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No.55 - ウォークマン(2)ソニーへの期待 [技術]


ウォークマンはオーディオ機器


前回からの続きです。

前回の最後に書いた、コンピュータとしてのiPodに比較すると、ウォークマンは(DAPを装った)コンピュータではなかった、と言えるでしょう。ウォークマンはオーディオプレーヤーとして発想され、オーディオプレーヤーの音源としてデジタルデータを使い、コンピュータ技術を利用してハードウェアを作った。その「補助ソフト」としてSonicStageがある。

◆A : コンピュータ技術を利用したDAP
◆B : DAPを装ったコンピュータ

この2つが市場で戦ったとしたら、Bが非常に有利です。なぜならコンピュータは「何でも機械」であり、アプリや周辺機器を付加することによって「変身」や「発展」が可能だからです。

コンピュータには制約がありますが、それは本体のハードウェアです。たとえば表示装置の大きさ、液晶か電子ペーパー(アマゾンのキンドルのような)か、タッチパネルがついているかどうか、などです。しかし、その制約の範囲内で発展していける。端的な例は、前回に書いたヤマハのiPod用・無線・アンプ内蔵スピーカーです。考えてみると、ソニーはヤマハ以上の「音響機器メーカー」ですね。DAP用・無線・アンプ内蔵スピーカーというのは、ウォークマン用にソニーが真っ先に作るべき製品のはずです。技術的には十分できる。しかしそうではなかった。それはウォークマンが「DAPを装ったコンピュータ」として発想されていないからだと思います。
NW-MS7.jpg NW-E3.jpg
NW-MS7 (1999)
メモリスティック
DAPウォークマンの最初の製品
NW-E3 (2000)
フラッシュメモリ:64MB
最初のメモリタイプの製品

NW-HD3.jpg NW-A860.jpg
NW-HD3 (2004)
ハードディスク:20GB
MP3に対応した最初の製品
NW-A867(2011-)
フラッシュメモリ:64GB
音質の評価が高い

前回に「CDを開発して音楽をデジタル化した(=情報化した)のは、ほかならぬソニー」と書きました。上記のAとBの発想の違いは、CDについても言えるでしょう。

◆A : CDは、レコードを圧倒的にコンパクトにし、長時間録音が可能・劣化しない・製造コストが安いなどの、多大なメリットを作り出したものである。そのCDを作るために、音楽のデジタル化技術が使われた。
◆B : CDは、デジタル化技術を使って音楽を「情報化」したものである。CDに焼き付けられている音楽は、デジタル情報の一つの姿であって、媒体はメモリーでもディスクでも何でもよい。この「音楽の情報化」が多大なメリットを生み出した。

CDに関してはAとBの両方の見方が可能であり、どっちが正解だということはありません。しかしどちらを中心に据えてモノを見るかによって、製品を企画する発想は違ってくると思います。コンピュータの視点から見ると、CDの本質的な意味は音楽の情報化(B)であり、その認識が基本となって企画されたiPodが市場を席巻したということでしょう。音楽を情報化したということは、一般的に「情報化」の帰結として起こることは遅かれ早かれ全部起こるのであり、事実そうなっていったのです。

前に「iPodはソニーが作るべき製品だった」というソニー幹部の発言があったことを書きましたが「ソニーがiPodを作るのは無理だった」というのが私の考えです。ウォークマン(1999 - )は iPod(2001 - )より2年も先行しています(ちなみに音楽配信もソニーが先行しました。1999年の bit music です。これは2年どころかiTunes Music Storeより4年も早い)。しかし、製品を企画する技術発想がそもそも違った。その端的な象徴がMP3をサポートしない(発売開始以来5年間の)ウォークマンだったのでしょう。



以上、ソニーの悪口ともとれる文章を書きましたが、それは(ひと昔前の)DAPウォークマンの話であって、ソニー製品全般ということでは決してありません。それどころか、私は今後のソニーに大きな期待を持っています。それも書かないとフェアじゃないと思うので、以降はそれについてです。


ソニーへの期待


ソニーは最近ヒット商品がないと言われます。平面トリニトロンTV(WEGA)以来ないと・・・・・・。

確かにその通りですが、しかし、日本では一時撤退した電子書籍リーダーのジャンルにアメリカで参入し、アマゾンについで2位のシェアを持っているような例もあります(日本では2010年12月に再参入)。ミノルタを買収して強化したカメラ事業も、ミラーレス機などで元気です。商用の有機ELテレビを世界で初めて出したのもソニーです。一般消費者用のデジタル家電ばかりがうんぬんされますが、放送局用や映画製作用のデジタル機器の分野ではソニーがPanasonicと世界市場を2分していて、この2社の独壇場です。

2012年4月に社長・兼CEOになった平井氏の大きなミッションは、長年の懸案になっている「テレビ事業の建て直し」だと報道されていました。おそらくTV事業のリストラが進められ、事業規模を縮小し、コモディティ化したTVビジネスからは距離を置くことが予想されます。そのテレビなのですが、私自身は、従来のTVとは一線を画した付加価値の高い「次世代TV」についてソニーに大いに期待しているのです。なぜ期待するのか、その理由をちょっと詳しく述べたいと思います。


次世代TVのイメージ


「次世代TV」がどういうものか、その選択肢は多くはないと思います。ロジカルに考えると、答えはほぼ一つに集約されるのではないでしょうか。

TV放送受信ができ、オーディオ・ビジュアル・コンテンツが視聴でき、スマートフォンやゲーム機と完全に連動して使える、リビングルーム用の固定設置型PC。

というイメージです。次世代TVはPC(コンピュータ)の一種であり「TVを装ったコンピュータ」だと考えているので、前回のコンピュータの定義に従ってインターネット接続が前提です。またホーム・ユースなので、1秒程度で起動できることも大前提です。

企業用ではない一般消費者が個人や家族で使うコンピュータをPCと定義すると、PCは次のような階層になるでしょう。長さは人間とPC画面との、おおよその距離です。

モバイル(ポケットサイズ)20-40cm
  スマートフォン、ゲーム機
モバイル(カバンサイズ)30-50cm
  タブレット、ウルトラブック
モバイル・デスクトップ兼用40-60cm
  ノートPC
固定設置(デスクトップ)40-70cm
  デスクトップPC
固定設置(リビングルーム)200-300cm

このうち「リビングルーム用・人間との距離が2-3m・複数人が同時使用することもある、固定設置PC」が次世代TVである、と定義できると思います。これは、今言われている「スマートTV」に近いのですが、そう言ってしまうと「賢いTV」「コンピュータ技術を利用したTV」と誤解されそうです。あくまで「TVに見せかけたPC」という意味をこめて「次世代TV」と言うことにします。

次世代TVの典型的な機器イメージを考えると以下のようになるはずです。まずテレビ本体は STB(Set Top Box。チューナーを内蔵した箱型のTV本体)と、それに有線接続されたフラットパネル・ディスプレイ(FPD)で構成されます。STBとFPDの一体型もあるし、逆に無線接続もあるでしょう(そういう製品はすでに出ています。シャープのスタイルフリーなど)。テレビは室内に設置されるのが基本であり、画面と人間の距離は数メートルです。この前提条件において、次世代TVのハードウェア・ソフトウェアは次のような要素から構成されるでしょう。

 ①高精細大画面ディスプレイ 

液晶、プラズマ、有機ELなどのFPDで、室内設置にフィットした大画面・高精度のものです。上位機種は4Kや3Dになるでしょう。放送やビジュアル・コンテンツなどの視聴をはじめ、TV電話などの用途が考えられます。ちなみにTV電話は、企業ではテレ・コンファレンスとして既に広く普及しています。

他の製品にないTVの特徴は、何といっても各社が競ってい動画の美しさ、画質の良さ、いわゆる「絵作り」です。これを実現する「高速画像処理エンジン(マイクロ・プロセッサ)」と、それを制御するソフトウェアが重要な要素になります。ちなみにソニーは、東芝、IBMと共同で「Cell」と呼ばれる超高性能のマイクロ・プロセッサを開発し、Play Station 3 (PS3) に搭載しています。しかしCellをTVに搭載したのは東芝だけのようです(Cell REGZA)。こういった次世代TVに向けた「超重要技術」をソニーはどう考えているのでしょうか。

 ②高性能スピーカーと、それを支える音響システム 

数メートルという人間との距離が有効に生かせるハードウェアはスピーカーです。次世代TVのSTBには(デスクトップPCよりは)高性能なスピーカーが搭載され、音源データを再生できる音響システムが内蔵されるでしょう。ちょうどそれは、スマートフォンがデジタル・オーディオ・プレーヤーを取り込んでしまったのと同じ経緯をたどるはずです。また、次世代TVの周辺機器としてアンプ内蔵型の高性能スピーカー(サラウンドシステム)を外部接続し、さらに高品質の音響を楽しむことも可能になるでしょう。

 ③大量データを蓄積可能なストレージ 

現在、数テラバイトの大容量のデータを蓄積できる一般的な家庭用機器はテレビ周辺機器であるレコーダ(BD録再機)です。この特徴は次世代TVに引き継がれ、録画した放送データ、個人が所有する音源データを蓄積します。ストレージは増設が可能で、必要ならインターネットを介してクラウド上のストレージとも連動します。

 ④リビングルーム設置に特化したセンサー 

リビングルームに設置、大型画面、人間との距離が2~3メートルというテレビに最も適したセンサーは画像センサー(カメラ)だと思います。しかもテレビの大きさからいって、水平に離して2個のセンサーをつけられる。これは画像処理技術によって立体認識ができることを意味します。なお、ソニーは日本有数の画像センサーの開発・製造会社です。確か、iPhone 4S の画像センサー(800万画素)はソニー製です。

マイクロソフトはゲーム機(XBox)用に、人の動きをリアルタイムにとらえるキネクトというデバイス(いわゆるモーションキャプチャ技術)を開発しましたが、これは装置から赤外線を照射するタイプです。この簡易版が可視光の画像認識だけで出来るはずです。モーションキャプチャ技術を使うと「身ぶり手ぶり」でTVを操作することもできるでしょう。

また、音センサー(マイク)も必須でしょう。TVだけではないのですが、音声認識によって家電を操作するのが今後のトレンドだと思われます。さらに「人感センサー」も次世代TVに搭載する有力候補です。

 ⑤インターネット接続の内蔵 

次世代TVはPC(=コンピュータ)の一種なので、前回のコンピュータの定義に従ってインターネット接続が前提です。インターネットの背後にはクラウドがあり、VODなどの各種サービス(現在のアクトビラのような)が提供されます。もちろん、情報検索やSNSなどの一般的なインターネットサービスが利用できます。ただし、大画面・複数人同時視聴といったTVの特性が生かせる利用シーンが前提です。家庭からインターネットに接続するやり方はいくつか考えられますが、TV自体にその仕組みを内包し、利用者からは隠蔽してしまうのが基本だと思います。

 ⑥スマートフォン(タブレット)、ゲーム機との高速通信 

リビングルームにおいて、固定設置型のPC = 次世代TVと共存できる(共存して最も価値が高い)PCは、モバイル機であるスマートフォン(ないしはタブレット)、ゲーム機です。次世代TVはこれらと室内で一体として扱えるのが必須だと思います。そのためには無線LANやブルートゥースなどの、近距離高速無線通信が必要です。


次世代TVでできること


以上のような次世代TVのイメージを前提にして、「できること」「あってほしい機能」は以下のようになるでしょう。

まず蓄積型TV放送視聴です。つまり時間を選ばない(タイム・フリー)、視聴場所も家庭に限定されない(ロケーション・フリー)というTV視聴です。1週間分の数チャネルの番組を全部録画可能なTVはすでに発売されています。また蓄積した番組コンテンツをスマートフォンで(例えば通勤途中に)視聴したいわけですが、ソニーは2000年から「ロケーション・フリー」という製品を発売しました(当初は別名。その後、販売を中止)。これは次世代につながる重要技術だと思います。

もちろんTV放送だけでなくコンテンツ視聴も重要で、BD/DVDの映像ソフト(映画、その他)や、VOD(Video On Demand)、インターネット上の動画サイトの視聴などです。現在、VODは「アクトビラ」や「もっとTV」などで実現されていますが、そもそもアクトビラの映像情報はMPEG2という圧縮技術を使ったデジタルデータであり、これは地デジと同じです。放送とVODの技術的境界は非常に小さいのです。

大容量ストレージと高性能スピーカーによるオーディオ装置としての活用も是非やりたいことです。モバイル機器としてのオーディオ機器はスマーフォンが主流なので、スマホとの連動も可能にしたい。スマホの音楽を無線で次世代TVで聞くというスタイルです。さらにサラウンドシステムを接続して高級オーディオ装置に「変身」させられることも、室内設置機器として重要です。

スマートフォン(ないしはタブレット)やゲーム機との、無線によるシームレスな連動も次世代TVの重要機能になるはずです。スマートフォンとの連動で言うと、リビングルームにおいては「スマホをTVのリモコンにする」「スマホで見ているインターネット画面をTVに切り替えて見る(大画面が欲しいもの・複数人の同時視聴がしたいもの)」「TVの音声を消してスマホのヘッドフォンで聞く」などです。また外出先でスマートフォンを使って「番組録画予約」「ロケーション・フリー(自宅で録画した番組の視聴)」「自宅の室内の様子を見る(TVの画像センサを利用)」などの機能が欲しいところです。

次世代TVの最大の特徴は「アプリによる機能実現」という、コンピュータとしての根幹機能の実装でしょう。

次世代TVの基本機能を実現するのは「放送受信アプリ」「メディアプレーヤー・アプリ」「オーディオプレーヤー・アプリ」です。もちろんこれらのものはTVメーカーが標準的なものを作るわけですが、第三者が(許容される範囲で)作ってもいいわけです。地デジのデータ放送の部分とインターネットからの情報をうまく使えばもっと有益な「放送」になるのに、と思うことが多々あります。朝起きてから出勤までテレビをつけっぱなしにしている人は多いと思いますが。たとえば「出勤前アプリ」というのがあって「指定地域(自宅・勤務先)のその日のピンポイント気象情報」と「指定した交通路線の運行情報」を画面に一発で(常時)出すというのをやって欲しい。

番組表アプリ」も必要です。スマートフォンと連動して、家庭内・家庭外から録画予約をしたい。このときインターネット・ショッピングで一般的な「レコメンデーション」が有望です。過去の視聴・録画の傾向、登録したキーワード(俳優や歌手の名前、観光地など)、「この番組を録画予約した人はこれも予約しています」方式のリコメンデーションがあってもよい。

スマートフォンと連動した「リモコンアプリ」も是非欲しいものです。とにかく今のリモコンはフル機能をハード的に実現するのに近く、使いにくい。リモコンアプリで簡易・普通・高級の切り替えてができてもよいと思います。

画像通信と音声通信を併用した「TV電話アプリ」も有望でしょう。また当然ですが「ゲーム・アプリ」も有力です。入力機器はスマートフォンかゲーム機で、TV内蔵のカメラの活用し、かつ大画面を生かした複数人の参加型ゲームが考えられるでしょう。TVサイドの画像認識を生かしたゲームもいろいろ考えられます。

メディアプレーヤー・アプリの変形ですが「カラオケ・アプリ」も次世代TVで欲しい人が多いでしょう。インターネット接続でカラオケ用のコンテンツを取り込むことは、専用カラオケ装置で随分前から実現されています。

ゲーム・アプリの変形で「エクササイズ・アプリ」も大いにありうる。家庭用のエクササイズ・マシンを接続するような本格的なものから、TVの画像センサー(カメラ)だけを利用するものまで、多様な形が考えられます。

 アプリの例:バーチャル試着 

画像処理アプリ」もいろいろ考えられます。たとえばTV内蔵の立体視カメラを使った「バーチャル試着」が動画で可能になるでしょう。服のデータはインターネットで送り込めばよい。静止画でバーチャル試着をするパソコン・ソフトは今でもありますが、TVの画像処理力を生かせば動画で十分可能だと思います。

服の通販(インターネット・TV・カタログ)の最大の問題は、サイズへの不安です。またプロのモデルではなく自分が着てみたときの全体感は、意外と分かりにくいものです。「インターネットで購入された服の30-60%は返品されている」という記事を読んだことがあります。サイズの不安から違うサイズを2~3着購入し、最もフィットしたものを残して返品する客もいるのではないでしょうか。

次世代TVの「バーチャル試着」では、自分の身長を指定することによって、服のサイズを変えて試着したり、自分の部屋という良く知った環境において服を着てみて「全身の感じ」を把握できることになります。オンライン通販の革新が起きると思います。また、このような「バーチャル試着」は服でなくても、メガネでもカツラでも良いわけです。とにかく「試着してみることが購入のキーとなり、それなりに高価な商品」です。



重要なことは、こういったアプリはTVメーカーが作る必要はないということです。アプリを作る「土台」をプラットフォーム(ハードウェア + 基本ソフトウェア)と呼ぶとすると、良いプラットフォームを提供し、アプリ開発用ツールを無償配布すれば、世界中のノウハウや技術のある人がアプリを作ってくれるということなのです。

ここまで書いた「次世代TV」は、いわばフル・バージョンであり、実際は最上位機から廉価版までがシリーズ化されるという前提です。こうして書いてみると、部分的には既に実現されているものもいろいろあり、また今の技術で十分に実現可能か、手の届くものであることが分かります。段階的に「次世代化」するのかもしれません。


次世代TVとソニー


ソニーの話に戻ります。次世代TVのイメージを長々と書いたのは、ソニーが今後のTVビジネスにおいて極めて有利なポジションにあることを言いたかったからです。ソニーは

パソコン(VAIO)
TV(BRAVIA)とレコーダ(BD録再機)
オーディオ機器
スマートフォン(Xperia)
ゲーム機(Play Station)

の5種のハード・ソフト技術を持っている世界唯一の企業です。さらに

画像センサー、マイクロプロセッサー・Cell

などの次世代TVにとっての重要部品技術がある。しかも

映画会社(SPE)と音楽会社(SME)

まで持っています。膨大な映像・音楽コンテンツを保有しているということです。ここまでのエレクトロニクス企業は他にありません。加えて

SONYというブランド

がある。これは金銭には代えられないでしょう。さらに補足すると、ソニーは、もともとミノルタのカメラ部門を買収した1眼レフ・カメラメーカでもあり、高度な光学技術まで保有しています。HMD(ヘッド・マウント・ディスプレイ)で3Dコンテンツを視聴するといったケース(すでにソニーは製品化しています。HMZ-T1)では光学技術が生きると思います。

もっと言うと、ソニーには

iPodでアップルにしてやられたという苦い思い出

があるはずです。ソニーがやるべきことをアップルがやってしまった。「自分たちがやるべきことをアップルがやってしまったと真底思っている世界唯一の企業」がソニー(のはず)です。次世代TVにおいては「iPod事件」の反省をもとに、絶対に負けないという強い意志があるのではないでしょうか(そうだと期待します)。

ソニーに無いのは、次世代TVの核となる基本ソフトウェア(TV用OS)です。これは Google と共同開発することもできるし、オープンソースのLinuxをベースに、OS開発能力がある日本のIT企業と共同開発することも可能でしょう。GoogleのAndroidがTV用OSの解ではないと思います。2010年にソニーはのAndroidを搭載した「グーグルTV」をアメリカで発売しましたが、あまり売れていません。TV用OSは非常に重要です。どこまで将来を見通して基本ソフトウェアを構築できるかが、TV事業の今後を左右すると思います。

①から⑦はソニーが次世代TV(=リビング・ルームに固定設置する、TVを装ったPC)に最も近い企業だという理由なのですが、問題は①から⑦を会社として結集できるかでしょう。カリスマ経営者はすでにありません。大企業となったソニーが、はたして事業部門の枠を越えて「TVに関しては、ワン・ソニー」になれるかどうか。そういうリーダシップを発揮できる人がいるかどうかです。①から⑦までがあることはヘタをすると弱みになる。各事業の最適を求めることが足枷になって革新を阻害しかねません。次世代TVはコンピュータの一種だと定義しましたが、たとえばVAIO(パソコン)ないしはXperia(スマートフォン)の部隊が中核的存在となり、各事業部門を結集して次世代TVが開発できるかどうか。そういう問題だと思います。アップルが次世代TVを企画・開発するときには、パソコンとスマートフォンを熟知した人間、技術面とビジネス面の両方を知り尽くしたプロフェッショナルが中心になるはずです。ソニーが「コンピュータ技術を利用したTV」を作ったとしたら勝ち目はないと思います。


AIBOは最後のモルモットか


AIBO ERS-7.jpg
AIBO ERS-7
AIBOの後期モデル・ERS-7シリーズ。無線LANモジュールを標準搭載している。
AIBOが販売された期間は1999年6月から2006年3月までの約7年間である。AIBOの(販売)寿命は本物の犬よりも短命に終わってしまった。
AIBO(犬型ロボット)というエンターテインメント・ロボットは、ソニーらしい製品だと思っていました。写真を掲げたAIBO ERS-7は、7年以上前の製品であるにもかかわらず無線LANモジュールを標準搭載しています。インターネットを経由してスマートフォンから遠隔操作するようなことをすれば面白いと思うのですが、残念ながらソニーは撤退してしまいました。儲けにはならないことはやらないという方針転換なのでしょう。方針転換だと思うのは、そもそも「儲けにならなくてもやる」という意志決定がないとAIBOは商品化できなかったはずだからです。

ソニーと並んで戦後日本の代表的な企業であるホンダは、2足歩行型ロボット・ASIMO を続けています。儲けには全くなっていないと思いますが、ホンダは撤退しないでしょう。「人がやらないことをやる」というホンダの象徴だからです。その精神はソニーも同じだったはずです。ちなみにこの2社はカリスマ技術者である創業者がゼロから作り上げた企業ということも似ています。

余談ですが、ホンダはビジネス・ジェット機まで作っていますね。1986年より研究を開始し、デリバリ予定は2013年だとホンダのホームページに載っています。このジェットエンジンは自前のものであり、確か1990年代初頭からゼロベースで研究・開発してきたはずです。もちろん機体もホンダの独自開発です。「一文の売上げにもならない投資を27年間も続ける」という企業姿勢は大したものだと思います。

AIBO や ASIMO の開発がなぜ重要かと言うと、ロボットの研究は人工知能の研究と密接な関係にあるからです。その人工知能の研究は「人間と機械のインターフェースのあるべき姿」に直結します。それはクルマとデジタル家電の将来に共通した研究課題です。しかも高齢化社会の進展に従って家電を音声(自然言語)や身振りで操作することは増々重要になってきます。それはデジタル家電だけでなく白物家電でも必須です。AIBO の AI は Artifitial Intelligence で「人工知能」という意味ですね。AIBO はこの分野で(かつホームユースで)業界の主導権を握ろうという戦略製品に見えたのですが、そうでもなかったようです。

しかし将来に向けた戦略的研究課題という以上に、AIBOのような製品を「商品化すること」ないしは「撤退すること」は、そのこと自体が社会に対してメッセージを発していると思うのです。

ソニーの経営者がこの10数年に発してきたメッセージを振り返ってみると、特に出井社長の登場以降ですが、

 ◆デジタル・ドリーム・キッズ
 ◆ハードとソフトの両輪
 ◆ネットワークとコンテンツの重視
 ◆ソニー・ユナイテッド

などが印象に残っています。この通りの言い方だったかどうかはうろ覚えですが、そういう意味のことがトップからあったのは確かだと思います。しかしこれらのメッセージは、全く正しいけれど、あまりにあたりまえだと思うのですね。企業戦略説明会の「中期ビジネス方針」のように聞こえる。

ソニー創業者の井深大氏は「ソニー = モルモット論」を折りにふれて言っていました。これは、かつての評論家の大宅壮一氏が雑誌に書いた文章がもとになっているそうです。曰く「トランジスタはソニーが先鞭をつけたが、東芝が潤沢な資金を背景にトップになった。ソニーは東芝のためのモルモット的役割を果たした・・・・・・」。

井深氏はこの「ソニー = モルモット論」を逆手にとってメッセージを発信したわけです。モルモット = 実験台で十分だ、モルモットであることがソニーの使命だと・・・・・・。「人真似はするな。他人のやらないことをやれ」という創業者の強烈な思いが、そういう言い方になるのだと思います。

アナログか、デジタルか、ネットワークか、ソフトウェアか、コンテンツか・・・・・・。そんなことは関係ないのです。これらの要素はエレクトロニクス企業である限り、多かれ少なかれ全て必要です。そういうレベルの話ではない。誰もやらないことをやって新たなライフスタイルを提案する。ソニー製品を買うことによってライフスタイルが変わりそうな予感がする機会を消費者に提供する。それがソニーという会社の使命のはずであり、少なくとも我々はそう思ってきたし、そこに期待しているわけです。

1999年にAIBOが発表されたとき、井深大氏はもうこの世の人ではありませんでした(1997年逝去)。しかしソニーはAIBOを商品化することによって「ソニーはモルモットだ」ということを改めて世界中に向かって宣言したわけですね。そういう言葉は一言もなかったけれど、製品そのものが明確なメッセージを発していた。それは誰が考えても明らかでしょう。こんなに強いメッセージはない。



2012年3月14日の朝日新聞に「がんばれソニー」といオピニオン・ページが掲載されました。

戦後、日本の製造業の象徴だったソニーが振るわない。それは『ものづくり』国家・日本そのものの揺らぎでもある。どうしたソニー。がんばれソニー

というリードのもと、3人の識者の意見が掲載されていました。個々の意見の妥当性はともかく、一つ確実に言えることは、天下の大新聞が「がんばれ・・・」という特集を組むような会社は、ソニー以外にはちょっとないだろうということです。

このオピニオンの中で、元ソニーでVAIOの開発責任者だった辻野晃一郎氏は、未踏の領域に足を踏み入れて全く新しいものを生み出そうというソニーのマインドを踏まえて、次のように言っています。


私は、ソニーとは企業ではなく、生き方だと考えています。


なるほど・・・・・・。ソニーとは生き方である・・・・・・。辻野氏は1984年ソニー入社ということなので、創業者の井深・盛田両氏と身近に会ったことはないと想像します。しかしこの発言は、実質的に辻野氏が井深・盛田両氏の直系の弟子であること、いや、一番弟子とさえ言ってよいことを示しています。なぜかと言うと、井深・盛田両氏にとってソニーは「生き方」そのものだったからです。辻井氏が入社したときの社長は大賀典雄氏でした。その大賀氏は社長就任(1982)のとき「人より一歩先んじて物を考え、先んじて新しいものを出していかなければなりません。それがソニーの生き方なのです」と述べたそうです(2012.5.15 日経産業新聞)。その当時のソニー社内に共有されていた思いが、確実に辻井氏に伝わったと言えそうです。

ソニーとは企業ではなく、生き方である。このように(OBないしは社員が)言える会社は他にあるのでしょうか。「ライバルの」アップルはそうかもしれない。「私にとってアップルは生き方そのものです」と言うアップル社員は、いかにもいそうな感じがする。しかし他社ではほとんどないのではと思います。その意味でもソニーは希有な会社ではないかという思いを強くしました。その「DNA」は、まだソニー社内に残っているはずです。次のソニーに期待したいと思います。




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