No.102 - 遺伝子組み換え作物のインパクト(1) [社会]
No.100「ローマのコカ・コーラ」の最後の方に、
との主旨を書きました。今回はその遺伝子組み換え作物について、それがどういうインパクトを社会に与えている(今後与える)のかを書いてみたいと思います。以下、「遺伝子組み換え」という意味で、GM作物、GM大豆、GM食品(=GM作物を原料とする食品)などと記述します。GMは、genetically modificated(遺伝的に改変された)の略です。
GM作物の現状
GM作物は「アメリカ発」の農産物なのですが、我々日本人にとって無関心ではいられません。というのも、一人当たりのGM食品摂取量が一番多いのは日本人だと考えられているからです。東京大学大学院の鈴木宣弘教授が書いた『食の戦争』(文春新書。2013)から引用します(下線は原文にはありません)。
GM作物は「アメリカ発」であるにもかかわらず、なぜアメリカでなく日本がGM食品摂取量が一番多い(と推定される)のか。その間接的な理由は、
では、日本人が直接摂取するGM大豆はどうなるのかという問題が出てくるわけです。納豆、味噌、大豆加工品である豆腐、醤油などです。GM作物は日本人にとって無関心ではいられないと書いたのは、こういう事情があります。
現代日本でGM作物の「流通状況」と「GM表示義務」について、鈴木教授の本から引用します。
最後の方に下線をつけた部分などは、とくに注視すべきでしょう。
この問題を考えるためには、そもそもGM作物とはどういうものか、それがどういう問題をはらんでいるのかを理解しておく必要があります。それを、世界最大のGM種子メーカーである米国・モンサント社の「除草剤・ラウンドアップと、それに耐性をもつGM作物(特に大豆)」について見ていきたいと思います。除草剤の「ラウンドアップ」は製造・販売元であるモンサント社の商品名であり、その主成分は「グリホサート」という化学物質です。
除草剤・グリホサート
農薬として使用される除草剤にはさまざまな種類がありますが、1970年に米国のモンサント社が開発した「グリホサート」という化学物質があります。これは除草剤(草を枯らす)というより「除植物剤」とでも言うべきで、全ての植物を枯らす薬品です。
植物には、植物だけにあるEPSPS(5 - エノールピルビルシキミ酸 - 3 - リン酸合成酵素。5-Enolpyruvylshikimate-3-phosphate synthase)という酵素があり、これは植物の生育に必須の3つのアミノ酸(トリプトファン、フェニルアラニン、チロシン)を作るのに不可欠な酵素(の一つ)です。グリホサートはEPSPSの酵素としての働きを阻害します。グリホサートを葉にかけると植物はその日のうちに成長が止まり、1~2週間で枯れてしまいます。
グリホサートの除草剤としての特徴は以下の3点です。
毒性と残留性が少ないのは明らかなメリットです。しかし全ての植物を枯らすということは、グリホサートの使用に制限がつくことになります。
グリホサートが使えるのは、基本的に作物の芽が出る前です。春に土地を耕し、作物の種を蒔く。そして作物の芽が出る前に生えてきた雑草に対し、グリホサートをあたり一面に散布する。すると雑草が枯れ、そのあとに作物の芽が出ることになります。
しかし作物が成長した後に生えてくる雑草にこの手は使えません。使うとしたら、畑に「分け入って」雑草だけに散布する必要があります。全ての植物を枯らすので「あたり一面に散布する」ことは出来ないのです。従って農家としては、他の除草剤も併用したり、人手で雑草を取ったりして「雑草管理」をすることになります。そもそも春に土地を耕すのも、雑草の種子を地中深く追いやり、発芽させないようにするため(が一つの目的)です。
ところが、モンサント社(本社:米国・ミズーリ州)は「GM作物」作り出すことによって、この状況を一変させました。
モンサント社の「グリホサート耐性作物」
もともとモンサント社は農薬会社です。グリホサートを主成分とする除草剤も「ラウンドアップ」という商品名で売り出していました。
このモンサント社がグリホサート耐性(グリホサートを散布しても枯れない)大豆を作り出したのです。モンサント社は1996年に、その大豆の種子を「ラウンドアップ・レディー」という商品名で発売開始しました。その後、綿、ナタネ、トウモロコシも発売しました。
グリホサート耐性をもつ大豆の開発には、モンサント社の長期に渡る研究があったようです。その様子を「日経サイエンス」から引用します。
「日経サイエンス」によると、モンサント社がこの開発にかけた費用は70万人・時とあります(モンサント社の発表)。どのくらいの金額かは書いてありませんが、個人的に推定してみると、1人・時を日本円で1万円と置くと、70億円という金額になります。これ以外に研究設備の費用がかかっているはずです。
「日経サイエンス」の記事にあるように、グリホサート耐性をもつ大豆を作り出すためには、
の、2つのステップが必要です。しかし、この2つともアテがあってできるものではないでしょう。(当時としては)ギャンブルとも思える研究・開発に(人件費だけで)70億円というオーダーの投資したわけです。ということは、モンサント社はグリホサート以外の除草剤に対する耐性遺伝子も探索・研究したと考えるのが自然です。「グリホサート決め打ち」で研究して失敗すると大きな損失が出るからです。たまたまヒットしたのがグリホサートだったのではないでしょうか。そして、後でも書きますが、他の除草剤に対する耐性遺伝子の探索は、現在も続いています。
グリホサート耐性大豆と除草剤・グリホサートの組み合わせは、農業の「雑草管理」の方法を一変させました。農家としては、除草するためにはとにかくグリホサートを散布すればよい。作物の芽が出る前でも、作物の生育中でも、です。しかも雑草と作物の両方に散布すると雑草だけが枯れる。これは、あたり一面に、たとえば飛行機からグリホサートを散布するというような手法が大々的に使えることを意味します。
農家の「雑草管理」の手間は圧倒的に少なくなり、農業のコストが削減されます。春先に畑を掘り返して雑草の発芽を防ぐ手間もいらなくなる。人が畑に分け入って雑草をとるような作業も皆無になる。しかも大規模農業ほどコスト削減効果が顕著になるはずです。また、明らかに大豆の増産効果があります。
しかし問題点もあります。グリホサート耐性大豆(商品名:ラウンドアップ・レディー)と、除草剤・グリホサート(商品名:ラウンドアップ)の組み合わせは「単一農薬の広範囲使用」に農業を誘導し、それが弊害を引き起こすことがあるのです。
スーパー雑草の拡大
単一農薬の広範囲使用で引き起こされる問題は「ラウンドアップに耐性をもつ雑草」つまりラウンドアップを散布しても枯れない雑草の出現です。
「日経サイエンス」2011年8月号に「はびこる農薬耐性雑草」という記事が掲載されまた。アメリカのサイエンス・ライターで元News Week編集長の J.アドラー氏が書いた記事です。この記事では、ラウンドアップ(有効成分:グリホサート)に耐性を持つ雑草を「スーパー雑草」と呼んでいて、アメリカでの状況が報告されています。
米国で作られているGM作物は、トウモロコシ、大豆、綿が主なものですが、これらの畑すべてにスーパー雑草は進出しているようです。
農業を効率化しコストを削減するはずの「除草剤・ラウンドアップと、ラウンドアップに耐性をもつGM作物」という組み合わせが、スーパー雑草の出現によって、本来の目的とは逆に農家の利益を圧迫する結果を招いているわけです。
雑草はどうやってラウンドアップ(グリホサート)から逃れるように進化したのでしょうか。そのメカニズムの一つが「日経サイエンス」に次のように解説されています(説明図参照)。
前の方で説明したように、グリホサートは全ての植物がもつEPSPS酵素の働きを阻害します。EPSPS酵素は植物の成長には欠かせないものなので、グリホサートを散布された植物は枯れてしまいます。
ところがスーパー雑草のDNAを調べると、EPSPS酵素を作り出す指令となっている「EPSPS遺伝子」の数が、普通の雑草の5~160倍もあります。つまり、グリホサートの阻害効果を打ち消してしまうほどの大量のEPSPS酵素を植物内に作り出して生き残るのです。
「日経サイエンス」の解説を読んで思うのですが、この雑草の生き残りメカニズムだと、グリホサートを通常使用量以上に大量に何回も散布すれば、スーパー雑草も枯れる(ものが出てくる)のではないでしょうか。ますます農薬使用量が増えるのではと想像します。いくらグリホサートの毒性が少ないと言っても、使用量が増加して「不適切使用」になるとメリットは無意味になってしまうのではと思います。
抗生物質を投与されても生き残る耐性菌と同じように、除草剤に耐性を持つ雑草の出現(進化)は以前から知られていました。スーパー雑草は別にラウンドアップに限ったことではありません。
しかし「ラウンドアップという単一の除草剤を、広範囲に使う農業」が、スーパー雑草の出現を助長(加速)していることは容易に想像できます。つまり、GM作物が植えられた広大な畑は、雑草の進化にとっての格好の実験場になっているということだと思います。
抗生物質にも耐性菌が出現しますが、抗生物質は人間の病気を治癒したり、人間の命を救う目的で開発されたものです。一方、GM作物は農業の効率化を狙っています。ふたつの目的はかなり違います。同じレベルで考えたり議論したりはできないでしょう。
モンサント社は、当然のことながらスーパー雑草(グリホサート耐性雑草)の出現(拡大)を予測していたはずです。農薬耐性雑草の出現は業界では常識だからです。何らかの対応策が必要ですが、除草剤はグリホサートはだけではありません。「日経サイエンス」にも、モンサント社が他の除草剤に対する耐性を持ったGM作物を売り出す計画だと書かれていました。GM作物の研究・開発には多大な資金が必要ですが、そのリターンも大きい。モンサント社にとって「折り込み済み」のスーパー雑草の出現・拡大は、また新たなビジネスチャンスをもたらすというわけです。
食料が企業に独占されると問題になる。その例が遺伝子組み換え作物(GM作物。大豆、とうもろこし、など) |
との主旨を書きました。今回はその遺伝子組み換え作物について、それがどういうインパクトを社会に与えている(今後与える)のかを書いてみたいと思います。以下、「遺伝子組み換え」という意味で、GM作物、GM大豆、GM食品(=GM作物を原料とする食品)などと記述します。GMは、genetically modificated(遺伝的に改変された)の略です。
GM作物の現状
GM作物は「アメリカ発」の農産物なのですが、我々日本人にとって無関心ではいられません。というのも、一人当たりのGM食品摂取量が一番多いのは日本人だと考えられているからです。東京大学大学院の鈴木宣弘教授が書いた『食の戦争』(文春新書。2013)から引用します(下線は原文にはありません)。
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GM作物は「アメリカ発」であるにもかかわらず、なぜアメリカでなく日本がGM食品摂取量が一番多い(と推定される)のか。その間接的な理由は、
アメリカで(および世界中で)「GM小麦」の栽培がされていない(認可されていない)からです。アメリカは、主食の(=人間が直接摂取する)小麦についてはGM小麦を作らないという方針を貫いているのです。反対論が強いからです。 |
では、日本人が直接摂取するGM大豆はどうなるのかという問題が出てくるわけです。納豆、味噌、大豆加工品である豆腐、醤油などです。GM作物は日本人にとって無関心ではいられないと書いたのは、こういう事情があります。
現代日本でGM作物の「流通状況」と「GM表示義務」について、鈴木教授の本から引用します。
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遺伝子組み換え作物の
2012年で栽培面積は1億7000万ヘクタールに急増し、栽培国は28カ国になった。作物は、大豆、トウモロコシ、ワタ、ナタネでほとんどを占める。米国では大豆、トウモロコシの9割がGM種である。日経産業新聞(2013.10.03)より。
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この問題を考えるためには、そもそもGM作物とはどういうものか、それがどういう問題をはらんでいるのかを理解しておく必要があります。それを、世界最大のGM種子メーカーである米国・モンサント社の「除草剤・ラウンドアップと、それに耐性をもつGM作物(特に大豆)」について見ていきたいと思います。除草剤の「ラウンドアップ」は製造・販売元であるモンサント社の商品名であり、その主成分は「グリホサート」という化学物質です。
なお、以下のグリホサートについての説明は『日経サイエンス 2011年8月号』の記事「はびこる農薬耐性雑草」を参考にしました。 |
除草剤・グリホサート
農薬として使用される除草剤にはさまざまな種類がありますが、1970年に米国のモンサント社が開発した「グリホサート」という化学物質があります。これは除草剤(草を枯らす)というより「除植物剤」とでも言うべきで、全ての植物を枯らす薬品です。
植物には、植物だけにあるEPSPS(5 - エノールピルビルシキミ酸 - 3 - リン酸合成酵素。5-Enolpyruvylshikimate-3-phosphate synthase)という酵素があり、これは植物の生育に必須の3つのアミノ酸(トリプトファン、フェニルアラニン、チロシン)を作るのに不可欠な酵素(の一つ)です。グリホサートはEPSPSの酵素としての働きを阻害します。グリホサートを葉にかけると植物はその日のうちに成長が止まり、1~2週間で枯れてしまいます。
グリホサートの除草剤としての特徴は以下の3点です。
◆ |
グリホサートは全ての植物を枯らす。除草剤の中には単子葉植物(イネ科植物など)だけを枯らす(またはその逆)といったものがあるが、グリホサートにそういった性質はない。 | ||
◆ |
葉に直接散布する必要がある。土壌に散布すると除草効果が出るとか、そういったことはない。 | ||
◆ |
人間に対する毒性、植物への残留性が、他の除草剤と比較して少ない。 |
毒性と残留性が少ないのは明らかなメリットです。しかし全ての植物を枯らすということは、グリホサートの使用に制限がつくことになります。
グリホサートが使えるのは、基本的に作物の芽が出る前です。春に土地を耕し、作物の種を蒔く。そして作物の芽が出る前に生えてきた雑草に対し、グリホサートをあたり一面に散布する。すると雑草が枯れ、そのあとに作物の芽が出ることになります。
しかし作物が成長した後に生えてくる雑草にこの手は使えません。使うとしたら、畑に「分け入って」雑草だけに散布する必要があります。全ての植物を枯らすので「あたり一面に散布する」ことは出来ないのです。従って農家としては、他の除草剤も併用したり、人手で雑草を取ったりして「雑草管理」をすることになります。そもそも春に土地を耕すのも、雑草の種子を地中深く追いやり、発芽させないようにするため(が一つの目的)です。
ところが、モンサント社(本社:米国・ミズーリ州)は「GM作物」作り出すことによって、この状況を一変させました。
モンサント社の「グリホサート耐性作物」
もともとモンサント社は農薬会社です。グリホサートを主成分とする除草剤も「ラウンドアップ」という商品名で売り出していました。
このモンサント社がグリホサート耐性(グリホサートを散布しても枯れない)大豆を作り出したのです。モンサント社は1996年に、その大豆の種子を「ラウンドアップ・レディー」という商品名で発売開始しました。その後、綿、ナタネ、トウモロコシも発売しました。
グリホサート耐性をもつ大豆の開発には、モンサント社の長期に渡る研究があったようです。その様子を「日経サイエンス」から引用します。
|
「日経サイエンス」によると、モンサント社がこの開発にかけた費用は70万人・時とあります(モンサント社の発表)。どのくらいの金額かは書いてありませんが、個人的に推定してみると、1人・時を日本円で1万円と置くと、70億円という金額になります。これ以外に研究設備の費用がかかっているはずです。
「日経サイエンス」の記事にあるように、グリホサート耐性をもつ大豆を作り出すためには、
① |
グリホサート耐性をもつ「突然変異体の生物」を自然界の中から探し出す。 | ||
② |
その遺伝子を大豆に組み込んで、大豆として正常に生育し、グリホサート耐性をもち、かつその耐性が子孫に遺伝する「GM大豆」を作り出す。 |
の、2つのステップが必要です。しかし、この2つともアテがあってできるものではないでしょう。(当時としては)ギャンブルとも思える研究・開発に(人件費だけで)70億円というオーダーの投資したわけです。ということは、モンサント社はグリホサート以外の除草剤に対する耐性遺伝子も探索・研究したと考えるのが自然です。「グリホサート決め打ち」で研究して失敗すると大きな損失が出るからです。たまたまヒットしたのがグリホサートだったのではないでしょうか。そして、後でも書きますが、他の除草剤に対する耐性遺伝子の探索は、現在も続いています。
グリホサート耐性大豆と除草剤・グリホサートの組み合わせは、農業の「雑草管理」の方法を一変させました。農家としては、除草するためにはとにかくグリホサートを散布すればよい。作物の芽が出る前でも、作物の生育中でも、です。しかも雑草と作物の両方に散布すると雑草だけが枯れる。これは、あたり一面に、たとえば飛行機からグリホサートを散布するというような手法が大々的に使えることを意味します。
農家の「雑草管理」の手間は圧倒的に少なくなり、農業のコストが削減されます。春先に畑を掘り返して雑草の発芽を防ぐ手間もいらなくなる。人が畑に分け入って雑草をとるような作業も皆無になる。しかも大規模農業ほどコスト削減効果が顕著になるはずです。また、明らかに大豆の増産効果があります。
しかし問題点もあります。グリホサート耐性大豆(商品名:ラウンドアップ・レディー)と、除草剤・グリホサート(商品名:ラウンドアップ)の組み合わせは「単一農薬の広範囲使用」に農業を誘導し、それが弊害を引き起こすことがあるのです。
スーパー雑草の拡大
単一農薬の広範囲使用で引き起こされる問題は「ラウンドアップに耐性をもつ雑草」つまりラウンドアップを散布しても枯れない雑草の出現です。
「日経サイエンス」2011年8月号に「はびこる農薬耐性雑草」という記事が掲載されまた。アメリカのサイエンス・ライターで元News Week編集長の J.アドラー氏が書いた記事です。この記事では、ラウンドアップ(有効成分:グリホサート)に耐性を持つ雑草を「スーパー雑草」と呼んでいて、アメリカでの状況が報告されています。
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米国で作られているGM作物は、トウモロコシ、大豆、綿が主なものですが、これらの畑すべてにスーパー雑草は進出しているようです。
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農業を効率化しコストを削減するはずの「除草剤・ラウンドアップと、ラウンドアップに耐性をもつGM作物」という組み合わせが、スーパー雑草の出現によって、本来の目的とは逆に農家の利益を圧迫する結果を招いているわけです。
雑草はどうやってラウンドアップ(グリホサート)から逃れるように進化したのでしょうか。そのメカニズムの一つが「日経サイエンス」に次のように解説されています(説明図参照)。
雑草がグリホサートから逃れる戦略
通常の雑草(a)は、グリホサートによってEPSPS酵素を阻害され、枯れる。しかしスーパー雑草(b)は、EPSPS遺伝子が大量に複製されている。この結果、グリホサートが阻害し切れないほどたくさんのEPSPS酵素が作り出される。
(日経サイエンス 2011.08 より)
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前の方で説明したように、グリホサートは全ての植物がもつEPSPS酵素の働きを阻害します。EPSPS酵素は植物の成長には欠かせないものなので、グリホサートを散布された植物は枯れてしまいます。
ところがスーパー雑草のDNAを調べると、EPSPS酵素を作り出す指令となっている「EPSPS遺伝子」の数が、普通の雑草の5~160倍もあります。つまり、グリホサートの阻害効果を打ち消してしまうほどの大量のEPSPS酵素を植物内に作り出して生き残るのです。
「日経サイエンス」の解説を読んで思うのですが、この雑草の生き残りメカニズムだと、グリホサートを通常使用量以上に大量に何回も散布すれば、スーパー雑草も枯れる(ものが出てくる)のではないでしょうか。ますます農薬使用量が増えるのではと想像します。いくらグリホサートの毒性が少ないと言っても、使用量が増加して「不適切使用」になるとメリットは無意味になってしまうのではと思います。
抗生物質を投与されても生き残る耐性菌と同じように、除草剤に耐性を持つ雑草の出現(進化)は以前から知られていました。スーパー雑草は別にラウンドアップに限ったことではありません。
しかし「ラウンドアップという単一の除草剤を、広範囲に使う農業」が、スーパー雑草の出現を助長(加速)していることは容易に想像できます。つまり、GM作物が植えられた広大な畑は、雑草の進化にとっての格好の実験場になっているということだと思います。
抗生物質にも耐性菌が出現しますが、抗生物質は人間の病気を治癒したり、人間の命を救う目的で開発されたものです。一方、GM作物は農業の効率化を狙っています。ふたつの目的はかなり違います。同じレベルで考えたり議論したりはできないでしょう。
モンサント社は、当然のことながらスーパー雑草(グリホサート耐性雑草)の出現(拡大)を予測していたはずです。農薬耐性雑草の出現は業界では常識だからです。何らかの対応策が必要ですが、除草剤はグリホサートはだけではありません。「日経サイエンス」にも、モンサント社が他の除草剤に対する耐性を持ったGM作物を売り出す計画だと書かれていました。GM作物の研究・開発には多大な資金が必要ですが、そのリターンも大きい。モンサント社にとって「折り込み済み」のスーパー雑草の出現・拡大は、また新たなビジネスチャンスをもたらすというわけです。
(続く)
2013-12-13 20:04
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