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No.117 - ディジョン滞在記 [文化]

前回の No.116「ブルゴーニュ訪問記」の時に滞在した町、ディジョンについてです。ディジョン滞在の事前情報として、日本の旅行者の方が書かれたブログが参考になりました。お互いさまというわけで、何点かディジョンについて書きます。


ブルゴーニュ公国


ブルゴーニュ公国は14-15世紀に隆盛を誇ったブルゴーニュ公の領地で、その首都がディジョンでした。またブルゴーニュ公はフランドル地方(現在のベルギー・オランダ・ルクセンブルグ)も支配していました。前回の No.116「ブルゴーニュ訪問記」に書いたボーヌのオスピス・ド・ボーヌにある「最後の審判」は15世紀のフランドルの画家・ウェイデンの作ですが、同じ領主の支配地域であったとすると納得できます。

ディジョンはパリから見ると南東の方向で、コート・ドール県の県庁所在地です。パリのリヨン駅からTGVで1時間40分程度で行けます。また、今回のブルゴーニュ旅行で訪問したボーヌは、列車で行くとするとディジョンから普通列車に乗り継いで約20分程度のようです。

ディジョンの駅を降りると、駅前にトラムの発着場があるのに気づきました。ディジョンは人口約15万の街です。トラムと言うと大きな都市のイメージがあるので、ちょっと意外な感じがしましたが、あとで調べてみるとフランスではかなりの数の地方都市にトラムがあり、現在も新設されているようです。ディジョン駅からディジョン旧市街の中心部までは十分歩いて行ける距離なので、トラムに乗る必要はありません。


ふくろうの順路


ふくろうの順路1.jpg
表紙の日本語には少し変なところがあるが、内容は充実していて読みやすい(日本語も正確)。旅行者にはありがたいガイドブックである(ディジョン市観光局発行。40ページ。有料)。

ディジョンの観光局は「ディジョン旧市街の観光スポットを巡る順路」を設定していて、これを「ふくろうの順路」と呼んでいます。なぜ「ふくろう」かというと、順路の途中に、ディジョン市民には有名なフクロウの石像(レリーフ)があるからです。

「ふくろうの順路」には日本語ガイドがあって(2014.4末時点)、これはディジョン駅の観光案内所で購入できます。なお観光案内所はブルゴーニュ公国宮殿の近くにもあり、こちらが本拠地です(http://www.visitdijon.com)。

ふくろうの順路には、舗道にフクロウの印がついた三角形のプレートが埋め込まれています。このプレートをたどっていくと、ディジョン旧市街のブルゴーニュ公国の歴史的建造物や美術館(合計、22のポイント)を一巡できるしかけです(ボストンのフリーダム・トレイルと似ている)。この順路にある主な歴史遺産は、

ディジョン・ふくろうの順路3.jpg
このディジョンの「守り神」は左手でさわることになっていて、擦り減っている。
ノートルダム聖堂(フクロウはこの裏手)
市庁舎・美術館
ブルゴーニュ公国宮殿・フィリップ善良王の塔
解放の広場
サン・ベニン聖堂

などです。ディジョンの歴史に触れるという意味では、このガイドブックから何点かのポイントを選んで(ないしは全部を)回ってみるのがよいでしょう。

ディジョン・ふくろうの順路1.jpg
ダルシー公園の前にある「ふくろうの順路」の起点
ディジョン・ふくろうの順路2.jpg
舗道には要所要所に方向を示すプレートが埋め込まれている


ブルゴーニュ料理


ディジョンで入ったレストランで印象に残ったのが「レスカルゴ(L'Escargot)」でした。ノートルダム聖堂からみて北東の方向、ジャン・ジャック・ルソー通り(Rue Jean-Jacques Rousseau)に面しています(下の地図)。名前のとおり、カタツムリのネオンサインがあります。名前と外観からすると「観光客目当て店」のように見えますが、中身は違います。確かに観光客もいましたが、地元の人とおぼしき客もいる。店内はこぎれいで、椅子は店名が入った特注品です。出される料理にも工夫があって、大変においしい。ブフ・ブルギニョン、エスカルゴなどがはいったコース料理を注文しましたが、値段もリーズナブルです。注文したワイン(シャサーヌ・モンラッシェ 赤 2010)も、確か35ユーロ程度だったと記憶しています。また、デザートが凝っています。クリーム・ブリュレでは目の前で振りかけたお酒(ブランデーだと思います)に点火して表面を焦がしていました。これが「正式の」ブリュレなのかもしれません。

この店を知ったのは、ディジョンに旅行をした方のブログでした。この店にはホームページもあります。

http://www.restaurantlescargot-dijon.com/

LEscargot1.jpg LEscargot2.jpg



そもそも「ブルゴーニュ料理」として有名なのは、

エスカルゴ(Escargot)
ジャンボン・ペルシエ(Jambon Perisille)
ブフ・ブルギニョン(Boeuf Bourguignon)
コック・オ・ヴァン(Coq au Vin)

などだと思います。

ジャンボン・ペルシエは、ハム(=ジャンボン)とパセリ(=ペルシエ)をゼリーで固めたテリーヌ風料理です。ブフ・ブルギニョン(ブルゴーニュ風牛肉の意味)は、いわゆる「牛肉の赤ワイン煮」ですね。その鶏肉バージョンがコック・オ・ヴァンです。ブルゴーニュと言えばエスカルゴですが、このほかに、ジャンボン・ペルシエブフ・ブルギニョンを頭に入れておけば、ディジョンで初めてレストランに入った時に(フランス語メニューしかなくても)戸惑わないと思います。

ディジョン料理・エスカルゴ.jpg
エスカルゴ
ディジョン料理・ジャンボンペルシエ.jpg
ジャンボン・ペルシエ

ディジョン料理・牛肉の赤ワイン煮.jpg
ブフ・ブルギニョン
ディジョン料理・鶏肉の赤ワイン煮.jpg
コック・オ・ヴァン

これらの写真はダルシー広場に面した Restaurant de la Porte Guillaume のもの。このレストランには、 前回、No.116 の尾田さんが訳した日本語メニューがある。

このうち「エスカルゴ」と「牛肉の赤ワイン煮」は、日本で食べて想像していたイメージと違っていて、少々意外な感じがしました。

まずエスカルゴは、バターとパセリ・ソースだけを添えてオーブンで焼いたというような感じです。詳細なレシピは分からないのですが、余計な調味食材はなく、「こってり感」も薄く、かなりすっきりとした調理方法です。考えてみると、同じ貝類の料理である「ムール貝の白ワイン蒸し」は基本的に白ワインと香草だけで調理しますが、それだけで十分おいしい。それと同じことかと思いました。内陸部なのでムール貝ではなくカタツムリというのも理にかなっている。

牛肉の赤ワイン煮(ブフ・ブルギニョン)もシンプルなレシピのようです。基本的に「赤ワインだけで」煮込んだように感じます。トマトペーストとか、そいういうものは入っていない。野菜と一緒に煮込んだのでもない。もちろんソースの工夫はするのでしょうが、基本的なところがシンプルです。結果として赤ワインの酸味がよく利いていて、大変美味しいと思いました。ディジョン滞在中にエスカルゴは3回、ブフ・ブルギニョンは2回食べましたが、レシピの基本は同じようです。



これに関係して思い出したのが、ブルゴーニュを案内してもらった尾田さん(前回 No.116)の発言です。彼女によると、

  イタリア料理がフランス料理に「勝てない」のはデザートとパン

だそうです。なるほどと思いました。確かにレストラン「レスカルゴ」のコース料理のデザートは非常に良かったし、フランスのパンの種類はものすごくあって、この料理にはこのパンというような「マリアージュ」があったりします。

しかし、尾田さんの発言を裏返えして言うと、

  デザートとパンを無視したとすると、イタリア料理はフランス料理と肩を並べるか、ないしは勝っている

ということになります。これには納得する日本人が多いのではないでしょうか。そして「イタリア料理が勝っている」と(日本人が思うと)したら、その要因は、日本料理にも通じる「食材をシンプルに生かす」という側面だと思います。

ところが、こういう議論で言う「フランス料理」とは、一般的に日本人が日本の(高級)フレンチ・レストランの料理に抱いているフランス料理のイメージだと思うのですね。そしてディジョンのレストランから思ったことは、フランスの地方に行けば、また違うフランス料理があるということです(当たり前だけど)。われわれには「フランス = パリ。料理 = ミシュランの星付き」みたいな固定概念があるのではと思います。フランスの食文化はかなり多様であり、軽々しく「勝っている」とか「そうでない」と判断するのはまずいのではないか。

そこで思い出すのが、映画「大統領の料理人」(No.98)です。あの映画は、大統領(実話としてはミッテラン大統領)がフランスのペリゴール地方の農場でレストランをやっていたオルタンス(実話としてはダニエル・デルプシュという女性料理人)を大統領専属シェフとして抜擢する話でした。ここではフランス料理の多様性が暗示されています。フランスにもパリ料理、ペリゴール料理、ブルゴーニュ料理といった変化がある。これは当然といえば当然なのですが、日本にいる(ないしは旅行者としてパリに行く)日本人にとっては、気が付きにくい点だと思いました。

ディジョンに行って良く分かったのは、やはりフランスは美食の国ということです。これは、意外にもパリにだけ行くと分かりにくい。一人、2、3万円のフレンチのコースが美味しいのは当たり前であって、美味しくないとなると、それは「詐欺」ということになります。

またフランスに旅行する機会があったら、ほかの地方都市(内陸部だと、たとえばリヨン。フランス第2の都市なので「地方」というのは変ですが)にも是非行ってみたいと思います。


マイユ本店


ディジョンはマスタードで有名ですが、マスタードの有名メーカー「マイユ」の本店はディジョンにあります。ダルシー公園からブルゴーニュ公国宮殿に向かう通り(Rue de la Liberte:リベルテ通り)がディジョン一番の「繁華街」なのですが、マイユ本店はこの通りに面しているので、すぐに分かります(下の地図)。

Dijon - Maille.jpg

マイユのマスタードは日本のスーパーでも売っているので珍しくはないのですが、本店では多種のマスタードがあります。特に壷に入った生マスタードが日本では(たぶん)入手できないと思います。トリュフ入りの生マスタードもあります。地元の人は、空になった壷を店に持っていって中身を詰めてもらう、という買い方をするようです。

マイユ・生マスタード.jpg
マイユの壺入り生マスタード。左が「粒マスタード」で、右が「トリュフ入り」。

マイユはパリのマドレーヌ広場に店があるので、「重さ」を考えると、そちらで買うのが賢明かもしれません。


ファブリス・ジロット本店 (Fabrice Gillotte)


新宿伊勢丹などに入っているショコラティエ、ファブリス・ジロットの本店もディジョンにあります。この店は Rue de la Liberte には面していません。そこから南に入った Rue du Bourg という通りにあります(下の地図)。

Dijon - fabrice gillotte.jpg

ディジョン本店と日本の店(たとえば新宿伊勢丹)との商品の比較は今できないのですが、「本店で買った」ということでディジョン土産としては好適でしょう。

Fabrice Gillotte - Carres G Inattendus - Pistache croustillante.jpg Fabrice Gillotte - Tentations - Mendiants.jpg
Fabrice Gillotte
Carrés G -Inattendus
Pistache croustillante
Fabrice Gillotte
Tentations - Mendiants



ふくろうの順路4.jpg


カエサルと戦ったヴェルチンジェトリックス


ここからはディジョンと直接の関係はない余談です。

No.24 - 27 で書いた塩野七生氏の「ローマ人の物語」の関連で思い出したのですが、紀元前にフランスがローマ人からガリアと呼ばれていた時代、カエサルと戦ったヴェルチンジェトリックスの絵やアニメがディジョンの街角で目につきました。カエサルのローマ軍と、ヴェルチンジェトリックスが率いるガリア連合軍の決戦を「アレシアの戦い」と呼ぶのですが、この「アレシア」はディジョンの北西・数10kmのところ(シャブリの近く)にあります(もちろん行かなかった)。


紀元前五二年の夏から秋にかけて、カエサルと全ガリア連合軍の決戦の場とならなければ、ブルゴーニュ地方のただの小城市として歴史にも登場しなかったにちがいないアレシアは、ディジョンとオルレアンを結んだ線上の、ディジョンにぐっと近づいた丘陵地帯にある。

塩野七生「ローマ人の物語 4」

2000年以上前のヴェルチンジェトリックスは、現在でも「フランスの英雄」のようです。


5月1日のスズランの花


これもディジョンと直接の関係はないのですが、ディジョンを離れてパリに戻った日は5月1日でした。フランスでは5月1日は祭日であり(日本で言うメー・デー)、ディジョンの街の店も、多くは閉じていました。

そしてフランスでは「5月1日に、愛する人にスズランの花を贈る」という習慣があります。ディジョンの街角にも朝から「スズランの花売り」が立っています。子供の花売りもいます。パリに戻っても、よく見ると胸にスズランの花を差している人がいる。

ディジョン・スズランを売る少女.jpg
5月1日の朝、ディジョンのダルシー公園の前でスズランを売る少女

このスズランの花の習慣は、ゴールデン・ウィークにフランスに旅行して初めて知りました。


23kgの厳しさ


今回のフランス旅行で買ったお土産の中には、重いものがいろいろありました。ワイン、オリーブオイル、壷入りの生マスタードなどです。ブルゴーニュ・ワインは一本で1.5kgほどあります。これで思い知ったのは、

  国際線・エコノミーの手荷物、1人1個、23kgまでという、最近の厳格ルールがきつい

ことです(航空会社は全日空だったが、一般的な国際ルール。もちろんこれ以外にサイズ規制がある)。我々夫婦の荷物も、25kgと22kgになってしまい、25kgの方の受け取りをシャルル・ド・ゴール空港で拒否されてしまいました(追加料金が必要)。仕方がないので、空港で重さが均等になるように詰め替え、機内持ち込みのバッグも膨らませて、ようやく追加料金なしでパスしました。最近は「2人合わせて制限内ならよい」みたいなことはないようです。

こうなると、ラゲージ・ケースは出来るだけ軽いものに限ります。また、これからの海外旅行には「はかり」が必須になる予感もしました。そう思って機内誌を見ていたら「携帯用の秤」が載っていました。今後「重量計付きのラゲージ・ケース」が売り出されるかもしれません。




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