとソフトバンクのAIなどの技術を融合して、個人の将来の可能性まで考慮して融資の上限額や貸出金利を柔軟に決められるシステムを構築する。

スマホで申し込みから融資まで簡潔できる。融資の前に個人や家族の情報を入力すると借り入れの条件の基になる「スコア」が表示される。スコアはいつでも確認でき、様々な情報を入力するほどスコアが更新され有利な条件で借りやすくなる。

ソフトバンクグループの孫正義社長は15日の記者会見で「若者がもつ将来の能力や稼ぐ力に合わせて貸し出せる。若者が夢をかなえられる」と述べた。みずほフィナンシャルグループの佐藤康博社長は「今までとは全く違うサービスを提供していく」と話した。

日経産業新聞(2016.9.16)

みずほフィナンシャルグループ・ソフトバンク.jpg
みずほフィナンシャルグループの佐藤康博社長とソフトバンクグループの孫正義社長の記者会見。2016年9月15日。
(site : mainichi.jp)
あくまで個人向けの融資ですが、このブログの本文に書いた新井教授の「半沢直樹は機械化できる」という予想が、日本でも現実化してきたわけです。

ソフトバンクとみずほ銀行の発表の一番のポイントは、将来の能力や稼ぐ力も考慮して貸し出すというところですね。これには、いわゆるビッグデータが必要です。つまり現代日本の個人の年収と、その人の学歴や家族構成、家族の職歴、居住地区・番地をはじめとする個人情報のビッグデータです。これをAI技術で分析し、将来の能力や稼ぐ力を推定する。どこまでの個人情報を収集する(した)のか、それは完全に秘密にされるでしょうが、個人の購買履歴やライフスタイルに関するさまざまな情報が参考になると思われます。もちろん推定がハズレることもあるでしょうが、個人向けローンのビジネスが成立する程度の正確さで推定できればよいわけで、それが出来るというのが新会社設立の背景です。

「若者がもつ将来の能力や稼ぐ力に合わせて貸し出せる。若者が夢をかなえられる」という孫社長の発言の裏にあるのは、

  「本人からの申告データ」と「合法的に入手できるデータから推定できる個人情報」をもとに、AI技術を使って、個人向け融資ビジネスに使える程度の正確さで、本人の将来の稼ぐ力を推定できる

ということであり、既にそういう時代に突入していることは認識しておくべきでしょう。

(2016.9.18)


 補記2:アマゾン・ゴー 

2018年1月22日、Amazon はシアトルに「レジ係がいないコンビニ」をオープンさせました。ここにはAI技術が駆使されています。本文の中で紹介したオックスフォード大学の「雇用の未来」に、AIによって職を奪われやすい職種として「小売店などのレジ係」が "97%の高確率" でリストアップされていました。それが現実化する第1歩が踏み出されたわけです。日本経済新聞の記事(オープン直前に書かれた記事)を引用します。


米に無人AIコンビニ
 アマゾン、レジなく自動精算

【シリコンバレー = 中西豊紀】 米アマゾン・ドット・コムは22日(米国時間)、米シアトルに無人のコンビニエンスストアを開業する。人工知能(AI)の技術を駆使して、レジを無くした。来店客は買いたい商品を棚から取り出し、そのまま外に出るだけで自動的に支払いが済む。ネット小売りを制したアマゾンが実店舗のあり方も変えようとしている。

「アマゾン・ゴー」の名称でシアトルの本社下に開く。広さは1800平方フィート(約167平方メートル)で、サンドイッチなどの総菜や半調理食材、飲料などを扱う。最大の特徴はお金を払うレジがないことだ。

客は専用アプリをダウンロードしたスマートフォン(スマホ)を入り口にある自動改札のような専用ゲートにかざして入店。欲しい商品を自分の買い物バッグなどに入れて、そのままゲートから出るだけで買い物が済む。店内には買い物かごもなければレジ待ちの行列が生じることもない。

店内はそれぞれの客がどの商品を選んだかを天井に大量に設置されたカメラや棚のセンサーを通じて常時把握している。仕組みについて同社は「画像認識と機械学習の仕組みを駆使している」とのみ説明。Aという客が一度選んでその後また棚に戻した総菜を「Aにとっての決済対象外商品」と認識できるだけの精度がある。

これまでの小売業は無線のタグを店内の商品すべてに取り付け、それを基に在庫管理を簡素化するなどしてきた。無人のレジを置く店舗も増えているが、客は決済時に自分で商品情報を機械に読み込ませる必要があり利便性が高いとは言い難かった。

アマゾンはAIを使って店舗内の商品と客をまるごと認識するやり方をとっており、実店舗の常識にとらわれていない点で発想が違う。同じAIの活用を勧めるウォルマートでは「いかにレジの行列待ちを減らすか」(幹部)に注力しているが、アマゾンは「そもそもレジは必要か」という視点に立っている。

日本経済新聞(2018.1.23)

Amazon Go.jpg
Amazon Goの出入り口
記事の見出しだけを読むと誤解しそうですが、この店舗は無人でありません。総菜を調理する人や商品の棚出しをする人、警備員などはいます。これは「レジ係無しの店舗」です。日本でも広がってきたセルフ・レジは決して無人のレジではなく、レジ係を利用客に代行させるという奇妙なレジですが、アマゾンの店舗は本物の無人レジであり、その意味では画期的でしょう。

報道で思ったのは、やはり AI(ないしは、AIを含む広い意味での機械)で代替しやすい仕事と、そうではない仕事があることです。多くのスーパーで見られるような「バーコードをスキャンし決済するだけのレジ係」は機械で完全に代替されてしまうことが証明されました。しかし日本のコンビニのような「多機能レジ係」はそうとも言えないでしょう。コンビニでは「スキャンと決済」だけでなく、保温商品の提供(おでんやフライなど)、代行収納、宅配便の保管、チケットの販売など、"コンビニエンス" を利用客に提供するための多様な業務を行っています。仕事の価値とは何かを考えさせられます。

アマゾンの店舗で使われているAI技術は非公開のようです。技術の詳細が分かると悪用されるからでしょうが、今後、研究が進んで徐々にメディアで報道されると思います。たとえば、利用者のプライバシーに配慮して顔認識はあえてせず、服装などで人を特定していると米メディアが既に報じています。この、店舗全体を自販機に変えてしまう技術に注目したいと思います。

(2018.1.23)



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