No.103 - 遺伝子組み換え作物のインパクト(2) [社会]
前回(No.102)に続いて遺伝子組み換え作物(GM作物)の話ですが、今回は「GM作物の問題点」ないしは「懸念」です。
GM作物による農業構造の変化
GM作物(特に農薬耐性作物)は、農業の構造を大きく変化させると考えられます。このことが、世界的にみると数々の社会問題を引き起こしかねない。
まず、GM作物の種子を研究・開発する会社(モンサント社など)は、
特定の作物にターゲットを絞るはずです。それは企業の売り上げを増やすためには当然の行為であって、この結果が「GM大豆」であり「GMトウモロコシ」です。「GM蕎麦」というのは永遠に出てこないでしょう。そんなものに研究投資をしても損をするだけです。
しかもGM作物は、非GM作物に比べて
という特徴を持っています。
これらのことが「特定作物の大規模栽培に農業を誘導する」ことは、容易に予測できます。その方向に進めば進むほど、農業としての「利益」を出しやすくなるからです。もちろん、国によって土地の広さや土質、気象条件、土地利用規制が違うので、進行の程度は違うでしょうが、一般論としてはそうなるはずです。この結果、
などが起こる。毎日新聞はアルゼンチンにおけるGM作物の現状を取材し、2013年10月に紙面で報告しました。以下、この記事を「アルゼンチン報告」と呼ぶことにします。「アルゼンチン報告」には以下のように書かれています。
GM大豆は栽培コストが安くて収穫量も多い。このことが、大豆の大規模農業へと誘導します。収穫期以外に1人か2人を雇用するのなら、その人数で維持できる最大面積まで農地を拡大した方が得です。3人か4人を雇用すると倍の面積の耕作が可能になる(資金と土地さえあれば)。いわゆる「規模のメリット」です。
9000ヘクタール(ほぼ、10キロメートル四方に相当)とは大変な広さですが、南米やオーストラリアで「大規模農家」というと、この程度の耕作面積のようです。GM作物以前の問題として、とても日本の農家がコスト的に競争できるものではありません。
しかし、このような大規模農業の裏では、土質の劣化や農薬使用量の増加といった「負の側面」が進行していきます。
「耐性雑草の増加」は、前回(No.102)でアメリカの事例を紹介しました(いわゆるスーパー雑草)。さらに、大豆農業の大規模化は、零細農家や牧畜業にも多大な影響を与えています。
引用の最後にある「農薬と雌牛の死産」の因果関係は、この記事だけでは明らかではありません。とりあえずは「そう農民が発言した」と受けとった方がよいと思います。
それはさておき、モノカルチャーという言葉は、普通「単一文化」という意味で使いますが、カルチャーの元々の意味は「耕作」です。その「耕作の単一化 = モノカルチャー化」が進んでいるわけです。
「生産コストが低い」「収穫量が多い」というようなキーワードは、それだけを聞くと全ての農家に恩恵があるように錯覚してしまいますが、自由経済・資本主義の原則を貫くと、決してそうはならないのです。
もちろん、いわゆる先進国では農業に対して各種の政府規制や補助金があり、アルゼンチンのようにはならないでしょう。しかし毎日新聞の「アルゼンチン報告」は、GM作物(特に、農薬耐性GM作物)がもたらすインパクトの本質を突いていると思います。
GM作物の懸念(1)安全性
GM作物については、長期に渡って人間が摂取したときの安全性が懸念されてきました。しかし現在においては、世界の多くの科学者は「安全」と考えています。日本でも大豆、トウモロコシなどの8品目が政府の審査を経て認可されています。「安全」という結論なのだと思います。
確かにグリホサート耐性大豆の「耐性のメカニズム」(前回 No.102)を見ると、そのGM大豆はEPSPS遺伝子とEPSPS酵素だけが変異形であり、アミノ酸もタンパク質も通常の大豆と全く変わらないようです。大豆の遺伝子や酵素は人間の体内に吸収されないので、安全という結論も一応は理解できます。
しかしGM作物は「農薬耐性」だけではありません。認可されているかどうかは別にして、主なGM作物には以下のようなものがあります。
などです。これらがおおむね人間にメリットをもたらすことは明らかです。「病害虫耐性」の作物は農薬使用量を減らし、また収穫量の増加につながります。「乾燥耐性」も干魃時における不作の緩和に役立つし、水資源の乏しい土地での食料生産に役立ちます。アフリカなどでは特に重要でしょう。現在、GM作物の商品化の最先端はこの「乾燥耐性」のようです。
以上のようなメリットはあるものの、GM作物の安全性の審査は厳格にするべきでしょう。遺伝子の人工的な改造の内容もいろいろです。
たとえばモンサント社は「害虫耐性」をもった新GM大豆をアルゼンチンとブラジルに投入しました(毎日新聞の「アルゼンチン報告」2013.10.23)。害虫がこの大豆を食べると死ぬそうです。本当に人間に影響はないのでしょうか。
作付けはされていませんが、自然界にはない「ビタミンAを含む米」が既に開発されています。世界的にみるとビタミンA欠乏症の人(ひどい場合は失明)が多いからです。それなら「食物アレルギーを起こさない大豆や小麦」も開発できるはずです。そのためには、大豆や小麦の本来のタンパク質を「改造」する必要があると思いますが、そういう風にどんどん突き進んでいいのかどうか(これらは一例です)。
GM作物について一番気になるのは、GM小麦が認可・栽培されていないことです。既に除草剤耐性をもつGM小麦は開発されているにもかかわらず、です。
GM小麦が安全なら、なぜモンサント社とアメリカ政府は自国の消費者や輸出業者や世界に向かって、堂々とその安全性を主張しないのかという疑問が当然出るわけです。
人類にとって小麦(そして米)こそ基幹食料であり、アフリカや新興国で飢えに苦しむ人は「小麦が入手できないから苦しんでいる」ケースが多いわけです。国連がUNマークを付けたトラックで小麦の袋を配っている様子がテレビで放映されたりします。GM小麦が小麦の増産につながるなら、それは人類にとって大きなプラスのはずです。
なぜGM小麦は栽培されないのか。それは人間が食べるものだから、ということのようです。
こういう話を聞くと、あくまで連想ですが、東京電力が「原子力発電は絶対安全」と言いつつ、原子力発電所を最大電力消費地域に近接した東京湾沿岸に作らずに、東北電力の管内(福島、新潟)に建設したことを思い出します。
まさか、GM作物を推進する人たちは
というようなイメージで考えているのではないでしょうね。そうでないとは思いますが・・・・・・。
GM作物の懸念(2)バイオメジャーによる食料支配
農業構造の変化や安全性やより(現時点で)もっと大きなGM作物の問題点だと思うのは、世界の食料、特に穀物のような基幹食料が、GM品種を作り出す「バイオメジャー」と呼ばれる、バイオ・テクノロジーで武装した特定の企業の支配下に置かれることです。支配下に置かれるというのが大袈裟なら、そういった企業が極めて強い影響力を持つということです。
まず農家に対する支配力ですが、GM作物は特許です。農家はモンサント社のGM作物の種子を購入するときに「自家採種をしない」という契約を結びます。つまり「収穫した種子をもとに再度栽培しない」という契約です。これに違反すると農家はモンサント社から特許侵害で訴訟を起こされることになります。アメリカ、カナダでは実際に訴訟になった例があるようです。モンサント社は農家の「契約違反」を監視するための組織を作り(俗称:モンサント・ポリス)畑の作物のDNA分析までやって「摘発」に努めています(以上、鈴木教授の本による)。
要するに農家はGM作物の種子をモンサント社だけから買い続けなければならないのです。
また、GM作物によりバイオメジャーの穀物市場支配力が強まります。GM種子が寡占市場になると(事実、現在のGM種子市場の 90% はモンサント社)、GM種子の値段を決める決定権は企業が握ることになる。綿の種子市場を席捲したあとに値上げという事例がインドであったようです。もちろん企業としては、研究開発費を捻出するためなどの理由があるのでしょう。
バイオテクノロジーを研究する大学の研究者・学者と企業の関係も気になります。GM作物の発展は、遺伝子組み換えを研究する研究者に企業から研究資金が流れる構造を生みます。こういった研究費の援助は一般的に行われています。ということは、「GM作物の安全性に疑問を投げかける」少数の学者の研究は、誹謗やバッシングを受けるでしょうね。日本の原子力発電の研究においても、安全性に疑問を投げかける少数の学者に対する誹謗が多々あったのを思い出します。学者の意見は政府の意志決定にも影響します。
さらにバイオメジャーの市場支配は、国に対する企業の強い影響力につながります。毎日新聞の「アルゼンチン報告」では、次のように書かれています。
アルゼンチンは、2001年にデフォルト(債務不履行)に陥りました。今も国家財政の建て直しが最重要課題のはずです。二度とデフォルトにはなりたくないと指導者は強く思っているでしょう。その財政建て直しの一端を担うのが「GM作物と35%の輸出税」というわけす。こうなるとモンサント社はアルゼンチンに対して強い影響力を行使できる条件が揃うことになります。
記事に「GM種子の特許保護を強化」とあります。内容は分からないのですが、たとえば特許侵害(GM作物の自家採種)をした農家への罰則強化などを想像します。GM種子の特許保護強化はモンサント社にとって有利です。この法改正はモンサント社の強い要求によるものではないでしょうか。それが当たっているかどうかはともかく、企業と国家の「密接関係」があり、それが企業収益と国家財政を潤すという構造が成立しうる状況だということは確かでしょう。
「アルゼンチン報告」には次のようなことも書かれています。
「害虫が食べると死ぬ新GM大豆」というのは、害虫耐性大豆というより「殺虫性大豆」です。詳細は分からないのですが、本当にこの大豆は人間に影響がないのでしょうか。ブラジルとアルゼンチンの政府は、安全性を厳格に審査したのでしょうか。企業と国家の「密接関係」によってこの作付けが可能になったのではないか。両国はモンサント社に「実験場」を提供したかっこうになっているのでは・・・・・・。いろいろと気になる報道です。
本家本元のアメリカに関して言うと、オバマ大統領は、俗称「モンサント保護法」と呼ばれる法律に署名し、議会に提出しました。「GM作物で健康被害が出ても、因果関係が証明できない限りGM種子の販売や植栽を差し止められない」という条項を含んだ法律です。これは世論の反発を招き、さすがに議会(上院)はこの条項を最終的に削除しました(2013年9月)。オバマ政権はモンサント社と密着していたが、議会が良識を示したということでしょうか。
しかし「モンサント保護法」が提出された背景には、GM大豆やGMトウモロコシが米国にとっての戦略輸出物資であり、それが他国を(間接的に)支配する道具であり、そのことに特定の企業が深く関わっているという事実があるのだと思います。GM作物に関するアメリカ政府の行動をみると、モンサントを筆頭とするバイオメジャーはアメリカの国策会社の面があるかのようです。
EU諸国はGM作物について厳しい態度をとっている国が多いわけです。栽培・輸入を一切認めていない国があるし、認可されている作物は少数です。食品への表示義務も厳格です。それはEU諸国が、食料が一握りの企業に支配されるのは国家の安全保障の観点からまずいと考えているのではないでしょうか。
そもそもアメリカやヨーロッパの先進国は、基幹食料(小麦、乳製品、肉など)を自前で確保することは国家安全保障の問題だと考えて行動していると感じます。特にヨーロッパはアメリカや南米やオーストラリアのような広大な土地があるわけではないので、自由競争をすれば不利です。従って農畜産物に関税をかけ、また多大な補助金を農業・畜産業に出して、70%以上の食料自給率を維持しています(フランスは100%超)。食料自給率が40%程度しかない日本とは、国家の運営方針がだいぶ違うのです。
このようなEUにしてみると、穀物生産の根幹のところが一握りのバイオメジャーに「支配」されることは何としても避けたいのだと思います。
GM作物の問題は、安全性よりも、企業の食料に対する影響力の問題の方がよほど大きいと感じます。
企業活動と基本食料
モンサント社は企業としての当然の行動をしていると考えられます。GM作物に対する懸念やマイナス面はあるが、GM作物が世界の食料増産に役立つこともまた事実です。それは農薬がない農業が(一般的には)考えられないのと似ています。特許で農民を縛るのも、そうしないと膨大な研究費を捻出(回収)できないからでしょう。CDやDVD、各種メディアの違法コピー・販売を野放しにしておくと、音楽産業や映画産業は成り立ちません。政府に対する影響力の行使やロビー活動もバイオメジャーだけの話ではありません。
要するにGM作物の種子は最先端技術で作り出された商品なのです。それは「商品」という観点だけからするとスマートフォンと変わらない。アップルが(今の形の)スマートフォンという概念を作り出し、サムスン電子が最速でそれに追従した。アップルとサムスンは、スマートフォン市場を独占したい、ないしは2社の寡占状態を維持したいと思っていることでしょう。それは、GM作物を研究・開発するバイオメジャーの独占状態と同じです。
しかし、そもそもスマートフォンと大豆を同列に考えてよいのかという問題があるわけです。
企業は3ヶ月から1年の「短期の業績」を最大重要指標として行動します(行動せざるを得ない)。それが株価・時価総額をあげることにつながる。増収・増益が数年間続くと、今年も減益には絶対したくないと経営者は考えるでしょう。
そう行動せざるを得ない企業に、穀物という人間の生存にとって必須で、健康に直結するものを任せていいとは思えません。企業の利益と社会の利益の乖離が激しくなるのは必定です。GM作物については、政府の強力な規制と認可のガイドラインの厳格化、国民への情報開示がなによりも重要だと思います。
米国における初めての「遺伝子組み換え表示法」が成立したようです。
これが米国における今後の流れを作るのか、それともバーモント州という小さな州(人口は米国の州で49位)だから可能になったことなのかは分かりません。しかしナショナル・ブランドの食品は、2016年7月以降は表示をしないとバーモント州では売れなくなることは確かだと思います。今後、注視したいと思います。
GM作物による農業構造の変化
GM作物(特に農薬耐性作物)は、農業の構造を大きく変化させると考えられます。このことが、世界的にみると数々の社会問題を引き起こしかねない。
まず、GM作物の種子を研究・開発する会社(モンサント社など)は、
・ |
商品価値が高く | ||
・ |
生産規模が大きく | ||
・ |
流通量が多く | ||
・ |
国際貿易量も多い |
特定の作物にターゲットを絞るはずです。それは企業の売り上げを増やすためには当然の行為であって、この結果が「GM大豆」であり「GMトウモロコシ」です。「GM蕎麦」というのは永遠に出てこないでしょう。そんなものに研究投資をしても損をするだけです。
しかもGM作物は、非GM作物に比べて
・ |
栽培が容易 | ||
・ |
生産コストが安い | ||
・ |
収穫量が多い |
という特徴を持っています。
これらのことが「特定作物の大規模栽培に農業を誘導する」ことは、容易に予測できます。その方向に進めば進むほど、農業としての「利益」を出しやすくなるからです。もちろん、国によって土地の広さや土質、気象条件、土地利用規制が違うので、進行の程度は違うでしょうが、一般論としてはそうなるはずです。この結果、
・ |
特定作物への集中 | ||
・ |
連作による土壌の劣化 | ||
・ |
中小農家の経営的破綻 | ||
・ |
土地利用形態の根本的な変化 |
などが起こる。毎日新聞はアルゼンチンにおけるGM作物の現状を取材し、2013年10月に紙面で報告しました。以下、この記事を「アルゼンチン報告」と呼ぶことにします。「アルゼンチン報告」には以下のように書かれています。
|
GM大豆は栽培コストが安くて収穫量も多い。このことが、大豆の大規模農業へと誘導します。収穫期以外に1人か2人を雇用するのなら、その人数で維持できる最大面積まで農地を拡大した方が得です。3人か4人を雇用すると倍の面積の耕作が可能になる(資金と土地さえあれば)。いわゆる「規模のメリット」です。
|
9000ヘクタール(ほぼ、10キロメートル四方に相当)とは大変な広さですが、南米やオーストラリアで「大規模農家」というと、この程度の耕作面積のようです。GM作物以前の問題として、とても日本の農家がコスト的に競争できるものではありません。
しかし、このような大規模農業の裏では、土質の劣化や農薬使用量の増加といった「負の側面」が進行していきます。
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「耐性雑草の増加」は、前回(No.102)でアメリカの事例を紹介しました(いわゆるスーパー雑草)。さらに、大豆農業の大規模化は、零細農家や牧畜業にも多大な影響を与えています。
|
引用の最後にある「農薬と雌牛の死産」の因果関係は、この記事だけでは明らかではありません。とりあえずは「そう農民が発言した」と受けとった方がよいと思います。
それはさておき、モノカルチャーという言葉は、普通「単一文化」という意味で使いますが、カルチャーの元々の意味は「耕作」です。その「耕作の単一化 = モノカルチャー化」が進んでいるわけです。
「生産コストが低い」「収穫量が多い」というようなキーワードは、それだけを聞くと全ての農家に恩恵があるように錯覚してしまいますが、自由経済・資本主義の原則を貫くと、決してそうはならないのです。
もちろん、いわゆる先進国では農業に対して各種の政府規制や補助金があり、アルゼンチンのようにはならないでしょう。しかし毎日新聞の「アルゼンチン報告」は、GM作物(特に、農薬耐性GM作物)がもたらすインパクトの本質を突いていると思います。
GM作物の懸念(1)安全性
GM作物については、長期に渡って人間が摂取したときの安全性が懸念されてきました。しかし現在においては、世界の多くの科学者は「安全」と考えています。日本でも大豆、トウモロコシなどの8品目が政府の審査を経て認可されています。「安全」という結論なのだと思います。
確かにグリホサート耐性大豆の「耐性のメカニズム」(前回 No.102)を見ると、そのGM大豆はEPSPS遺伝子とEPSPS酵素だけが変異形であり、アミノ酸もタンパク質も通常の大豆と全く変わらないようです。大豆の遺伝子や酵素は人間の体内に吸収されないので、安全という結論も一応は理解できます。
しかしGM作物は「農薬耐性」だけではありません。認可されているかどうかは別にして、主なGM作物には以下のようなものがあります。
◆ |
農薬耐性 | ||
◆ |
病害虫耐性 | ||
◆ |
乾燥耐性 | ||
◆ |
人間にとって有用な物質を含む作物 |
などです。これらがおおむね人間にメリットをもたらすことは明らかです。「病害虫耐性」の作物は農薬使用量を減らし、また収穫量の増加につながります。「乾燥耐性」も干魃時における不作の緩和に役立つし、水資源の乏しい土地での食料生産に役立ちます。アフリカなどでは特に重要でしょう。現在、GM作物の商品化の最先端はこの「乾燥耐性」のようです。
なお、乾燥耐性については、日経産業新聞の2013年10月3日付の記事に、米国大手企業の競争が載っていました。その記事によると、
とのことです。 デュポン社の技術者は「乾燥が植物に与える影響は非常に複雑であり、耐性を実現するには、1つの遺伝子を入れるより、いくつもの要素を組み入れる交配が向く」と言っています。グリホサート耐性はEPSPS遺伝子だけを「狙いうち」すればよいが(前回 No.102)、乾燥耐性ではそうはいかない、ということでしょう。あくまでデュポン側の見解ですが、その一方でデュポン社は、乾燥耐性GM種の研究を大々的に行っていると想像します。 乾燥耐性は従来手法(交配による品種改良)をも巻き込んで「熱い競争」になっているようです。 |
以上のようなメリットはあるものの、GM作物の安全性の審査は厳格にするべきでしょう。遺伝子の人工的な改造の内容もいろいろです。
たとえばモンサント社は「害虫耐性」をもった新GM大豆をアルゼンチンとブラジルに投入しました(毎日新聞の「アルゼンチン報告」2013.10.23)。害虫がこの大豆を食べると死ぬそうです。本当に人間に影響はないのでしょうか。
作付けはされていませんが、自然界にはない「ビタミンAを含む米」が既に開発されています。世界的にみるとビタミンA欠乏症の人(ひどい場合は失明)が多いからです。それなら「食物アレルギーを起こさない大豆や小麦」も開発できるはずです。そのためには、大豆や小麦の本来のタンパク質を「改造」する必要があると思いますが、そういう風にどんどん突き進んでいいのかどうか(これらは一例です)。
GM作物について一番気になるのは、GM小麦が認可・栽培されていないことです。既に除草剤耐性をもつGM小麦は開発されているにもかかわらず、です。
|
人類にとって小麦(そして米)こそ基幹食料であり、アフリカや新興国で飢えに苦しむ人は「小麦が入手できないから苦しんでいる」ケースが多いわけです。国連がUNマークを付けたトラックで小麦の袋を配っている様子がテレビで放映されたりします。GM小麦が小麦の増産につながるなら、それは人類にとって大きなプラスのはずです。
なぜGM小麦は栽培されないのか。それは人間が食べるものだから、ということのようです。
|
こういう話を聞くと、あくまで連想ですが、東京電力が「原子力発電は絶対安全」と言いつつ、原子力発電所を最大電力消費地域に近接した東京湾沿岸に作らずに、東北電力の管内(福島、新潟)に建設したことを思い出します。
まさか、GM作物を推進する人たちは
小麦 | ─── | 東京湾沿岸 | |
大豆 | ─── | 福島 | |
トウモロコシ | ─── | 新潟 |
というようなイメージで考えているのではないでしょうね。そうでないとは思いますが・・・・・・。
GM作物の懸念(2)バイオメジャーによる食料支配
農業構造の変化や安全性やより(現時点で)もっと大きなGM作物の問題点だと思うのは、世界の食料、特に穀物のような基幹食料が、GM品種を作り出す「バイオメジャー」と呼ばれる、バイオ・テクノロジーで武装した特定の企業の支配下に置かれることです。支配下に置かれるというのが大袈裟なら、そういった企業が極めて強い影響力を持つということです。
まず農家に対する支配力ですが、GM作物は特許です。農家はモンサント社のGM作物の種子を購入するときに「自家採種をしない」という契約を結びます。つまり「収穫した種子をもとに再度栽培しない」という契約です。これに違反すると農家はモンサント社から特許侵害で訴訟を起こされることになります。アメリカ、カナダでは実際に訴訟になった例があるようです。モンサント社は農家の「契約違反」を監視するための組織を作り(俗称:モンサント・ポリス)畑の作物のDNA分析までやって「摘発」に努めています(以上、鈴木教授の本による)。
要するに農家はGM作物の種子をモンサント社だけから買い続けなければならないのです。
また、GM作物によりバイオメジャーの穀物市場支配力が強まります。GM種子が寡占市場になると(事実、現在のGM種子市場の 90% はモンサント社)、GM種子の値段を決める決定権は企業が握ることになる。綿の種子市場を席捲したあとに値上げという事例がインドであったようです。もちろん企業としては、研究開発費を捻出するためなどの理由があるのでしょう。
バイオテクノロジーを研究する大学の研究者・学者と企業の関係も気になります。GM作物の発展は、遺伝子組み換えを研究する研究者に企業から研究資金が流れる構造を生みます。こういった研究費の援助は一般的に行われています。ということは、「GM作物の安全性に疑問を投げかける」少数の学者の研究は、誹謗やバッシングを受けるでしょうね。日本の原子力発電の研究においても、安全性に疑問を投げかける少数の学者に対する誹謗が多々あったのを思い出します。学者の意見は政府の意志決定にも影響します。
さらにバイオメジャーの市場支配は、国に対する企業の強い影響力につながります。毎日新聞の「アルゼンチン報告」では、次のように書かれています。
|
アルゼンチンは、2001年にデフォルト(債務不履行)に陥りました。今も国家財政の建て直しが最重要課題のはずです。二度とデフォルトにはなりたくないと指導者は強く思っているでしょう。その財政建て直しの一端を担うのが「GM作物と35%の輸出税」というわけす。こうなるとモンサント社はアルゼンチンに対して強い影響力を行使できる条件が揃うことになります。
記事に「GM種子の特許保護を強化」とあります。内容は分からないのですが、たとえば特許侵害(GM作物の自家採種)をした農家への罰則強化などを想像します。GM種子の特許保護強化はモンサント社にとって有利です。この法改正はモンサント社の強い要求によるものではないでしょうか。それが当たっているかどうかはともかく、企業と国家の「密接関係」があり、それが企業収益と国家財政を潤すという構造が成立しうる状況だということは確かでしょう。
「アルゼンチン報告」には次のようなことも書かれています。
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「害虫が食べると死ぬ新GM大豆」というのは、害虫耐性大豆というより「殺虫性大豆」です。詳細は分からないのですが、本当にこの大豆は人間に影響がないのでしょうか。ブラジルとアルゼンチンの政府は、安全性を厳格に審査したのでしょうか。企業と国家の「密接関係」によってこの作付けが可能になったのではないか。両国はモンサント社に「実験場」を提供したかっこうになっているのでは・・・・・・。いろいろと気になる報道です。
本家本元のアメリカに関して言うと、オバマ大統領は、俗称「モンサント保護法」と呼ばれる法律に署名し、議会に提出しました。「GM作物で健康被害が出ても、因果関係が証明できない限りGM種子の販売や植栽を差し止められない」という条項を含んだ法律です。これは世論の反発を招き、さすがに議会(上院)はこの条項を最終的に削除しました(2013年9月)。オバマ政権はモンサント社と密着していたが、議会が良識を示したということでしょうか。
しかし「モンサント保護法」が提出された背景には、GM大豆やGMトウモロコシが米国にとっての戦略輸出物資であり、それが他国を(間接的に)支配する道具であり、そのことに特定の企業が深く関わっているという事実があるのだと思います。GM作物に関するアメリカ政府の行動をみると、モンサントを筆頭とするバイオメジャーはアメリカの国策会社の面があるかのようです。
EU諸国はGM作物について厳しい態度をとっている国が多いわけです。栽培・輸入を一切認めていない国があるし、認可されている作物は少数です。食品への表示義務も厳格です。それはEU諸国が、食料が一握りの企業に支配されるのは国家の安全保障の観点からまずいと考えているのではないでしょうか。
そもそもアメリカやヨーロッパの先進国は、基幹食料(小麦、乳製品、肉など)を自前で確保することは国家安全保障の問題だと考えて行動していると感じます。特にヨーロッパはアメリカや南米やオーストラリアのような広大な土地があるわけではないので、自由競争をすれば不利です。従って農畜産物に関税をかけ、また多大な補助金を農業・畜産業に出して、70%以上の食料自給率を維持しています(フランスは100%超)。食料自給率が40%程度しかない日本とは、国家の運営方針がだいぶ違うのです。
このようなEUにしてみると、穀物生産の根幹のところが一握りのバイオメジャーに「支配」されることは何としても避けたいのだと思います。
GM作物の問題は、安全性よりも、企業の食料に対する影響力の問題の方がよほど大きいと感じます。
企業活動と基本食料
モンサント社は企業としての当然の行動をしていると考えられます。GM作物に対する懸念やマイナス面はあるが、GM作物が世界の食料増産に役立つこともまた事実です。それは農薬がない農業が(一般的には)考えられないのと似ています。特許で農民を縛るのも、そうしないと膨大な研究費を捻出(回収)できないからでしょう。CDやDVD、各種メディアの違法コピー・販売を野放しにしておくと、音楽産業や映画産業は成り立ちません。政府に対する影響力の行使やロビー活動もバイオメジャーだけの話ではありません。
要するにGM作物の種子は最先端技術で作り出された商品なのです。それは「商品」という観点だけからするとスマートフォンと変わらない。アップルが(今の形の)スマートフォンという概念を作り出し、サムスン電子が最速でそれに追従した。アップルとサムスンは、スマートフォン市場を独占したい、ないしは2社の寡占状態を維持したいと思っていることでしょう。それは、GM作物を研究・開発するバイオメジャーの独占状態と同じです。
しかし、そもそもスマートフォンと大豆を同列に考えてよいのかという問題があるわけです。
企業は3ヶ月から1年の「短期の業績」を最大重要指標として行動します(行動せざるを得ない)。それが株価・時価総額をあげることにつながる。増収・増益が数年間続くと、今年も減益には絶対したくないと経営者は考えるでしょう。
そう行動せざるを得ない企業に、穀物という人間の生存にとって必須で、健康に直結するものを任せていいとは思えません。企業の利益と社会の利益の乖離が激しくなるのは必定です。GM作物については、政府の強力な規制と認可のガイドラインの厳格化、国民への情報開示がなによりも重要だと思います。
 補記  |
米国における初めての「遺伝子組み換え表示法」が成立したようです。
|
これが米国における今後の流れを作るのか、それともバーモント州という小さな州(人口は米国の州で49位)だから可能になったことなのかは分かりません。しかしナショナル・ブランドの食品は、2016年7月以降は表示をしないとバーモント州では売れなくなることは確かだと思います。今後、注視したいと思います。
2013-12-20 19:45
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